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ミクロな世界の女子大生  作者: やまとりさとよ
第二章 ミクロな世界の生き方

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とある魔族のお話

「ふう…」


部屋の隅の椅子で静かに紅茶を嗜んでいた魔族の男が、一人ため息をついた。


年齢は3-40歳ほどだろうか、肌には未だハリが残り、光を吸い込むような漆黒の目と髪、細身でありながら筋肉質なその肉体をタキシードで包んだその姿はどことなく老人特有の雰囲気を醸し出しており、それが男の年齢を高く見せていた。


煌々と照らすランプの火がユラユラと調度品を照らし出し、男の顔に幾何学な模様を描いていた。


思案気な憂いを含んだ複雑な表情をしていた男が思い出していたのはつい先ほど行っていた会議の内容であった。



「ここ十五年間の人間の主なステータスを平均化させ、グラフに示したものがこちらになります。」


ここはとある会議室。

凡そ30×10mの巨大な会議室で、魔族の男とその部下達が会議を行っていた。


部屋の真ん中には巨大な長机が設置されており、男は正面に、それに対して反対側に現在プレゼンを行なっている長身の魔族がいた。


この部屋の照明は中央に設置されたランプ一つであったが、夜目の効く魔族達にとってはこれでも十分過ぎるほどに明るかった。


「こちらをご覧ください。」


プレゼンをしている長身の男が壁に貼った棒線グラフを指し示す。


そのグラフには、2本の線が赤と青に分かれて引かれており、赤い線は最初から高い値だったが変化は少なく傾斜の緩やかな斜めを描いていた。

対して青い線は、初期値ほど少ないものの、急勾配の傾斜で右肩上がりに上昇しており、グラフの右端で赤と青の線が交わり、黒い点が打たれていた。


「こちら赤い線が我々魔族の平均ステータス、青い線が人間の平均ステータスとなっています。」


「ううむ…」


魔族の男のとなりに座る、肥満体の部下が唸る。


「見てわかる通り、人間たちの平均ステータスは年を越すごとに年々上昇していき、我々に迫る勢いであります。人魔国境警備隊の被害者数はこれに比例して増大しており、なんらかの軍事的対応措置を取らなければならないと提案いたします。」


「成程。具体的な案があるのか?」


「はい、敵軍の戦闘能力は確実に上がっていくと仮定すると、従来の対人戦闘システムはもはや役に立ちません。

やはり奇襲、略奪、また人質などを取る手段がまず有効であると考えます。」


「そのような卑劣な手、騎士どもは応じるだろうか。」


「失礼ながら応じる応じないの問題ではないと思われます。敵戦力は確実に力をつけています。

交渉にも強気に出てくることでしょう。

いざ戦闘となった場合に敵戦力を削ぐという目的で行う卑劣な行為は極めて合理的であるかと。」


「…分かった。これらの資料を持ち、上に掛け合ってみるとする。」


「…ありがとうございます。」


男が席を立ち、長身の男の配布した資料を持って部屋を出て行こうとし、立ち止まった。


「…ああそうだ。」


「はい?」


「そのグラフにある通り人間どもが力をつけ、我らを越えるのは何年後なのだ?」


「法則的にこのまま勢いが止まらないのなら…今年です。」


魔族の男は天を仰いだ。

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