Code.4 アインの場合 ⑵
村の人々はグレイを英唯扱いした。
村で二番目に大きい家が提供され、たくさんの食料や物品が渡されたが、グレイはその中で金品だけは頑なに受け取らなかった。
「富などは要りません。それらは魂を腐らせてしまう。」
これがグレイの言い分だった。
その高潔な物言いに、村人からのグレイへの好感度は只々上がり続けるのだった。
…
グレイが完全に村の一員として認められ、グレイが数々の村の女からの求婚をやんわりと断り、男達に武術を指南する日々にも見慣れたある日。
村の警鐘が激しく鳴らされた。
3回の連続した音が繰り返される。
魔物の大移動に匹敵する緊急事態。
村の周辺を見張っていた男がすぐに報告を行った。
報告を受け、村の男達が集まった。
「狼型の…魔物が…白い魔物だ…村の周辺に近づいている…!」
「白い…?」
「狼型の魔物だと?数は?」
「一匹だ。…見た限りだとな。」
「一匹だと?たかが一匹の魔物の遭遇だけで緊急事態を出したのか?」
「ステータスが尋常じゃなかった!オーバーSランク、各ステータスが10000を超えてる!この村の防衛機能の上限を有に超える存在だ!」
「10000だと?考えてものを言え!そのレベルの魔物ならば神話級の存在だ!」
「だが、俺ははっきりとこの目で見た!2メートル強の体躯、銀の毛並み、そしてそいつから放たれる圧倒的なプレッシャー!これは緊急事態だ!あれが村に来たらひとたまりもない!」
「…一ついいですか。」
と、ここでこれまで沈黙を保っていたグレイが手を挙げた。
男達は村長含めハッとした表情になり、グレイに向き直った。
「グレイ君の意見を聞きたい。」
「ええ。一つ。…私はその白狼と面識があります。この事に関しては私に全て任せていただきたい。」
「面識…だと?」
「ええ。私の記憶が確かならば、その白狼はとても重要な存在だ。決して手出しはしないように。」
グレイのある種不遜とも言える言葉に男達は一瞬黙り込んだ。
「あ…ああ。グレイ君が言うならば信じよう。して、我々はどうすればいい。」
いつもの柔和な笑みを引っ込め、目を薄め、冷徹な表情になったグレイに若干気圧されつつ、男達は頷いた。
「簡単な話だ。白狼の相手は私がしましょう。あなた方は家から出ないか、武装解除して私の後ろに居てください。」
「武装…解除だと!?何を馬鹿なことを!」
「村長。これは重要な事なのです。彼の方の前で武装を持つことは極めて失礼だ。…そうでなくとも、血迷って攻撃を仕掛け、彼の方の怒りを変えばこの村どころかこの森が地図から消えるでしょう。」
「彼の方…?一体白狼は何者なんだ!」
「一旦それは置いておきましょう。その時がくればわかります。その時は、私の言う事に全て従ってください。」
「…わかった。…だが、もしその白狼がグレイ君の頭の中にいる存在だったのならどうする?その場合我々は武装無しでオーバーSランクの魔物に相対しなければならない。」
「その場合も問題ありません。10000程度のステータスの魔物など、私の相手にもならない。」
「そ…そうか…頼んだ、グレイ君。」
男達はグレイの圧に何も言えずに黙りこくった。
…。
そしてその日が来た。
アイン達は家に押し込められ、扉は家具で厳重に固められた。
カーテンは閉め切られ、隙間からかろうじてグレイ達の姿が見えるだけだった。
空は曇天として暗く、季節にしてはやや冷たい風が吹いている。
アインは母と共にカーテンの隙間からグレイ達の様子をのぞいていた。
一陣の風が吹く。
…前触れはなかった。
森の一瞬のざわめきの間。
草葉が風にさらわれ転がるその隙に。
村の前には巨大な白狼が悠然と立っていた。
その威圧感に、家全体が揺れているのをアインは感じた。
グレイに言われた通り武装解除状態で立っていた男達が狼狽えるのが見えた。
中には圧に押されたのか尻餅をついたものもいる。
しかしそんな中でもグレイが白狼に立ち向かい…
そして跪いた。
あっけに取られる男達を尻目に、グレイが口を開く。
「お待ちしておりました。女神様。」
「め…がみ…?」
同じ様に見ていた母が呟く。
やや立て付けが悪くなり、密閉性が下がった窓は外の音を十全に拾っていた。
「同化までの暇その時まで、私が貴方様をもてなしましょう。」
その言葉を聞いてか聞かずか、白狼はゆっくりとグレイにこうべを垂れ、跪くグレイに顔を近づける。
グレイがゆっくりと顔を上げると同時に白狼が吠えた。
とてつもない覇気。
木々は白狼を中心としてしなり、家々はビリビリと振動した。
あまりの衝撃にひっくり返る村人を尻目に白狼はゆっくりと体を丸め、目を閉じた。
「あ…。」
母が呟きを漏らす。
気付けば空には青が澄んでいた。




