314 愛しさと切なさとはしたなさと
半泣きになってたクール系秘書ちゃんを獄洸魔法で救済執行しつつ、暗闇で影になってる他の面子に向けて外面用陰キャ救済人格たる五号が口を開く。
「95層の侵略者ですが、現在も変わらずボス部屋に留まりリスポーンしたボスを斃して経験値を貯めているようです。」
とりあえず、95層にいる元神の様子の確認は完了した。
Code.10から渡された転移位置からは結局変わらず、元神はボス部屋に留まり95層ボスをリスキルし続けてた。
うん。
いや、確かに経験値効率で言えばランダムエンカウントのフィールドキャラを倒すよりボスのリスポーンを待ってリスキルかけた方が良いんだろうけど、やってることエグすぎでしょうという。
人間狩るのに比べればSP上昇値なんてカスみたいなものだろうけど、それでも私が復活する前、Code.10の話によれば人間がギリ中位神くらいの魂の容量になったタイミング、つまり1、2年間経験値稼ぎをした元神は結構な具合に強化されてる。
この間五号が説明してた内容的には元階層+5って感じだったんだけど、こいつに関しては+10階層くらいの強化って考えても過剰じゃ無いんじゃないだろうか。
「やはりそうなっていたのですか…。」
シュバルトっぽい影が悔しげに言う。
「カムアさんがー?そう簡単にやられる人じゃないと思うんですがねー。」
空中に浮いている口がのんびりとした声で言った。
…何コレ?
「95階層の侵略者は他ステータスも然ることながら、速度のステータスが特に高いです。そのため復活直後の意識が戻る前に即死させられているようですね。又、それを防ぐ事ができても基礎ステータスの時点で侵略者に分があるため、結局敗北しそのループを強いられているようです。」
解説部分だけ五号に任せ、首から下の主導権を私に移動させる。
コントローラーを二つ持つことになるけど、神たる私の肉体はその程度の事を問題にしない。
空間魔法からさっきシュバルト宅で拝借したポテトを取り出した。
五号の解説で他の面々が唸るような声を出している中、空中に浮く口にそのポテトを押し込んだ。
「ふぁふぃふふんふぇふふぁー…あ、おいひい」
いきなり口に押し込まれたポテトをもぐもぐ咀嚼する口。
…楽しい。
「これ以上にステータス強化を見過ごすわけにはいきません。陣形はこの間説明した通りです。この侵略者は物理主体のステータス強化型な為、オルドワルドとアヴァン、シュバルトのデバフ、エヴァの行動阻害が必須となります。私は基本的に緊急時の最終防衛線として行動するため、私は居ないものとして戦闘を行なってください。」
五号が話している間、バケットに入ったポテトを次々と口に放り込んでいく。
「もぐもぐ…塩加減が…もぐ…絶妙で…もぐ…もっとあります?」
んなんかこれ餌付け感あって楽しいな。
会議の時妃奈がすんなり私に料理を運んでくれた理由が分かったような気がする。
「最終陣形の確認は以上になります。それでは、エリエル、魔法陣の座標設定を。」
「んぇ、あ、はーい。わかりましたー。」
と、ここで五号の話が終わり、話を振られた口ちゃんが最後のポテトを私の指から咥え取って魔法陣の方に向かってしまった。
残された私と、空のバケット。
そして塩のついた指先。
…指先。
迷いどころだ。
ゴットパワーをフルに活用し魔王軍の子達の前ではできる女ムーブをしていた私のイメージ的に、コレをしゃぶるのは少々解釈違いな感がある。
とは言え、私的にはコレをしゃぶらないという手はない。
なんてったってポテチにしろポテトにしろ結局一番美味いのは指に残ったこの塩とかパウダーとかであり、それをティッシュとかで拭いてしまうのはなんというか、どうしても勿体無さが勝つ。
私の五号的尊厳と、妃奈的食欲が拮抗している。
この問題を最もスマートに解決する方法は何か。
…コレだ。
「座標設定完了しましたー。多分コレで規定の場所よりやや後方に飛べるはずですー。」
口ちゃんが立ち上がったのかこちらを振り向きつつ言う。
「では参りましょう。くれぐれも死なない様に。」
「「はっ」」
五号の発破と同時にシュバルト達が転移魔法陣に飛び込む。
一瞬転移魔法陣が輝きを増し、注目がそれに集中する。
今!
ゴットパワー発動!
獄闇魔法、ついでに認識阻害発動!
私の指先が闇に紛れる。
さらに認識阻害により私の認識が極めて曖昧になる。
同時に指を口に突っ込む!
程よい塩加減が口内に広がる。
この間わずか0.01秒!
同時に転移魔法陣に触れる!
脱出!
「なんかいま死ぬほどくだらないことでフィールドが書き換えられた気がしたんですがー…」
背後で何か聞こえたけど、転移する私の耳には届かなかった。




