過去編 第二章 私の場合 ②
下校時間。
今日も部活は休みだった。
ゆるくていい感じだ。
風も今日はあまり吹いてない。
実にいい気分。
何せ今日h…
「お久しぶりです。」
「石田じゃん。」
ウキウキしながら通学路を歩いていると、唐突に石田が私の正面に現れた。
瞬間移動か何かか?
与えられた力をこうも早くマスターするとは、これも石田の才能ってやつなのかね?
「女神様もお変わりないようで。」
「いや、結構お変わりしてるでしょ。…何のよう?」
「ある程度軌道に乗り始めましたので、今日はそのご報告と参りました。」
「へぇー。こんな場所で?」
「レストランを予約してあります。」
「パパ活かよ。」
「そう言われますと何とも。」
「めんどくさいから近所のファミレスとかでいい?」
「わかりました。」
私の言葉に石田は文句も言わず頷いた。
帰ってから行くのも大変だしこのまま行くかぁ。
「智和ー。」
手を叩いて名前を呼ぶ。
しばらく待っていると、根室智和の肉人形が走ってきた。
背負ってたカバンと手提げ袋を肉人形に渡す。
「んじゃこれよろしく。家着いたら適当に晩御飯作っといてよ。」
肉人形は黙って頷くと、そのまま走り去っていった。
石田はその様子をただ見送るだけだった。
「眷属ですか?」
「只の人形だよ。」
「成程。」
「そいじゃ、ほい。」
1人合点が言ったように頷く石田の服の裾を掴む。
石田は目を丸くして言った。
「何のおつもりで?」
「女子高生に歩いて行かせるつもりなの?」
「…成程。」
私の言葉をゆっくり噛み砕いた石田は、小さく頷くと指を軽く鳴らした。
…
瞬きの後、私の体はファミレスの席に座っていた。
向かい合わせの席には石田が座っている。
「こちら和風パスタと、若鶏のグリルになります…ご注文は以上でよろしいですか?」
「はい。」
ウェイトレスが食べ物を運んで来る。
テーブルの上に置かれた二皿が天井のライトに反射している。
「私の真似?これ。」
「はは…どちらを食べます?」
「絶望的な二択だね。」
「すみません。」
「じゃあ私はパスタでいいや。」
「ありがとうございます。」
「何に対しての感謝だよ」
「もちろん女神様に対してです。」
「草。」
しばらく沈黙が流れる。
食器が皿に触れるカチャカチャという音と、隣の席で騒ぐ学生の声だけが響いていた。
「崩壊後の人類救済プランですが。」
一通り食事が終わった後石田が口を開いた。
「今のところ、天使を信仰対象とする教団を作ろうと考えております。」
「成程?」
「その下で勇者を集め、魔族に対抗する力を得つつ逐次人類を戦闘に投入することで人類の救済とシミュレーションの加速を行います。」
「いいね。」
「ありがとうございます。」
「勇者は集まってるの?」
「今確保した勇者は西原秀治、古賀幹、安曇真澄の三人、近く前村龍樹と前村瑠衣の確保に向かいます。」
「なる。」
「して、崩壊後の魔族に関してですが…。」
「あぁうん、魔王はこの間作った。妃奈って言うんだけど、まだ手出さないでよ。あの子はまだ一般人だ。…ニートだけど。」
「わかりました。」
「うむうむ。恨みも怒りも殺意も全部システムに吸わせなさい。今は平和に行こう。」
「はい。」
「そんじゃ今日はこんなもんかな。」
「ありがとうございました。」
席を立つ。
「あぁそれと。」
会計をしようと財布を出す石田に話しかけた。
「あの席にいる奴ら私のクラスメートだからさ、記憶変えといてよ。」
「わかりました。」
石田が指を鳴らす。
こちらをチラチラ見ていた学生が全員前を向いて沈黙した。




