Code.10 (22)
「…セレンさん、アンドレフさん、お二人は物理結界を。アスナさん、ニアさんは魔法結界を半径1000m範囲、この地点から張展よろしくお願いします。」
「「はっ。」」
四人のローブを被った男女が消える様に散開する。
数分後、術式の発動と同時に薄いベールの様な結界がドーム状に貼られていくのを確認し、サラは草木生い茂る森の中に入って行った。
帝国外縁西。
大陸を縦断する山脈と、それ周辺の森林で構成される地点にサラはやってきていた。
最近になって出現した大量のSPを保持する存在の確認と、さらに最近その付近に突如現れた同格の存在の実態把握の為だった。
転移魔法で4人の天使を引き連れ、西部地方を捜査していたサラだったが、開始からそれほど時間を待たずターゲットの内の片方を発見していた。
そこだけ空間が刈り取られた様に草木が枯れている。
中心に存在するものの異質さか、それともそれに施された魔術によるものか、動物や虫、果ては大気すらもそれから離れて円形の広場を形成している。
{「念話Lv.10」の発動を確認しました。}
{リルラク・フォン・サラ…。}
削り取られた円形の広場の中心にいたのは、おそらく欠損がなければ身長180cm程度の男。
闇すらも吸い込む様な黒のローブはところどころ破け、血糊がついている。
他に特徴を挙げるとするのならば、その男は首から上が弾け飛んだ様に失われており、かつその全身が氷の檻に閉じ込められている点だろうか。
サラは、脳内に響いてくる首なし男の氷像の声に顔を顰めながらそれに返した。
「今は只のサラですが…何をしていらっしゃるんですか?Code.10さん…ですよね?」
…。
{…奴らの基礎倫理は暴力で構成されていてな。}
「…何方と?」
{始原と魔王に…主には魔王だったが。}
「…。」
{…出来れば私を助けてほしいんだがね。}
「…あっ…はい。今戻します。」
{「身体超強化Lv.10」を発動しました。}
Code.10の返答に一瞬停止したサラだったが、続いての返答に頭を振り、目を瞑ってCode.10を取り巻く空間に入り込んだ。
{「獄炎魔法Lv.10」を発動します。}
{「火龍Lv.10」を発動します。}
{「獄洸魔法Lv.5」を発動します。}
{「悟Lv.10」を発動します。}
サラの掌が赤熱する。
髪が逆立ち、半透明のそれに紅い光が反射し煌めいた。
サラは空間を焼き尽くすほど熱された両の手で氷像に触れた。
爆発的な蒸気が立ち上る。
封じ込められた空間が氷の解ける音と主に開放されていく。
一切の魔術干渉を拒絶する獄氷も、同種の獄炎と火龍の物理的な龍麟干渉の前に為すすべなく溶解して行った。
その様子に感心した様な声色でCode.10が言った。
{始原由来か。}
それに対し、サラは俯き極めて冷たい声色で返した。
「…やめて下さい。」
{…失礼。}
「…。」
{…。}
沈黙が流れる。
「…………熱くないですか?」
それに耐えかえねたのか、サラが口を開いた。
{龍麟の防御低下と獄炎の物理ダメージは少々入っているが、アレの前で無防備を晒し続ける心労と比べれば大したことじゃ無い。}
「…そうですか。」
{ああ。}
「…。」
{…。}
氷に閉じ込めた空間が獄炎に触れる叫び声の様な音だけが鳴る。
「…一つ、お聞きしますが。」
{何かね?}
「…現状についてはどれほどの理解を?」
{大体全てだ。全知の権能でも推測の分野でロスはあるだろう。そこら辺の回答を私は持っている。}
「そうですか。」
{ああ。}
「…天使側に興味はお有りですか?」
{勿論。…恐怖と暴力で解決する彼女らとはどうもウマが合わないのでね。}




