291 継承条件
祝・400話
「Code.1は、…あれはシステム開始日に私が育てていた初代勇者、西原秀治に継承されたが、彼はその権能に耐えきれず自壊、その後の行方は現在までわかっていない…。」
私の言に石田が額に汗をかきながら言う。
「…そう。その通りそれが問題1。その初代勇者君が自滅した時点でシステムは起動してたはずだから、シミュレーション内の魂循環プロセスに従って彼のSPと経験値は周囲に分散したはず。おそらくその過程でCode.1も失われたのだと思うけど、権能自体が消滅することはない。女神の権能はシミュレーション内である一定の範囲内の効果があるけど、元が原初の権能である以上その力そのものを分解することは出来ないはず。システムに還元されてない上、今なお人類のSPが上昇してるってことはCode.1は確実に生きてる。しかもおそらく人類のステータスに。」
妃奈が肉を取り出したのを確認し、私は話を続けた。
「んー。でもそれで石田は1000年探して見つかんなかったわけ?つーかお前私にも昔協力要請入れてたよな。」
プレートに肉を並べながら妃奈が石田に懐疑の目を向ける。
「…発見は出来ていない。Code.継承は術者を殺す以外では誕生時点でその身に宿る。覚醒している覚醒していない関わらず、特典スキル欄に確実に表記される仕様だった。だから私は天使に任命した教会の人間を各地に配置し、Lv.16以上の鑑定を有した神父達に新生児の祝福と登録を兼ねて特典スキル欄の鑑定を1000年近く続けてきたが、未だにCode.1発見の報告が来た事はない。よって魔王陣営に継承が為されたのかと考えたのだが…。」
「私のとこの魔物達は全部NPCってわかってんでしょ。ステータスは全部私が設定できるし、Code.持ちを殺さない限りCode.が入り込む隙なんてない。」
石田の目線を切るように妃奈が顔を傾け、刺々しい声色で返す。
石田の言う通り、Code.1が今日まで誰にも継承される事なくシステムの中を彷徨いてたってのは確かなんだろう。
実際1000年以上生きてる奴なんてCode.持ちの初代継承者か天使くらいだろうし、人類も何サイクルもしてるから今この世界にいる全員に鑑定を使っただろうしね。
まぁ只、実装日にCode.1が魂循環のサイクルに入り込んで、かつ人類に継承される事なくエネルギーだけを回し続け、拠り所を探し続けてると考えるのなら、見つける方法、と言うか無理矢理顕現させる方法…うーん、方法というか事象というかがある。
というかもう完遂してるんだけど。
「まぁ、実を言うとCode.1に関して見つけられないって問題はもう半分解決してるようなものなんだけどね。」
「!?」
「え?」
私の言葉に石田と妃奈が振り返る。
「Code.が本来の拠り所を探して彷徨っているのなら、安定した形を得るために私の元に還ってくる。Code.1はその特性故にシステム内の肉体だった頃の私じゃ拠り所足り得なかったんだろうけど、私の今の肉体ならば、許容値は別として魔術的な立ち位置としてだけなら拠り所たり得る筈。」
そう、私が崩壊パックの中で目覚めた時、私の魂に引き寄せられてCode.3を宿したクマムシが寄ってきた時のように。
魔王城第10層で洞窟を彷徨っていたCode.9が私の元に現れたように。
そして森の中で一号にエンカウントしたCode.4君や、北部高原で五号にエンカウントしたCode.6、原っぱのど真ん中で二号にエンカウントした天使のおっさん。
Code.は宿主の意思に関係なく中枢かつ女神たる私の魂に引き寄せられる。
分体への猶予が半年だったのもそれを加味しての日数だったわけだ。
そしてそれはCode.1とて例外じゃない。
バクテリア時代の私じゃ力不足でも、女神ぼでぃを女神の魂が得たことはかなり大きなきっかけになった筈だ。
「…失礼、念話だ。………そうか。………そうか。……わかった。………ご苦労。」
と、ここで石田が耳に手を当て立ち上がる。
何度か頷いた後、石田の目が見開かれる。
「…女神様、焼けたよ。」
「やったぜ。」
妃奈がこの間に焼けた肉を小皿に分けてくれる。
うん。
うん。
うん。
美味い。
いやぁ、マジで妃奈にCode.8あげてよかったぁ。
「…失礼した。」
私たちが肉を楽しんでいると、念話を切った石田が再び席についた。
「どうだった?」
「地方の元貴族の家だ。勇者の家系で元々教会での鑑定優先度は上だった。…レーニン家、そこで先月生まれた赤子に今日鑑定を行ったところCode.1の発現が確認されたと。名はユーリーン。レーニン・ユーリーンだそうだ。」




