侵略者討伐軍 ⑤
怒涛の4/5連投
シュバルトの背に漆黒の翼が展開される。
闇の古龍由来の翼はドス黒い瘴気を纏わせシュバルトの軌跡をなぞった。
同時に纏われた龍麟は高速移動に伴い赤熱し、烈火の如き光と熱を放った。
高速分裂による肉体の修繕が完了した侵略者がシュバルトの方に向き直る。
咄嗟に防御姿勢を取ったようだが、自身の高速移動に耐えられる最低限の防御力しか持たないステータスではシュバルトの拳を防ぐこと叶わなかった。
龍麟により硬質化した拳が侵略者のクロスした腕にめり込み、そのまま貫通する。
熱と質量によって発生する物理ダメージは大した減衰もされずに侵略者の肉体を貫いた。
「gyaaaaaaaaaa!!!!!!」
侵略者が絶叫する。
音速を超えた高速移動の中、それがボス部屋に響く以前にシュバルトの足は横薙ぎに侵略者を捉えていた。
骨と肉を砕く以前のすり潰すような感触。
シュバルトの足はまたもほとんど抵抗を受けず、侵略者を今度は横に真っ二つにした。
切れ味など端から存在しない足によって分断された両半身は高速分裂における再生を遅らせる。
空にて手をバタつかせる侵略者。
慣性は完全に殺され、その速度が向く所はもうない。
{「血魔法Lv.10」を発動しました。}
龍麟がパージされ、剥き出しになったシュバルトの腕から血が吹き出す。
その血は一瞬にして無数の針のような形に姿を変え、侵略者の上半身をとらえた。
計14286発の楔が球形に突き刺さる。
文字通り針のむしろとなった侵略者を抑え込み、シュバルトは叫んだ。
「アヴァン!!」
{「要塞Lv.10」の発動を確認しました。}
{「要塞Lv.10」の発動を確認しました。}
{「要塞Lv.10」の発動を確認しました。}
{「要塞Lv.10」の発動を確認しました。}
{「要塞Lv.10」の発動を確認しました。}
{「要塞Lv.10」の発動を確認しました。}
{「要塞Lv.10」の発動を確認しました。}
{「要塞Lv.10」の発動を確認しました。}
{「連鎖Lv.10」の発動を確認しました。}
{「怨嗟Lv.10」の発動を確認しました。}
{「楔Lv.10」の発動を確認しました。}
その声と同時に青いフィールドが展開される。
が、その形はこれまでのものとはかなり変容していた。
球の頂点を中心に八分割したような形の青い障壁が、広がって鎖で繋がれている。
針を上から囲うように作られたそれに禍々しい瘴気を放つ楔がゆっくりとねじ込められていく。
その異質感に意識を取り戻したのか、針塗れになりながらも侵略者が暴れる。
が、ありとあらゆる筋肉と関節に突き刺さった血の針はその動きを阻害し、要塞スキルと連鎖スキルによって作り出された籠はそれを外に出すこと敵わない。
楔がゆっくりと障壁の中に入り込み、内部の侵略者に撃ち込まれた。
と。
「gaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!!!!!」
絶叫。
紫色の瘴気が楔から侵略者に入っていくのが視認できる。
それは亡者の腕。
憎々しげに侵略者の皮を、肉を剥ぎ、骨の髄を腐らせる。
高速分裂スキルが発動する。
が、それは侵略者が死ぬまで終わらない地獄の怨嗟。
ボス部屋中に侵略者の絶叫が響き渡った。
…。
鐘の音。
侵略者の金切り声が響く中、教会の説教壇が天から降る光にスポットされる。
撒き散らされた臓物や汚損したタペストリーは発生した聖なる光によって消失し、元の荘厳な教会の建築が復活した。
光があたりに満ち溢れ、天から祈るようなポーズをした女が白い羽を羽ばたかせながら降りてきた。
腰まであろうかという金髪を光背のように広げ、純白のキトンはその陶器のような白い肌をよく映させる。
さながら女神のような登場をしたこの階層のボス、カムアは光に透ける瞳をゆっくりと開いて言った。
「魔の子らよ…よくぞ私を救ってくださいました…あの魔の者に殺され続けた2年間…私の安らぎを返してくださって感謝の意を…………いやほんとありがとね?シュバルトちゃんにアヴァンちゃん、オルドワルドちゃん、後エヴァちゃん。ほんとにキツかったわよ。」
「そのような大仰な登場をするから復活時即殺されてたのではないか?」
半眼になったシュバルトの言に、カムアは説教壇の上に飛び乗り、肩をすくめて返した。
「私のビジュアルを見て本当にそれが言えるのかしら?この姿格好にボス部屋がこれなら登場時の演出はこれ以外ないじゃない!」
「カムアさん…タフですね。」
2年間殺され続けていたとは思えないほど元気なカムアにエヴァは頭を抑えて苦笑した。
「すげぇもんだな。まぁ、これで一件落着……アヴァン、まだ終わんねぇのか?」
服の汚れまでもが浄化されたことに感心しながらオルドワルドが未だ術を行使しているアヴァンに向き直った。
「…シュバルトの与えたダメージ的にはもう奴の息の根が止まっていてもおかしくはないと思うんだが…」
浄化されたとはいえ、未だ侵略者とその周囲を囲む術は残されていた。
亡者は絶え間なく侵略者を嬲り続けているが、その金切り声が消えることはない。
「攻撃力ですかね?HP回復が間に合ってしまっているのでしょうか?」
元の姿に戻ったエヴァが、メガネを直しながら侵略者を観察して言う。
「…いや、怨嗟スキルは自動回復などのパッシブバフを全て停止させる。攻撃力は低いがダメージは確実に入るはずだ。」
「そうはいうが、見た感じあいつの肉体は回復し続けてるっぽいぜ?」
オルドワルドが侵略者の剥がされた肉が再生していく様を指さして言う。
「あれは高速分裂スキルですね。私も持っていますが、あれは肉体の欠損を治すだけの効果であり、HPを回復させることはできません。それに、状態異常などを治すこともできません。」
オルドワルドの疑問をエヴァが解消する。
「なかなかしぶといのねぇ。」
「君が2年で育てた存在だ。誇りに思うと良い。」
「ど、う、も、あ、り、が、と。」
その皮肉にカムアはシュバルトの頬を突いて返した。
薄く笑ったシュバルトは、その腕を振り払う。
振り払った腕は、予想に反し地面に転がった。
「は?」
{「韋駄天Lv.10」の発動を確認しました。}
{対象の進化を確認しました。}
振り返った先にいたのは、カムアではなかった。
転がる自切された尻尾。
それが急速に泡立った。
切断面が瞬時に増幅し、肉の泡が膨らむ。
咄嗟に振り向く。
怨嗟に嬲られ無限に回復し続ける侵略者の体は未だに金切り声を上げていた。
歯軋りをする。
気づけばその存在は肉体の再構築に成功していた。
切断された尻尾から再生したそれは先ほどまでの侵略者の体より一回りほど大きい。
それ以外の身体的特徴はほとんど変わりなかったが、唯一違う点として、それには頭がついていた。
「あちらがトカゲの尻尾であったわけだ…!」
悔しげに言うシュバルトを見、侵略者は嘲るように口を歪める。
龍人のようなその顔面は如実に侵略者の感情を表していた。
状況は極めて逼迫していた。
すでに王吸スキルは終わっている。
そのほかのスキルもクールタイムだろう。
そして先ほどの通知によりこの存在はカムアを殺し進化をも完了した事がわかった。
詰んでいた。
侵略者が裂けるほどに笑みを深める。
腕が振り上げられた。
轟音。
死の間際に究極に鈍化したシュバルトの視界に映ったのは、拳。
侵略者の顔面をど真ん中で捉えてめり込む女の腕だった。
浄化された教会の内壁にまたも爆発が起き、クレーターが発生する。
そしてシュバルトは唐突に現れた女を認識して瞠目した。
「天使…様?」
カムアと同じような格好、だがそれよりももっと邪悪な気配を纏った天使は、侵略者を殴った腕を振りながら絶対零度の視線で言った。
「ここから先は最終防衛線です。」




