Code.4 (11)
怒涛の9/14連投
冒険者協会はオルドワルド教会の助成によって設立されはしたが、それは協会が教会直下であるということを意味しない。
それは協会設立時、帝国が教会の権力、武力の過集中を危惧したためでもあるし、職の多様性を深めるという面でもあった。
故に、教会直属の冒険者は存在として矛盾を孕み、当然そのような存在があるはずもない。
…表向きは。
実際のところを言うと、冒険者協会に所属しながら教会幹部などの専属指名冒険者という存在は確かにあった。
そしてそれは半ば黙認されていた。
なぜ、強力な騎士団や守護天使がいるのにも関わらず、冒険者を求めるのか。
理由を挙げるのならば、冒険者のその武力と行動幅の広さに言えるだろう。
教会直属の騎士団は確かに強力だ。
だがしかし、それは守りの時に真価を発揮する。
聖魔法や要塞スキルを展開し、防護を主体とする彼らは侵害を許さない。
だが逆に侵略の面においてその能力はやや劣っていた。
さらに守護天使に関して、教会の力の一端を担っているシスターや神父達の運用上の難点として、持つ力が強大すぎておいそれと彼らを動かすことができないというものがあった。
守護天使達はそれぞれが唯一無比なほどの力を持つ。
教会の養成機関にて秘密裏に育成された彼らはありとあらゆる身体強化スキル、魔法スキル、回復スキルを高いレベルで習得し、絶対の忠誠と連携を持って対象を撃滅する。
それは、容易に一国を壊滅させることが可能なほど。
故に教会は軽々しく守護天使を動かせないし、一幹部の要請程度で動かしていい存在ではない。
その点、冒険者の扱いやすさは別格であった。
冒険者は、今や帝都人口の約四割を占めるほどの大人気職業だ。
今の時代、人類の平均ステータスの数値は過去最高を記録している。
戦えば戦うほど、鍛錬すれば鍛錬するほど人智を超えて強くなれる今の時代が人々をダンジョンへと駆り立てた。
何せダンジョンというのは何にしても金になる。
ダンジョンからあぶれた魔物を討伐すれば村や区から報奨金が出され、発生したダンジョンの調査をすれば教会から報奨金が出される。
未踏の高レベルダンジョンを進めば国から報奨金が出され、消滅させれば上記のすべての機関から報奨金が出される。
農家が30年ほどかけて稼ぐ金を一夜にして稼ぐことすら非現実的な話ではない。
勇者スキルの覚醒者の増加もそれを後押ししているようだ。
そう言った理由で冒険者の母数が極限まで増えたのだ。
そして当然、試行回数が増えれば良値を記録することも容易だった。
大抵は戦闘職、教会でいう騎士団のステータスのやや下あたりの数値を持ってダンジョンをゆっくり攻略していくものばかりの中、ほんの一握り、神に愛されたかのような存在が生まれていた。
例を挙げるなら、
氷の魔女、スヴァローグ・アステラ、
賢者、レイエナ・カルドウィン、
再炎、リナ・エンバースターク、
そして、
“人類最高到達点”、アーグマン・トニーム。
彼らはいくつものダンジョンを攻略し、何度も死戦を掻い潜り、時には教会と協力し、人類文明を発展させてきた。
そして彼らのような存在は一個人で莫大な力を持ち、それでいてどこにも属していない。
だからこそ、教会員の私兵としても動かしやすかった。
そしてそれは、決して冒険者側にとっても悪い話では無かったのだ。
富と権力が保障される教会の私兵としての立ち位置は、冒険者のゴール地点の一つでもあった。
そして今日、娘の押しに負けて会うことになった冒険者も教会の私兵として十分利益を生むことが可能な英雄の一人だった。
「ほう…これが。」
「ランク4ダンジョン、「廻閻城砦」のボスの魔石です。残存エネルギーから考えて、帝都の1/4ほどの産業を運用可能かと。」
「ふむ…。」
人の良さそうな若者だ。
最近プラチナへの昇格がなされたと言われる冒険者、グレイ・カートマンの気品のある立ち振る舞いを見、サラ天使直下エネルギー研究省副主任のユースタシア・ストリッチは二つの感想を抱いた。
「君が、私の娘の専属指名冒険者になったとして、何を望むのかね?」
「特には。カリエ様には恩がありますので、その恩返しの面にて参上した次第です。」
そして、危険な男だ。
目を伏せ、落ち着いた好青年のような所作をするカートマンの姿を見、ユースタシアは目を細めた。




