過去編 第三章 西原秀治の場合 ⑩
「えーっと、とりあえずお前らの能力は身体強化系ってことで良いよな?」
増井さんが手にもった端末を見ながら俺ら三人に話しかける。
「あってます!」
「俺もそうだ!多分!」
「そうですね。」
「テンション高いな…まあいいや。それじゃあ、とりあえず身体強化系のすることを教えるぜ。」
生徒達の気迫(俺以外)に気押されたように後ろによろめきながら増井さんは俺たちに指を立てて話し始めた。
「身体強化系…以後強化系でまとめるが、強化系の崩壊後の役割は、瓦礫に埋まった救助者の救護、保護地域の建設など単純に重機とかが使いづらいところでパワーが欲しくなる時、それと…魔物と戦う時に前線を張る事だ。」
「…!」
増井さんの最後のセリフに俺ら三人は息を呑む。
前線…。
「…それって。」
「…ああ。危険が一番高い。最も怪我をしやすいし、……死の可能性が一番高いところでもある。…つい最近まで学生やってたお前らには酷だが…」
「…。」
俺たちは黙りこくるしかない。
「だが、大丈夫だ。俺がお前らを絶対に死なせない。俺がちゃんと鍛えてやる!」
増井さんは胸を叩いて声高々に言った。
ごくりと生唾を飲み込む音が聞こえる。
…少なくとも、安心はできそう…か?
…。
「もう気づいている奴もいるかもしれないが、能力の方向性にはいくつかの種類がある。
それは強化系にしても同じだ。研究の結果、大体3種類に分けられることがわかった。」
増井さんが大きな装置の文字盤をいじりながら言う。
「強化系の種類のうち一つは恒常的に筋力を増強する能力。もう一つが瞬発的に筋力を増強する能力。もう一つが高い再生能力だ。…とよし。」
増井さんは装置を叩いた。
「お前らがそのどれに当たるかわからないが、まあとりあえず調べてみよう。…話はそれからだ。」
装置の一部が扉のように開いた。
煙が吐かれ、床を這う。
ひんやりとした感覚があった。
「なーに、別に加圧を加えて体の耐久性を確かめるとか、再生能力があるか傷つけるかとかするわけじゃない。…まあ入ってくれ。」
増井さんは扉の横で薄ら笑いを浮かべて言った。
…やっぱ安心できないかも…。
…。
「結果が出たぞ。」
装置に入れられて数分後、ベンチに座った俺らは装置の結果が出るまでの待機を増井さんに命じられていた。
「えーと、とりあえずあの装置はそれぞれの能力の方向性を十段階の評価で表すやつでな、安曇から発表してくぞー。」
増井さんは書類をめくりながら言った。
「えー安曇真澄。能力、強化系。恒常性1、瞬発性9、再生性4。…安曇は瞬発的に火力を出す感じっぽいな。ただ、再生能力も割とある…。再生能力で耐えつつ、爆発的なパワーで吹っ飛ばすって感じのが得意って感じだな。…はいこれ。」
「な、なるほど…。…ん、あ、ありがとうございます」
増井さんの言葉に安曇が困惑しつつおそらくステータスが乗っているのであろうシートを受け取る。
「で、次。古賀幹。能力、強化系。恒常性5、瞬発性1、再生性8。…方向性は安曇と正反対って感じだな。恒常的にパワーを出しつつ、再生でひたすらねばるって感じだ。…はいこれ。」
「なるほど!ありがとうございます!」
絶対わかってない返答をしつつ、古賀が紙を受け取る。
「んで、最後が西原秀治。能力、強化系。恒常性10、瞬発性3、再生性0…。こらまた随分と偏った感じだな。タイプは大体古賀と一緒で、恒常的にパワーを発揮し続けるタイプだ…ただ再生能力がないから、…これからの訓練で怪我には気をつけろよ。」
「は、はい…。」
増井さんから渡されたステータスを見る。
名前、顔写真の下に書かれた能力のバランスを見る三角形のグラフがものの見事に偏っていた。
…なんか恒常性が限界突破しすぎて棒みたいになってるんだが…。
「とりあえず、これでそれぞれの能力がわかったな。時間も時間だし、能力を鍛えるのはまた明日にして、いくつかの測定をして終わるか。」
パンと手を叩いて増井さんが言った。
…。
「これ持ってくれ。」
増井さんがさっきとは打って変わって小さな装置を渡してくる。
大きさは大体掌大くらい。
重さもほとんどなく、かなり細かい機械のようなものがついているが、握力計っぽい見た目をしている。
「マジックアームみたいな握るところあるだろ。それを握ってもらって…そうそう、その状態で思いっきり握ってくれ。」
増井さんが装置の使い方を教えてくる。
…どうやら、マジに握力計だったっぽい。
「うぐぐ…」
「…!」
安曇と古賀が握力計を握りしめる。
ミシミシミシと握力計がうなりを上げる。
…今チラッと見えた数字が3桁言ってたんだけど、マジ?
…これが強化系の能力者の力か…。
驚いていると、増井さんがチラッとこっちを見て促してくる。
…俺は、ここ最近でこの能力の発動方法をある程度理解していた。
重要なのは、力の動かし方。
体の中のエネルギーを全身に満たしていくような感覚を脳でイメージする。
何かが体に満ちる感覚がした。
…よし。
多分これでいける。
俺は全力で握力計を握った。
バキッ!
「え?」
握力計が手の中で捻じ曲がっていた。
「マジかよ…。」
増井さんが目を丸くする。
「あんたと私の能力値逆なんじゃない?」
安曇がジト目で言ってきた。
…。
「とりあえず、これで今日の能力実習は終わりだ。」
授業終わり。
俺たち七人は最初の位置に戻って整列していた。
「今回の授業である程度の測定が終わったから、次回からは本格的に能力を伸ばす方向にシフトしていく。とりあえず今日はお疲れ様。解散!」
「「ありがとうございました!」」
とりあえず授業が終わった。
どうやら今日はこれで学校自体も終わりらしい。
寮に戻ってゴロゴロするか…
「…疲れた…お兄ちゃん」
「…ああ。お疲れ。」
なんて考えてたら、視界の端に前村兄弟の姿が目に止まった。
瑠衣は完全に脱力し切っており、龍樹にもたれかかっている。
「私…すごい?」
「ああ。」
「じゃあ、おんぶして…おんぶ。」
「はぁ!?いや、まてまて。」
脱力し切り、スライムのようになった瑠衣が手を伸ばして龍樹にねだる。
…完全に幼児退行してる…。
「おんぶ!」
「ぁああ…たく。」
流石の龍樹も妹の押しには弱いのか渋々と言った様子で瑠衣をおぶる。
双子のはずだが、瑠衣のサイズが完全に子供なので、随分と様になっている。
「微笑ましいですねー」
「うっせえ!」
「…お兄ちゃん…うるさい…」
「んぐ…」
佐々木が茶化し、それに反論した龍樹が瑠衣に口を塞がれる。
ほほえましい。




