311 諦め
「…ですので、36層以降の侵略者への対抗策としましては…
「…。」
「…。」
テーブルクロスに遮られ、くぐもった五号の声が上の方から聞こえてくる。
私の手(?)から離れたパンの欠片は落下距離の関係から大した音も立てずに地面に転がる。
そして若干の木漏れ日()の中から私を絶対零度の視線で見下ろす妃奈。
「では、物理属性攻撃の特徴から、これら魔法型への対抗策を…
音といえば五号の声しかない空間。
私と妃奈の間に完全な沈黙が流れる。
「…。」
「…。」
そっと落ちたパンに手を伸ばした。
「触んな。」
「はい。」
かつてない程に冷え切った妃奈の声に滝汗を流しながら手を引っ込める。
{「獄冰魔法」の発動を確認しました。}
{「獄地魔法」の発動を確認しました。}
{「夢幻魔法」の発動を確認しました。}
妃奈の体が上下に分離し、おとなしく椅子に座る妃奈が新たに生成される。
入れ替わりは一瞬で上の方でもそれに気づいた様子は見られない。
そのまま円卓の下に滑り込んだ妃奈は、私の前に胡座をかいた。
「はぁぁぁぁ…」
クソデカため息を吐きながら、指先で私を突く妃奈。
「あう。」
「…女神様、尊厳って知ってる?」
「知ってる。」
頬杖をつき、私を突く力が若干強くなる。
「尊厳どれだけ壊していい?って、もしかして女神様自身も含まれてたわけ?」
「…フクマレテタ…イタイ。」
つねられる私の手(?)。
「女神様の食い意地って自分が◯ギーになるのを許容するレベルで高かったの?」
「暇だったんだもん。」
「終わってる…。じゃあ何?上で話してるのは誰な訳?」
「私だよ。」
「…器用だね。◯せんせー的な?」
「まぁ、実際は自我分離させて話してもらってるだけだけども。」
「神様パワーをそんなところに使うなよ…。」
私の返答に天を仰ぐ妃奈。
「欲求があって、それを為す力もある。ならばそれを実現させるのは容易。私の場合それがたまたま食欲で、力がゴットパワーだっただけなのだ。」
「ハァ…。」
「…。」
「…。」
沈黙が流れる。
ひとしきりため息を吐いたのか、ついに諦めた様な表情の妃奈が料理を私に渡してきた。
「…食べる?」
「たべるー。」
味覚と嗅覚は完全に再現ができている。
五号がなんやらかんやら真面目に話している中、当事者たる私は円卓の下で妃奈に餌付けされるのだった。




