Code.10 (14)
「Code.についての今後の取り扱い方…っていうか、私たちの最終目標的にCode.をどうすべきかっていうのは、ここまでの会議で説明したように、Code.類を集めることでシステムを自爆させるとこにある。」
女神はホワイトボードに書いた『Code.1〜9』の文字に赤丸で強調した後下矢印を描き、その下に『自爆!』と記した。
「んで、さっきCode.1君の所在がわかったことで、これで全部のCode.の所在が確認できた。…だよね?」
女神が根室に聞く。
それに対し根室は目を薄めて顎に手を当てた。
「えーっと?1がさっきのユーリーン君のいる地方の貴族、2が初代で石田んとこよね。3、4を女神様が持ってて、5も初代で石田?いや今ダンジョンやってんのか。6は北部高原の奴、7が石田で8が私、9も女神様って感じかな?」
「オーケーオーケー。ほいでここからが交渉だぜ。」
女神は根室の説明に頷き、ホワイトボードを転がして席に戻った。
正面に対峙したCode.10が若干机から椅子を離す。
「あ、ごめん、妃奈、やっぱ席変わって。」
「ん、ああうん。」
違った。
女神は根室と席を交換し、石田の前に改めて座った。
こうなる事はわかっていた。
石田の今の状態は女神にとっては少々不都合だろう。
そも、石田は女神から恨みを買っている。
しかし、ここで妥協すれば人類の今後は世界の終了という形で潰えてしまう。
存続こそが天使の役割なのだ。
女神は根室の顔で、根室が石田に決して見せない屈託の無い笑顔で言った。
「Code.2とCode.5を私に捧げなさい。」
「断る」
「そう。」
{「身体超強化Lv.10」を発動しました。}
{「要塞Lv.10」を発動しました。}
{「要塞Lv.10」を発動しました。}
{「天使Lv.26」を発動しました。}
{「時空魔法Lv.10」を発動しました。}
{「聖洸魔法Lv.10」を発動しました。}
{「身体超強化」の発動を確認しました。}
{「獄地魔法」の発動を確認しました。}
{「時空魔法」の発動を確認しました。}
背後でホワイトボードが変形し、石田の首から下を絡みとる様に拘束する。
全身全霊を持ってそれから脱しようとするが、世界の理そのものである獄地はそれを許さなかった。
数瞬の隙。
身動きが完全に封じられ、一瞬開いた思考の空白に魔王が滑り込む様に肉薄する。
気づいた時には拳は目の前にあった。
障壁の張展は意味をなさない。
目の前で砕け散る二枚の障壁を意識が認識する以前に石田の世界は激しい衝撃と共に二分される。
頭蓋の半分。
拳がめり込んだ左目から側頭部、それに引きずられた上顎が弾け飛んだのを自覚した。
残った右目が左半分から飛び出る筋のかけらを映し出している中、石田は削れた肉体をSPで回復させようとする。
しかし魔王はそれを許さなかった。
片手で掴みやすくなった頭を掴み、指を頬にめり込ませ、青筋を浮かべながら上方にそれを引き上げる。
SPの上昇とそれに耐えうる器の最も外殻として相応に強化された肉体も、システムの調和装置として作られた石田とシステムの処理装置として作られた魔王のものではその強度の格が違った。
魔王の腕力によって引き上げられた頭蓋は接続された脊髄と共に肉体から引き抜かれる。
軽い浮遊感と虚脱感。
直後の衝撃。
転移で状況から脱しようにもそれすらエラーに防がれた。
聖洸魔法の影響で未だ意識を保つ石田は書斎に転がり、必死に眼球を上に向ける。
そこには、出来の悪い蛇の様な姿になった石田を何の興味もなさげに肉を食べながら見る女神の姿があった。
「交渉は決裂かなぁ、石田?」
「こんな…所業に…交渉もクソも…あるか…。」
俯き、震えるCode.10が返す。
「そう?めっちゃわかりやすくてやりやすい交渉だと思うんだけどねこれ。
力こそパワー、筋力=実力!みたいな感じで。」
石田は必死に言葉を発しようとするが、声帯が引きちぎられ、肺すらない状態で物理的に話す事など不可能だった。
{「念話Lv.10」を発動しました。}
{管理者同士の争いのリスクを考えろ!その説明は自身がしていた事だろう!}
念話で直接話す石田に聞こえてなどいないだろうに耳を両手で塞ぎ、鬱陶しそうにしながら女神が言った。
「どうせそのくらいなら死なないし。これくらい自己補完の範疇でしょ?」
「うっわ…脊髄ピクピクしてる…。」
{だとしてもだ!我々はより建設的な方法で状況を改善するべきだ!上位存在としてシステムを運用する立場ならば!}
「格の話をするならシステムを管理してる天使と魔王をさらに管理する私に無条件で運用されろよ。」
席から立ち上がり石田の元まで来た女神は、しゃがみ込んで見下ろしながら言った。
{私がどうなろうとこうなった以上は彼らを貴女に捧げる気はない!断じてだ!}
「はぁ…。」
怠そうに女神はため息を吐くと、立ち上がり、魔王に寄って言った。
「そろそ帰るか。」
「んあ、え?マ?」
目を瞬かせる根室に女神はこちらを一瞥して言った。
「まぁ、石田が了承する訳ないとは思ってたし、状況の擦り合わせとか牽制とかしたい事は大体全部出来たしね。」
「えー。でも絶対あいつ色々邪魔してくるよ?殺すまで行かなくても色々折っといた方がいいんじゃない?」
ゴミでも見る様な目線で同じく地面に転がる石田を見る根室。
「まぁ、石田の言うとおり実際これ以上の消耗は微量ってもシステムに負荷をかける行為ではあるから。これ以上やるにしてもどうせ聖洸でクソ耐久してくるだろうし。底も知れたでしょ。」
「まぁ…うん確かに?」
首を捻り、若干不満げな根室の背中を押しながら女神が再びこちらを振り向く。
「ほんじゃ、もう私達帰るから。また会おうぜ。」
「死ね!」
{「時空魔法」の発動を確認しました。}
{「獄炎魔法」の発動を確認しました。}
二人が空間の歪みに消えていく直前、中指を立てた根室が最後の嫌がらせだとでも言うかのように炎を放っていった。
一瞬にして獄炎に包まれる執務室。
「すまないが私も帰らせてもらおう。これ以上始原に探知されては敵わない。」
女神が完全に消えたことを確認したCode.10は、椅子を弾け飛ばす勢いで立ち上がり、即座に腰に持っていたタブレット端末をいじりながらその場から消失した。
肉体の半分が再生し終わった石田は肉を獄炎に焼かれながら、深く、深くため息を吐いた。




