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ミクロな世界の女子大生  作者: やまとりさとよ
第六章 ミクロな世界の真実

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過去編 第三章 西原秀治の場合 13


「石田…聞きたいことがある。」



暴れる心臓を抑え込み、石田に向かって言葉を投げた。


「私にわかる事であれば答えよう。」


いつもと変わらない様子で石田は答えた。


「システム稼働から…人類のダウンロードが終わるまでにどれくらいの人間が死ぬんだ?」


「さぁ…概算だが、最低でも1/10000程度にはなるんじゃないか?」


悪びれる様子もなく飄々と答える石田。


思わず顔が歪む。

噛み締めた奥歯がギリッと鳴った。


「何故、それを隠してた…?」


必死に怒りを抑えて聞く。


「合理的な判断だ。それを知って暴れて脱走なんてされたら困るからな。君の様子を見るに、私の判断は正しかったようだ。」


握りしめた拳が震える。


「お前は、俺の家族が生き残れると思うか?」


「どうだろうな。君の家族全員の精神力が人類の上位0.01%に入れるくらい高ければ十分に希望はあると思うが…。」


顔に手をあて、思案顔で石田は答える。


「…。」


「まぁ、ほとんどの場合で全滅だろうな。」


うすら笑いを浮かべて石田は言った。


「石田アアアアアアアアアアアア!!!!!」



…。



「もう少し静かにすることを薦める。クラスメイトは今寝てるだろう。」


耳を押さえながら石田が迷惑そうに言った。


「石田…ここは死んでも通るぞ…!」


怒気をはらんだ俺の言葉に石田は手をヒラヒラさせて軽薄そうに答えた。


「私には君を止める資格も力もない…好きにいくがいいさ。」


「…っクソッ!」


俺は駆け出した。


石田は追って来なかった。



…。



ビルの狭間を駆けていく。


それぞれの警備システムが俺を認知する前に速攻で破壊する。


邪魔な障害物は速やかに粉砕した。


屋上と屋上を飛び続け、街を走り抜ける。


4年間任務以外で街に降りることはなかったが、テレビやインターネットで世の中がどう変化したのかは知っている。


超能力者の存在は世間一般には公開されていないが、世界に名だたる財閥は明らかにそれらの能力を技術に応用していた。


「PPP…ggggg」


目の前に現れた警備ロボットを真正面から殴って破壊する。


石田のものほどではないが、ところどころに技術革新があったことが伺える物が見られる。


だが、天然の超能力者である俺に敵うものはない。


強化された脚がコンクリートを踏み締める。


解放と共に体が激烈な加速をする。


地を踏むごとに景色はギュンギュン引き伸ばされ、跳躍するごとに地と空が移り変わる。


気づけば景色は見慣れたものになっていた。


速度を落とす。


そこは、4年前毎日通っていた通学路。


このまま道をもどれば高校が、そして道を曲がれば


「あぁ…」


俺の家がそこにはあった。


技術革新が起こっても大して変わらない田舎の家。


流行りに遅れて結局掃除ロボットは買わなかったんだ。


玄関のドアの前に立つ。


目を凝らせば、眠ってる家族の姿が見える。


父さんと母さんは変わらず寝室で寝てる。


愛香は今年から大学生のはずだが、どうやら実家から通うことにしたらしい。


「あ…俺の部屋物置になってる…。」


思わず笑う。


直接顔を見たいが、無駄に鍵に能力を使って家族にいらん心配をかけたくない。


「ふぅ…」


覚悟を決めろ。


目を閉じれば、体の中に渦巻く膨大なエネルギーを感じられる。


瑠衣に言われて知覚できたこの能力の本質。


このエネルギーは、それを支える器と共に成長していった。


瑠衣曰く、それが魂。


その外殻を、家族に移す。


そうすれば、女神の知識を植え付けられたとしても耐性を得られるだろう。


少なくとも、生き残りやすくなるはず。


力を込める。


エネルギーを体の中で動かし、魂を分断する。


こうすることで何が起きるのかは容易に想像がつく。


だけど、やらなくちゃならないんだ。


瞬間、凄まじい幻痛が心臓に走った。


いや、これは魂の痛みか。


前後不覚になり、思わず倒れ込む。


だけど、倒れても、血を吐いてもエネルギーは動かせる。


無事、俺の魂の外郭は家族に覆い被さるように結合された。


全てが終わった瞬間、俺の意識は途絶えた。





「…ぃ…い…兄ぃ!兄ぃ!」


「あぁ…?」


目が覚めると、俺は愛香に体を揺らされていた。


「…あ、愛香?」


「兄ぃ!」


うっすらと目に映り込む景色。

太陽はまだ登っていなかった。


「早いな…愛香」


「わ、私は早朝の用事があるから…」


「ありがとう…目が覚めた。」


「い、いや、全然わけわかんないって…!」


頭を振る。


味覚が戻ると同時に鉄の味が広がっていく。


思わず咳き込む。


大量の血液が口から吹き出た。


「…ぁ?」


「兄ぃ!兄ぃ!」


愛香が泣きじゃくりながら背中をさすってくる。


「い、いや…問題ない。…大丈夫だから…。」


「きゅ、救急車!早く!」


「大丈夫…だい…じょ…」


「何が…秀治!?…」


玄関が開かれる。


寝巻き姿の両親が掠れる目に映った。


…大丈夫…だから…すぐ治せる…


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