310 パーフェクトステルス飯
一旦威圧を切る。
内部SP参照なら私の威圧は妃奈のそれを上回っちゃうんだけど、システム内部的に私の種族は一般魔物になるからそのSAN値消費量は獄禄の自己補完内で抑えられる。
ついでで認識阻害もちょっと解除しちゃったのがそこら辺全部打ち消しちゃった感あるけども。
威圧を切って数十秒後、私の顔面を見つめたままトリップしてた魔物たちが順次復活していく。
「…失礼。」
「大変申し訳ございません。」
目を覚ましたシュバルト君やアヴァン君が引き攣った顔で言う。
{「獄地魔法」の発動を確認しました。}
未だ固まったままな魔物たちも妃奈がデコピンで飛ばした石礫を頭に命中させて起こしてくれた。
「あう」
「ぎゃっ」
「ぐふ」
各々が其々の叫び声と共に起き上がり、一瞬あたりを見回したのち、妃奈の顔を見て椅子にきちんと座り直す。
めちゃくちゃ頭から血が出てるけど大丈夫なんだろうか。
ボタボタ溢れて服とかに血液が注がれていくものの、彼らは一切動こうとしない。
これ、私が話し終わるまで動かないやつだな?
そうだな?
そうなんだな?
…スゥ
…ふぅ
どうやらあれをやるしかないようだな。
ゴットパワー発動!
鑑定発動!
妃奈マインド一部抑制!
女神マインドウェイクアップ!
「というわけで、皆さんはこれから私の管轄下になります。意見は?」
妃奈マインドの私の意識が精神内部に押し込まれ、女神マインドの私が立ち上がって表で話し出す。
自我植樹の術式を転用したnewゴッドパワー。
妃奈マインドの私の意思に関係なく口が開き、言葉が紡がれていく。
静かではあるものの、潜在的恐怖を孕んだ女神モードの私の声に魔物たちは完全に沈黙している。
「いいでしょう。」
と、満足げに頷く五号の服の裾をちょいちょいと引っ張る感触。
見ると妃奈が先ほど引きちぎった私の腰の羽を手渡してきた。
「…いや、なんか女神モードやるなら片羽なんちょっとまずいかなぁって思って…。」
若干目を逸らしつつ言う妃奈。
五号はそれをじーっと見つめた末、そっとそれを手に取り、背中にくっつけた。
「ありがとうございます。」
「え、あ、うん。」
五号の全く笑わない顔面での感謝に汗をダラダラ流しながら返す妃奈。
ブチブチと皮膚が落ちかけた羽を拾い上げてく中、五号は再度魔物たちに向き直った。
…んなんかシュールだな。
「魔王城の現状に関しては皆さん理解をしていると思いますが、ここではまず侵略者たちの性質について詳しく説明していきたいと思います。」
脳内の私の言葉を無視して五号がスラスラと言葉を繋げていく。
「侵略者たちはシステム的には人類を喰らって成長した一魔物として認識されていますが、実態は全くの別物です。それに搭載された魂はSP吸収効率が嫌に高く、その性質上多対一戦闘において絶大な適正があります。それにより魔王城内部では侵略者によるエネミー狩りが行われ、単純なレベル補正の面でも、人間狩りほどではありませんが上昇し続けています。…そこの3人、血を止めても大丈夫ですよ。」
「「はっ」」
五号の指摘にさっきから血を流し続けていた三体の魔物がいそいそと治療をする。
光魔法がある子はそれで、ない子はさっき私をエスコートしてくれたメイドちゃんに包帯をまいてもらっていた。
そんな状況を尻目に五号は次いで話を続ける。
「また、他にも侵略者たちには特性があり、由来が魔王スキルではなく、且つ自然変化によるものでもないため、これらは魔王スキルの対象外です。よってあなた方には正面戦闘にてこれら侵略者を屠り、魔王城を再建していただきたいのです。」
…。
「これら侵略者はそれぞれの魂の強度から侵略先を決定されています。侵略開始から成長した分も踏まえると、それぞれの階層+5層程度の能力があると考えていいでしょう。」
…んなんか
「それぞれの侵略者に対しての攻撃軍は私が決定します。侵略者の鑑定結果は決定後それぞれの軍隊長に渡しますので何か意見がありましたら私か魔王までよろしくお願いします。」
…んなんか暇だな。
「またもう一つ覚えていただきたいことが…
五号モードの私が全部言いたいこと言ってくれるし、私よりもわかりやすいおかげで私の出る幕がない。
肉体の主導権は今あっちに渡してるし、妃奈モードの私は精神世界に押し込まれてるせいで目の前に並んでる食事を楽しむこともできない。
かと言って精神世界で色々始めたら五号モードの私の邪魔になりそうだし、うーん。
あ。
そうだ。
ゴットパワー発動!
システム接続!
変異発動!
{「変異」を発動しました。}
今回のために作った天使フォルムの天使衣装はなんかそれっぽさを演出するためにかなりヒラヒラして薄いところが多い。
太ももあたりに空いた謎穴から新たに作り出した腕を伸ばす。
元より私の肉体は変幻自在だ。
変異スキルの補助も相まってより身体器官の再現度は上がっている。
「…と言う様に第58層以降の侵略者達はその様な傾向が見られるため…
なんか五号が色々喋ってるけど関係ない。
今私がすべき事は卓上の飯を喰らうことのみなのだよ!
洗脳はまだ続いてる。
威圧発動から固まって私の食事を持ったままのオラオラ君を静かーに移動させ、そっと円卓の下にそれを運ばせる。
円卓の下に置かれた食事達を片端から掴み取り、服の下まで運搬する。
手のひらに口、先に眼球を作り、一部の皮膚の感覚神経を嗅覚に変更。
より鮮明になるグルメ達。
パーフェクトだぜ。
クックック。
これぞ最高神五号様の完璧ステルス飯だ!
いただきまー…ん?
唐突に円卓の下に一筋の光が差し込む。
見ると、円卓の下に入ってきた妃奈がこちらを見ていた。
ミ◯ーみたいな奴がお皿を並べて飯を食らおうとしている状況に目を丸くし、次いでそれの接続先が五号であることを見て、一気に哀れなものでも見る様な目になった。
「女神様…」
その悲哀の混じった声に、持ってたパンを思わず落とした。
ア:とりあえず。
山:はい。
ア:1週間開けた理由について伺っても?
山:「サンタちゃん」のイラスト描いてたら知らん間に1週間経ってました…。
ア:何故今更。
山:いや、その、自分の書いたお話が画像になるのってある種作家の夢みたいなところあるじゃないですか。僕の範囲だとそれを叶えるなら自分でやるしかないわけで…
ア:なるほど。
山:暇な時間は全部絵描くのに使ってたんです。こっちを書く時間など無かった。
ア:でも30日間連続投稿して、見てくれる人が増えてきたってタイミングでこんなに休んで、間接的にさっき言った夢遠ざけてますよね。
山:アッ
ア:アホなんですか。




