Code.1 (19)
「整列!」
教師の声が響き、ざわついていた生徒たちが静まり返る。
瞬時に出席番号順に整列され、俺たちは教師の言葉を待つのみとなった。
馬車でしばらく揺られた先。
帝都からしばらく進んだ場所にあるダンジョンに俺たちは集められていた。
静寂の中、白い蝶々が横を飛んでいった。
「本日はダンジョン演習の実技を行う。話にあった様にこれよりパーティの班分けを行う。パーティの割り振りは私達がそれぞれの技能に合わせて作った物なので、勝手に別れない様に!」
筋肉質な体躯の教師が声を張り上げる。
成程。
どうやら能力値によってパーティが振り分けられているらしい。
ありがちな感じだと、前衛の剣士、タンクに中衛の攻撃魔法使い、後衛のヒーラーとかそんな感じで分けられてるんだろうか?
と、教師の話が終わると同時に横から別の老教師が紙を持って出てきた。
「それでは、班分けを行います…。呼ばれ次第、順次集合場所に集まってください…。一班、レーニン、セスタ、アレン、二班…」
いきなりか。
ざわめき出した生徒の中、俺は一班の割り振りがされている場所に行くことにした。
…。
「ボクはセスタ!よろしくね。」
「あ、あぁよろしく。」
一班の場所に行くと、すでに先着がいた。
赤髪ショート、元気溌剌といった様子に見開かれた二重の瞳に、にこやかに開かれた口。
身長は俺より少し小さいくらいか。
細かい刺繍施されたベストに、黒いパンツ、皮のブーツを履いた少女はセスタと言うらしい。
セスタに突き出された手を握り返す。
セスタはその手を満面の笑みでブンブンと振って返してきた。
こいつ…レミウルゴスと同じ香りがするぞ…。
「そういえば、パーティは三人って言ってたけど、もう一人はまだこないのかな?」
俺が若干苦笑い気味になっていると、セスタが周りをキョロキョロしながら言う。
「ああ…まぁ、すぐ来るんじゃないか?学校側がパーティ組んだっていったんだから休みってこともないだろうし。」
「確かに!…あ、噂をすれば…!」
小動物的な動きをしていたセスタがこちらにやってくる人影を指差した。
「一班の人か?」
黒髪の短髪。
黒縁の眼鏡に、几帳面そうに薄く開かれた瞳。
身長は俺より一回り大きいくらいだが、かなり細身だ。
高級そうな外套を羽織った少年が歩いてきていた。
「うん。そーだよ!ボクは一班のセスタ!よろしくね。」
「俺も一班のユーリーンだ。よろしく。」
セスタが人懐っこい笑顔で手を差し伸べる。
少年は眼鏡を中指で押し上げ、一瞬固まった後、薄く笑いを浮かべてその手を取った。
「僕はアレンだ。よろしく。」
「うん!よろしく!」
俺にやったときの様にセスタがアレンの手を思いっきり振る。
アレンは目を丸くしてされるがままになっていた。
…。
班の割り振りと顔合わせが終わったところで、再度筋肉質な教員が声を張る。
「それでは、30分後にダンジョン演習を開始する!班内で自身の得意な技能を共有し合い、教本通りにパーティの構成を決めること!開s…ゴホッ…開始!!」
あの先生最後むせてたが、大丈夫か?
連日あれだけ声を出してれば枯れもするか…。
若干哀れに思いながら、セスタとアレンの方に向き直る。
「それじゃあ、とりあえず俺から発表するわ。」
「うん、お願い!」
「…。」
「俺は、基本的に魔法と剣術スキルを中心に扱う魔法剣士な感じだ。家の方針で身体ステータスの方もあげたから前線を張れると思う。」
「魔法と剣術…両方できるのか?」
俺の説明に、アレンが訝しげに聞いてくる。
あぁ…まぁ俺の家庭はちょっと特殊だしな…
「ああ、うちの両親がそれぞれの分野のエキスパートでな、どっちが教えるかで喧嘩になった挙句、両方教えることになったんだ。」
「両方教えられてできる様になるモノじゃないと思うけどね…。」
セスタが目を丸くして返してくる。
やっぱりあの修行は無茶だったんでは…?
周囲の環境とのギャップを感じていると、アレンが手を上げた。
「次は僕だ。
僕の得意な魔法は光魔法。ユーリーン君と同じ様に家の方針でね。バフや回復ができるから後衛が向いてると思う。一応、風魔法も少し使えるから自衛もできるよ。」
「へぇー聖魔法って、アレンは教会の子なの!?」
「そうだよ。とは言え、帝都の本山じゃなくてもうちょっと田舎の教会出身だけど。」
聖魔法か…。
回復やバフ系の能力を司る属性の魔法で、これだけは父親も使えなかったものだ。
教会で何度か見たことはあったけど、こうやって間近で見れるのは俺が赤ん坊だったとき以来だし、少し楽しみかもしれない。
「それじゃ、最後はボクだね!」
少し俺がワクワクしていると、手を振ってセスタが声を上げた。
「ボクは物理攻撃系のスキルを持ってるよ!耐性系も持ってるからユーリーンと一緒で前線で戦えるね!」
「物理攻撃か…何を主に使ってるんだ?」
「ボクは基本的にパンチかなぁ、剣も使えないことはないんだけど、取り回しが悪くて結局パンチメインになっちゃうんだよね。」
「なるほどな。」
セスタは完全に前線特化って感じだな。
「よし、これで大体パーティ編成はできたな。」
「ああ。」
「うん!」
「セスタが前衛、俺が中衛でセスタの補助をしつつ一緒に戦う、アレンが後衛で俺たちの補助、って感じでいいか?」
「意義なし!」
「大丈夫だ。」
「30分経過だ!1班から順にダンジョンに入れ!補助で教員がつくが、魔物は生徒が倒すこと!が、万が一怪我や倒せない相手が現れた場合は即時撤退し、教員に引き継ぐこと!以上!」
と、ここで教員からの声が聞こえた。
…いよいよか。
今日はいるダンジョンは初めということでランクは2程度のダンジョンだ。
魔力のたまりやすい洞窟にできるダンジョンで、学園が実習のために買い取ったダンジョンらしい。
が、実践経験はこれが初になる。
心臓の音が大きくなってきた。
「緊張するねー…!」
「練習通りにやれば問題ないはずだ。」
セスタもアレンも額に冷や汗をかきながらいってくる。
緊張するのはみんな同じか。
「…頑張っていこう…!」
「うん!」
「ああ。」
女性教員が俺たちの後ろにつく。
洞窟の入り口が大きく口を開けている。
明るい外に比べると、淡く発光しているとはいえ、先は薄く暗く不気味な様相を呈している。
生唾を飲み込んだ。
足を一歩踏み出した。




