Code.1 (24)
「本日は、第3回魔王城攻略に関して皆さん優秀なアドヴァンダルの方々に助力をいただきたく…
身長は160を超えているかいないかくらいの痩身の女。
シスター服に身を包み、フードから出ている髪は栗色だ。
顔はやや童顔だが、纏う雰囲気がその年齢を誤認させる。
張り付いた柔和な笑みが逆に妙な凄みを醸していた。
「…魔王討伐作戦に関し、我々教会は過去2度に渡り魔王城の攻略を行ってまいりました。第一回ではアーグマン・トニーム、グレイ・カートマンやアーク氏などの功績もあり第35層到達、追加調査で37層前半までの座標特定に成功…」
オザキアズサと呼ばれたシスターは過去の魔王城攻略作戦についての説明をしている。
魔王に関しての情報は、地球への帰還を目指す俺にとっては重要な情報だ。
この説明はちゃんと聞く必要がある。
聞く必要はあるのだが、正直俺の頭はそんな場合じゃなかった。
オザキアズサ!?
今オザキアズサって言ったか!?
心臓が暴れる。
体温が上昇し、呼吸が若干乱れるのを感じた。
和名…いや日本名だったか、明らかに名前の響きが違う。
話している言語は異世界語だが、はっきりとその名前だけは日本語で聞き取ることができた。
オザキアズサ…漢字に直すとするなら小崎梓だろうか。
この世界の人間は人種という概念があまりみられない。
顔立ちは西洋っぽさもあれば東洋っぽさもあるし、肌の色も真っ白な奴もいれば真っ黒な奴もいる。
髪の色なんか赤から青から緑から白から光の三原色で作れる色なら全ているんじゃないかってくらい様々だ。
しかし、ここで小崎さんの顔をよくみてみると、完全に東洋人の顔立ちだ。
ここの異世界人の顔立ちとは若干違う、寄っているというより、純粋なアジアの血を感じる。
間違いない。
この人、小崎梓さんは、日本人だ。
「…しかし、近年の魔物の活発化による魔物被害は教会としても看過できない程のものです。地方の防衛を強化していますが、一般に魔王城中層付近にみられる様な魔物や、突然変異などが見られ、これをみて教会は…」
小崎さんは話を続ける。
俺は転生者としてこの世界に来ている。
だからこの体はレーニン・ユーリーンのものだし、声や顔立ちなんかは異世界人そのものだ。
だが、小崎さんは違う。
ひょっとして、この世界に来る方法が違ったのか?
俺が死んで新しい体に生まれ変わる転生だとしたら、小崎さんの方法は転移とでも言えばいいのだろうか。
小崎さんが純日本人だと考えるなら、それで辻褄が合う気がする。
まぁ、来方に関してはあまり問題じゃないだろう。
俺以外に日本人が、転生者がいたという事実が何よりも肝要だ。
「…よって、皆さんには魔王城攻略の手助けをしていただきたいのです…。何か質問はありますか?」
小崎さんが話を終え、一呼吸ついてから俺たちを見回して質問を問う。
…小崎さん視点で、俺は只の異世界人にしか見えないだろう。
だから、俺も同じ転生者だという事を知らせなければならない。
挙手をする。
「はい。そこの君。」
「はい。魔王城攻略に際して僕達は後方支援を担当すると聞きましたが、具体的にどの様な事をするのですか?僕は支援職というよりは前衛職で、後方ではあまり役には立たないと思うのですが…。」
「そうですね、後方支援と言っても、只前衛との関わりがないわけではありません。前衛職の方々には、怪我人の運搬のための守備や…」
俺の質問に小崎さんが答える。
質問は適当だが、ある程度はちゃんと当てはまっていた様だ。
「…ということになります。大丈夫でしたか?」
小崎さんの回答が終わる。
ここだ。
さりげなく、日本人にしかわからない方法で…
「はい大丈夫です『ありがとう』ございました。」
頭を下げる。
“ありがとう”だけというところだけ日本語に直してみた。
他の皆はたいして気にしていない様子だったが、小崎さんだけ唯一眉がぴくりと動いたのを見た。
…今日これ以上の接触は無理だろう。
幸い俺は魔王城攻略の一助足りうると教会から判断されたらしい。
おそらくまた会う機会もあるだろう。
次の接触で何か情報を共有できる様にしておこう。
俺は机の下で拳を握った。




