Code.1 (18)
二日スパンの3連投 3/3
「…ダンジョンとは一口に言っても、種類は様々だ。形状や内部に存在する魔物の種類によっても難易度は変わるが、大きく分けて五つの位がダンジョンにはある。」
教室の前の黒板で、ダンジョン学の講師が画像を投影し、板書を指しながら説明する。
「そうだな…まずはダンジョンの基礎知識から問おう。そこの君。前の列四番目、右から二番目の君。ダンジョンとはそもそも何か、わかるかね?」
講師が俺の左隣の女の子を指す。
指名された子はおずおずと立ち上がり、遠慮がちに答えた。
「え…と、魔力がたまって魔物が発生しやすい場所…ですか?」
女の子の答えに講師は満足げに頷き、続けた。
「その通り、詳しい原理は解明されていないが、魔力が溜まりやすい場所、又、より多くの経験値が消費された場所にてダンジョンは発生する。通常ならばその場に溜まった魔力を消費し次第魔物は沸かなくなり、ダンジョンは消滅するが、その場でダンジョンが発生後魔物に襲われるなどしてまた経験値や魔力が消費されるとダンジョンはその力を利用し拡大、強力になる。そのため、戦地やダンジョン内での経験値消費を最大限抑える為、人間がその地に潜る時はそれぞれが致死の前に特別な処置を行う。
また、ダンジョンはある一定の…」
講師が話を続けながら更に画像を投影していく。
俺たちが今いるここは、アドヴァンダルの総合教室だ。
普段の授業を受ける教室とは違い、主に選択制の授業を受けるときにここは使われる。
俺たちは戦闘座学なる単位を2種類の授業のどちらかを受ける事で取得できるのだが、俺はその内の一種、冒険者学を取っているのだ。
冒険者学では、魔物の種類、討伐方法、ダンジョンの攻略、説明等を受けることができる。
一年生のうちは冒険者協会の冒険者講習でも受けられるものを学ぶだけだが、学年が上がるにつれ高等なものになっていくらしい。
というか、それでも小学生が受けるにしてもこの時点でもやや高等な授業な感じがするが、この世界は成人が16歳だったり、死が常に隣にいることから早熟な教育が施されるようになっているのだろうか。
「あぁ…くぅ…」
背中から声変わり前の少年の上ごとが聞こえる。
…実はトップ冒険者になると言っていたレミウルゴスも同じ授業をとっているのだ。
講師の話が長いのと難しいのもあってか、早々にイビキを書いて寝てしまったようだ。
今は俺の背中で必死に隠しているが、いつあの講師にバレるかヒヤヒヤしている。
お前…座学もアドヴァンダルでは必要なんだぞ…。
因みに、戦闘座学2種のうちもう一種は騎士学で、エイはそっちで学んでおり、そちらでは兵法やら作法やらを学ぶらしい。
「…ダンジョンはランク1〜5で分けられており、その区分は内部も魔物の強さ、種類、ダンジョンの形を合わせた攻略の難しさで判断される。」
講師が映像を切り替え、五つの画像を投影する。
「まずランク1、これは魔力がたまり、魔物が発生したばかりのダンジョンが区分される。固有の形を持たず、地形の変化もない。魔力が消費されきれば凡そ1ヶ月程度で消滅するために、危険度は極めて低い。また、復活することもあまりない。
次いでランク2だ。これはランク1と対してかわりないが、より魔力がたまりやすい場所で発生しやすく、消滅までの期間はランク1と変わらない代わりにほとんど確実に復活する。そのスパンは凡そ1年〜5年ではあるが、危険度はランク1とさして変わらない。
そしてランク3。この辺りからダンジョン自体で魔力と経験値の循環が発生する。魔物同士の争い等でダンジョン維持のためのエネルギーを外部から必要としなくなり、消滅することがそもそも稀になる。ダンジョン内の魔物を駆逐したとしても使用された魔力と余った経験値がランク2程のダンジョンを再度構築し、ランク3が発生する土壌の為にいずれランク3に昇格する。これまでと違い、周辺の環境も変質し出し、建造物が発生することが多い。
次がランク4だ。ランク4の幅はかなり広い。というのも、ランク4は周辺一帯の魔力が集約する土地に発生するのに加え、ダンジョン内部のエネルギー供給が消費エネルギーを上回る。そのために年月が経つにつれダンジョンは拡大し、放置すれば魔物のレベルは更に上がり、周辺環境までも変質させる。建造物系の他、地形、気候、植生までもが変質し、異界とも言える存在になる。
最後がランク5。周辺環境そのものが異界と化し、多層構造になるものも多い。階層一つ一つに異空間が構成されており、空間魔法や知性の高い魔物も多数存在している。現在これに認定されているダンジョンは現在六つしか存在しない。アレイヌ・アレイン古代都市群、ミリネム大迷宮、超常浮遊城塞都市リーク、異空棚、傀儡殿、そして、魔王城ダンジョン。」
講師が映し出した六つのダンジョン。
それぞれが明らかに異常な様相を呈しており、写真越しにもこの世のものとは思えない異様さを醸している。
中でも、最後に講師が言った単語に眉がぴくりと上がる。
魔王城ダンジョン。
…やっぱりあるのか…。
「只、魔王城ダンジョンは少々他のランク5と異なる。
このダンジョンは階層ごとにランクが変容しており、第一層、二層はランク1程度の強さの魔物しか出ない。階層を降る度魔物の強さ、環境が変容し、10層で竜種が出現する。鑑定スキルによって判明した魔王城ダンジョンの階層数は100。かのアーグマンですら30層以降は未踏であり、最下層には魔王をモデルとした魔物が存在すると言われている。」
魔王…。
淡々と講師は話を続けていく。
魔王か…。
よくある異世界モノのように、どうやらこの世界にも魔王が存在するらしい。
もし魔王の討伐が完遂できたらこの世界にも平和が訪れるのだろうか。
そんなことを考えていると、チャイムがスピーカーから流れた。
「んがっ」
後ろでレミウルゴスのチャイムに驚いた声が聞こえる。
「…以上で講義を終了する。ダンジョン区別の詳細はテストには出ないが、選択問題で出題はするので、復習はしておくように。…特にそこの君。」
投影していた画像を消し名簿を閉じた講師が、俺の方を指して言った。
いや、俺の後ろか。
「ん…あぁ?」
当のレミウルゴスは何が何だかわかっていない様子で呻いた。
…
ランク5の世界最難関ダンジョン、傀儡殿の最奥。
雷龍が唸り声を上げ、倒れ伏す。
周辺は高エネルギーの衝突により焦土と化しており、未だ空に走る紫電が、死してなお雷龍の力が強大であったことを示していた。
神父は未だ再生していない右半身を引き摺り、それが現れるのを待つ。
この地はこのダンジョンの最奥だ。
だが、この先に部屋がないわけではない。
魔王城ダンジョンとて、100層の奥にはもう一つ階層が存在する。
ダンジョンとしての最奥とダンジョンマスターとしての最奥は違う事を神父は知っていた。
そもそも攻略難度が高すぎる故に知られてはいないが、傀儡殿は魔王城ダンジョンの他に唯一知的生命体が管理しているダンジョンだった。
なかなか魔法陣は構築されなかったが、神父はただ待っていた。
ここのダンジョンマスターとは旧知だったがあの事件の後彼は神父たちの元から去った。
元より出力系の能力者だった彼は、Code.5の力を使ってこのダンジョンを構築した。
それが彼なりの決別だったのであろうことは神父たちには容易に理解できた。
だが、状況が変わった。
かつての勇者たちを集めなくてはならないほどに。
幸い、神父は回復職だ。
持久戦ならば得意だった。
…。
待つこと凡そ三日。
なんの前触れもなく魔法陣が神父の前で展開する。
どうやら我慢比べには勝利したらしい。
司祭は現れたその転移魔法陣を踏み抜いた。
…
再び神父が地面に降り立つと、そこは先ほどと大きく変容していた。
ほとんど暗闇に没した空間。
唯一前方15メートル程の位置にある石でできている玉座のようなものと、そこに座る者が蝋燭の淡い光で照らされていた。
右下からの揺れる光がその者の容貌を映し出す。
凡そ20代くらいの青年の顔。
若干釣り上がった瞳が軽い威圧を周囲に与える。
オレンジの光が軽くパーマのかかった茶髪をうっすら照らしていた。
「石田は?」
「石田…司祭はいま別件で仕事中だ。だから代わりに俺が来た。」
軽そうな声、だが確かな重圧の伴ったその男の声に神父は返す。
「ふーん…んで、なんか痩せた?増井さん。」
「…三日間の断食がいいダイエットになったんだろうよ。」
ランク5、世界最難関ダンジョン、傀儡殿ダンジョンマスター。
前村龍樹が増井に敵意のこもった目線を向けていた。
山:もうちょい加筆してやろうと思ったらちゃんと時間吹っ飛んだね。
ア:数Ⅲから逃避したくてあえて引き伸ばしたでしょう。
山:うぐ。




