283 13段目
{魔法術式構成…87%}
{魔術魔法MP消費設定…29%}
{放出射角計算…73%}
魔法文字が円環を成してゆっくりと魔力に輝いている。
緊張に凝り固まった五号の顔が2色の色に照らし出されている。
私は自身に向けられつつある高射砲の発射口をぼんやりとした気持ちで見ていた。
心の中の五号が叫んでいる。
死にたくない。
消えたくない。
私の性質上仕方のないことだ。
自ら生を勝ち取ることはあっても自ら死に手を伸ばすのはこれが初めてになる。
今回の私が選んだ方法は生存。
四番め以前の零を踏襲するやり方では意味がないと悟った私の、私だけの方法。
六番め以降のスタンダードになるかは別として、これは世界誕生以来の私の行動倫理だった。
本能のままにあげそうになる悲鳴を理性の力で無理矢理閉じ込める。
脳が理解できててもこれはおそらく感情が理解できてない。
顔を両の手で叩いた。
それにびっくりしたのか丸くした目をこちらに向ける五号。
私はオリジナル殺しに震える彼女にヘナヘナした笑いを向けることしかできなかった。
あーあ。
怖。
…
すでに周囲は暗闇に没していた。
五号は鑑定の力を併用しつつ3種の魔法の構築を続けていた。
着地音。
振り向かずともわかる。
{順調?}
{とりま周囲に敵影無しだったよ。}
{獄閻魔法が3種出てる時点で普通魔物は寄りつかないけどな。}
{それはそう。}
分体の四人だった。
彼女らは同化の障害の排除をしていたのだった。
{オリジナルー。}
二号が手を振る。
オリジナルは三角座りのまま先ほどよりもさらにヘナヘナした笑いをこちらに向けて手を振りかえした。
気温の急激な変化によるものか、薄寒い風が吹き始めていた。
…。
天頂は闇魔法に遮られ、空を見上げるオリジナルの視線の先には闇しかない。
彼女は今何を考えているのか。
思考を共有するはずの分体間の念話ももう随分と前に動かなくなった。
肌を刺すような風が足元の砂を掬って砂の流れを作っている。
{{絶対MP術式還元…96%}}
{{絶対MP術式還元…97%}}
{{絶対MP術式還元…98%}}
鑑定が刻一刻と処刑までの秒針を進めていく。
今はただ、されるがままだった。
照準は逃れようのない範囲にある。
構築された術式は、文字通りオリジナルを100回以上殺して足るものだった。
引き金はもう引かれている。
過程と状況が結果を表しているのなら、それは紛れもない真実だった。
2色の魔法陣がオリジナルとの空間を隔てる壁のように見えた。
…不快だった。
五号は自らの顔が勝手に歪むのを感じた。
そしてこれは獄閻魔法構築による症状ではないことも知っていた。
嫌だった。
世界の存続を是としても、オリジナルの存続が危ぶまれるのならそれは否なのだ。
これは五号としての意識以前の五号の我儘だった。
理不尽な現状に対しての行き場のない怒りだった。
しかして、その合成音声は無慈悲に時を告げる。
誰の思惑も激情も関係なしに、五号に作られた首切り役人がギロチンの縄を切り落とした。
{{絶対MP術式還元…100%}}
…。
翳った空の下、魔力の込められた魔法陣だけが怪しく光る。
頭の芯が透き通ったように凍りついた。
動悸が暴走し、目の前に星が飛ぶ。
世界が、崩壊の前兆を示した。
魔力に当てられた砂が粒子すら残さず消失していく。
もはや誰にも止められなかった。
各々の魔神が魔法陣から這い出る。
世界を滅ぼさんと、世界を創り替えんと。
その魔術は世界を再構築するための神の魔法。
幾度の死と生をいたずらに与える最低最悪の呪術だった。
オリジナルは魔力に当てられ崩れていく自身の手のひらをぼんやりと見ていた。
何もできない。
もう遅い。
延期はない。
銃口はすでにマズルフラッシュを見せていた。
汗が垂れる。
動悸が治らない。
嫌だった。
オリジナルに死んでほしくない。
嫌だ。
視界が歪みだした。
手は届かない。
魔術は完成した。
逃げ場はない。
救いはない。
神は救われない。
天使とは敵対関係にあった。
オリジナルが跪く。
終わりだ。
嫌
世界が光で満ちる寸前。
魔力が唸りをあげ、対象を滅さんと唸る中。
オリジナルは確かに私を見て。
口を開いて。
「______________。」
「っっ!!!」
その時、世界が光で満ちた。
炎と氷が吹き荒れ、最後に闇が全てを閉ざした。
彼女の身がねじ切れるのを見た。
そして全てが無に帰した。




