292 転生体
「条件はCode.1への不可侵。対価は私が直接お前を害することの禁止。それでいいでしょう?」
魔術に設定を組み込む。
魔術的な格と契約締結者の関係性からこの契約は有効性を持つ。
いざって時に私がこいつを直接殴れなくなるのは問題かもだけど、私を害しようとする事の問題を理解できない頭じゃないだろうし、Code.1の対価としては丁度いい塩梅なんじゃないだろうか。
左手に込められた魔力が術式に染み込み、この儀式と魔術が接続された。
「…問題ない。原初の女神よ。」
「じゃ、決まりって事で。」
Code.10が私の手を取る。
儀式が完遂され、術式が起動する。
手の内で発動したそれは、腕を通し、肉体に入り込み、魂を縛る。
見えない鎖で天に釣られた。
無事に契約が完了した様だった。
手を離す。
即座に手を引っ込めたCode.10が自身の左手を庇う様にして私から距離を置く。
「その反応は若干傷つくんだけど。」
「自己防衛の一環だ。」
…。
「…成程、縛りね…。」
眠りから醒めた妃奈が頭を掻きながら呟く。
「女神様はこれで一切そいつに手出しできなくなったけどそれは大丈夫なの?」
「別に大丈夫でしょ。Code.10程度の能力じゃ私を害する事なんて不可能だし、…別にいくらでも方法はあるし。」
「私は原初からのいかなる干渉も害と見做す。」
私の笑顔にCode.10は心底嫌そうな顔をして答えた。
反抗期かな。
「…まぁ、それは一旦よしとしようか。Code.10のせいで大分話がずれちゃったけど、元の話は人類、というか今のCode.1の継承者がその権能に耐えられてる理由その2よね。
まぁもう一つ考えられる理由を上げるのなら、その子の魂の構成要素がシステム実装日にCode.1を継承して爆散した初代勇者のものを多分に含むからだと思う。」
「初代勇者?」
「西原秀治…私がCode.1を継承させるべく魂の容量の増加方向に成長させた初代勇者のうちの一人だ…。」
妃奈の疑問符に石田が回答する。
「そう、おそらくだけど、その西原くんの魂はCode.1による自壊と共にシステムに吸収された筈。それ以後Code.1が誰にも発現せぬまま今日まできたってことはその時システムに吸収された時のまま保存されてるってこと。…石田に成長させられたCode.1を継承するための素養が。」
要するに私の転生と似た様なものだね。
そのCode.1君の自我の面では自己統一性は保たれて無いけど、中身、というか魂は殆ど完全にその子のものだろうし。
つまりその新しく生まれたCode.1の子は半分くらいCode.1の転生体って言っていいんじゃないかな。
元より増強されたその素養に今日までエネルギーを吸い続けた人類の魂が欠け合わさってCode.1の器たる存在が誕生したわけだ。
山:短謝
ア:何故
山:切良
ア:計無
山:限界




