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ミクロな世界の女子大生  作者: やまとりさとよ
第八章 ミクロな世界の侵略

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Code.2

怒涛の23/30


「前村龍樹が死亡した。」


「…。」


安曇真澄は1000年来の友人の死を極めて淡白なセリフと共に知らされた。


「傀儡殿は壊滅的な被害を受けており、下層へは空間的乖離を持って侵入不可能となっている。前村龍樹の生命反応は途絶、Code.5もまた行方がわからなくなった。」


「…。」


扉の前に立った男の言葉を脳が理解する前にそれらは解けて消えていく。


「下手人の正体は未だ掴めておらず、現状わかっている事は空間に干渉できるということ、傀儡殿を踏破可能であるということ、前村龍樹を殺害できるということであり、以上のことを踏まえて君には魔術回路動力源としての仕事を一時中断し、シェルターに移動してもらいたい。」


「…。」


魔術回路は安曇の手の中で動き続けている。


これらが教会の防護結界、魔法医療、魔術研究に利用されているということを安曇は知っていた。


「シェルターはさらに地下になる。防護魔法の動力源をまた君に任せることになってしまうが、安曇君が侵略者にやられてしまう方が問題だ。窮屈な思いをすると思うが、どうか私とついてきて欲しい。」


「…石田さん。」


安曇はそこで初めて魔術回路から手を離し、扉の前に立つ男、石田和也に椅子を回して向き合った。


「何だ?」


「龍樹を殺せる奴に、教会が対抗できると思ってるの?」


「…現状では厳しい。だが、最悪を回避することはできる。今の最悪は安曇君が殺される事だ。」


「嘘よね。」


安曇の言葉に石田は目を剥いた。


「…何?」


「私は教会の魔力源よ。教会内で私の力がどうやって利用されてるか知れないわけがない。あなたが研究してた保護シェルター、実際は特定の人間を防護魔術で閉じ込めるためのものでしょう?」


「…。」


「きたる脅威に対し、今の教会のリソースは絶対的に足りない。Code.2のエネルギーリソース割合をもっと増やす気なんでしょう?あなたなら知ってるわよね?世界エネルギーは世界そのものを運用するためのエネルギー、私の器で無理をしようとすれば容易に決壊するって!」


安曇の言葉に、苦虫を噛み潰したような表情になった石田が、絞り出すように言葉を発した。


「それでも…だ。」


「は?」


「Code.5は人類側の希望だった。SP運用において分与と簒奪の能力は必須、魔王軍との対抗手段としてもCode.5は決して失ってはならなかった。」


「でも奪われた。」


「そうだ!その魔王軍は既に臨戦体制に入っている。バックについているのは管理者だ。それに加えて第三陣営の介入など、あってはならない事だった!」


「でも介入された。」


「人類文明は二度目の危機に瀕している。一度目はまだ保険があったが、二度目はもうそれすらない!崖っぷちだ!対抗策とエネルギーリソースが必要なのだよ!早急に!」


石田の唾を飛ばす勢いの演説に、安曇は耳を抑えながら失望したような目で返した。


「じゃあ騙し討ちみたいな形にするべきじゃなかったわね。あなたは人類文明の存続を大事に思ってるみたいだけど、もう同族に刃を向けちゃってるじゃない。あなた、本当は自分が生き残りたいだけじゃなくて?」


その言葉に石田は口の端を引き攣らせ、青筋を浮かべて返した。


「黙りたまえ。別にCode.2が君の手にある必要は無いんだ。教会は既に魂容量を外から成長させる方法を確立している。君以上に容量があり、君以上にCode.2を十全に扱える者にそれを移してもいいんだぞ。」


石田の脅しに安曇は鼻で笑って返した。


「でも1000年以上のノウハウがその子には無い。可哀想な子供の脳味噌を改造して好きなだけエネルギーを取り出せたとしても、世界エネルギーは人間の器で治るような者じゃ無い。正直、私とその子の器の差なんて世界エネルギーの容量と比べたら塵みたいな差よ。あなたの命令に沿って今よりちょっとでも蛇口の口を開こうものならその瞬間その子の器は壊れてエネルギーは暴発、魔王軍に滅ぼされる前に人類文明はお釈迦でしょうね。」


轟音。


壁に拳を叩きつけた石田が、地獄の底から響くような声で言った。


「黙れ。1000年のノウハウと知識ならば私の方が上だ。Code.7でCode.2を運用し、最大効率で教会の攻撃力を上げる。これならば先程言ったような事も起こらん。それが嫌ならば私に協力しろ。安曇真澄。」


それに対し、安曇は諦めたように脱力し、手をヒラヒラさせて答えた。


「…そうまで言われちゃ抗えないわね。いいわ。好きにすればいいじゃない。」


「来い。」


安曇の顔も見ず廊下に石田が戻っていく。


ため息をつき、安曇は椅子から立ち上がった。



…。



「ここが今日から君の部屋だ。存分に教会に協力してくれたまえ。」


「質素な部屋ね。マカロンはないのかしら。」


「…。」


石田はそれに返さず、黙って扉を閉めていった。


鍵のかかる音がした。


新たな部屋は、先ほどまでいた部屋よりも広いが、極めて質素だった。


真っ白な壁、真っ白な床、真っ白な天井。


天井には丸型の照明が一つ、部屋の隅にベッド、あとは円形の穴が中心に空いているテーブルだけがあった。


何とは無しにテーブルの前に座ると、穴の空いたテーブルから料理がせり上がってきた。


「なるほどね…。」


上がってきたチャーハンはまだ温かく、ほんのり湯気が立っていた。


スプーンを取り、それを掬い上げる。


「…一人になっちゃったや。」


真っ白な部屋。


啜り泣きの音は、食器とスプーンが当たる音にかき消された。

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