Code.10 (17)
怒涛の5/30連投
運勢と運命は極めて身勝手に今後の指針を捻じ曲げるものだ。
それでも我々はそれが真っ直ぐ未来に続くと思い込んで進むしかない。
小崎梓は自身の腕の中で震えるサラの頭を優しく撫でながら、焼けた書斎で防護結界を貼り直している司祭に口を尖らせて言った。
「…流石に言い方ってものがあったんじゃ無いですか?」
「…すまない。」
「…。」
「PTSD患者に荒治療は禁忌でしょう。」
「…すまない。」
「…。」
短く溜息をつき、先ほど別室から移動させたソファの上でサラを落ち着かせる。
サラは女神の苗床として酷い扱いを受けていた。
レベル60程度の人間がたかだか数ヶ月でレベル100になる程の日々など、想像もつかない地獄だろう。
女神に操られている間自我は希薄だったようだが、彼女の記憶領域にはその日々が刻み込まれている。
サラは今でも眠れない夜を過ごしているようだった。
そしてそれ以前に、帝国の法では成人しているとは言え、彼女はまだ子供だ。
腕の中にすっぽり収まるほどに小さいその体を、小崎は背後から優しく抱きしめた。
「…して、神父はいつ頃到着する?」
「神父さんならレーニン家を担当した地方教会に確認をしに行ったので、終了次第飛んで来るかと。」
「わかった。」
サラの頭の上に顔を乗せる。
サラはそれに嫌がる様子もなく、小崎に身を委ねてきた。
呼吸も大分落ち着いてきたようだ。
穏やかに、ただ慈愛をもって。
少女の温かい体温があった。
…。
{「時空魔法Lv.10」の発動を確認しました。}
空間が捩れ、扉の先が歪む。
その波動に気付いたのか、寝ついていたサラの肩が跳ねる。
「おはようございます。」
「あっ…すみません…私…。」
「大丈夫ですよ。」
「え?…あ…え…?」
わたわたと動き、小崎の腕の中から抜け出そうとするサラの体をホールドする。
困惑の声を発しながらもがいていたサラだったが、暫くして諦めたのか、大人しく小崎に後ろから抱かれる形で停止した。
「ただいま戻りました。」
「…ご苦労だった。」
扉の先から神父が帰着の挨拶と共に現れる。
その返答をした司祭に軽く会釈をした後、神父は小崎を見て目を半眼にした。
「…お前それ。」
「なんですか?」
「…嫌、なんでも…。」
神父は小崎の鋭い目線に耐えきれなくなったように目を逸らし、焼け焦げた部屋に視線を移した。
サラはそれに顔を赤くしてまた動き始めたが、小崎はそれを離さなかった。
「…女神ですか。」
「…これをやったのは魔王だがな。」
二人は共に重苦しい溜息を吐き、呟く。
「まあいい。これで天使が全員揃った。これより今後の我々の行動計画会議を始めようと思う。」
気を取り直すように司祭が声を上げる。
「…すみません、取り敢えず場所変えませんか?今ちょうど下の会議室空いてますし。」
小崎はそれをぶった切る様に言葉を発した。
「…そうだな。…移動しよう。」
再度溜息をつき司祭は防護結界の術式を中断し、神父に目配せをした。
「…お前なぁ。」
神父はさらに半眼になって小崎に向いた。
「…。」
小崎はそれを無視し、サラを持ち上げた。
「え??え???」
サラは困惑の声を上げた。




