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ミクロな世界の女子大生  作者: やまとりさとよ
第六章 ミクロな世界の真実

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過去編 第三章 増井吾郎、小崎梓の場合 ②


大して舗装されていない山道を軽自動車が震えながらゆっくり走っている。


木々に囲まれ空はほとんど遮られ、月の光すら道の先には降り注がない。


ヘッドライトは目の前の道を照らし続けるが、はるかな先は暗闇に没していた。


一トンを支える砂利がギャリギャリと叫ぶ。


ハンドルを握る増井は、横でスマホを見ている小崎に不安げに問うた。


「な、なあおい、この道で本当に合ってんのか?」


運転席は常に揺れ続け、先のわからない暗闇が不安を加速させる。


引き返すにしろ、このまま進むにしろ、決断を下すのに道幅的には今が最後のチャンスだと思われた。


「大丈夫です。GPSはちゃんと働いていますし、地図アプリはちゃんと道を示してます。」


「そ、そうかよ…。」


小崎は不安を一切感じさせない声で冷静に答えた。


そのいいしれない気迫に増井は若干気圧されたかのように黙りこくった。


「距離的には、あと5キロ無いくらいだと思います。この先にあるのが所長の隠れ家だとしても、ヤクザの貸し倉庫だとしても、もう目的地はすぐです。」


「ヤクザの貸し倉庫は願い下げなんだが…。」


小崎が若干興奮した様子で言う。

増井はその様子を横目で見て、小崎の性格の見方を若干変更した。


そんな思惑は梅雨知らず、軽自動車はドライバーの命令を忠実に再現しながら慣れない山路を進んでいった。



…。



「あ、増井さん。そろそろですよ。」


走ること十数分。

軽自動車は開けた場所についていた。


山が若干切り開かれ、広めの広場になっている。


草木はしっかりと手入れされ、砂利が敷き詰められており、郊外の駐車場の体をなしていた。


「あ?ここか?」


増井はハンドルを回しながら、駐車場の一角に停車した。


ルームランプがオレンジの光を放ち、車内を照らす。


小崎は変わらずスマホに目を落としたまま答えた。


「いえ…地図的にはもう少し先なんですが、車が通れる道はここが限界みたいです。」


「え、てことはつまり?」


「ここからは少し歩くことになります。」


「まじかよ…俺の体格見てそれ言ってくれよな…。」


増井は一般的に小太りと評される腹をポンと手で叩いて言った。


「大丈夫ですよ。距離的にはそうありませんから。」


微笑しながら小崎は軽く返した。



…。



コンクリートでできた階段を降りる。


手すりはおそらくステンレスでできており、階段の底面に対して直角に削られた山肌を覆うコンクリートに設置されていた。


その様子からはおおよそ古くからある階段ではなく、つい最近作られたのであろうことが容易に想像できた。


駐車場から下に降りたところにあったこの階段はおそらく石田がいると思われる住所までの道を綺麗に舗装してあった。


「これは…ビンゴですかね。」


「ああ…只、所長が個人で持つにしちゃ豪勢すぎる…。これはマズイかもな…。」


「…戻った方が…?」


「…俺が先に行こう。何かあったら小崎はすぐ逃げろ。」


「…わかりました。」


階段は20メートルほどの距離を降りたところで終わっていた。


「廃工場はハズレだったな。」


階段が終わったところにはこれまたコンクリートで真っ平に舗装された道があり、ソーラーライトが等間隔に刺さっている。


オレンジの光が脇道の緑を照らしていた。


そしてその道の先。


そこには三階建てのよくいる一般的な金持ちが住むような豪華な現代建築が建っていた。


「これは…。」


「上からじゃ見えなかったが…チッ。丁度あの岩で光ごと見えなくなってんのか…。」


「マズイかもですね。」


「ああ、小崎はちょっと階段のところで待っててくれ。…警察にはすぐ連絡が入れれるようにしといてくれ。」


「わかりました。」


「じゃあちょっと見てくる…。」


恐る恐ると言った様子で増井は道を進んでいく。


履いてきたスニーカーが、コンクリートによる足跡を吸収してくれる。


家の門の前にたどり着いた。


見たところ、監視カメラは無い。


だが、こんなところにある家に監視カメラがないとは思えないので、おそらく隠されているのだろう。


今は住人に見逃されているのか、四六時中監視カメラの映像を見ているわけでは無いのか、とりあえず増井に対しての先方のコンタクトは無いようだった。


「こんなのはガラじゃ無いんだが…。」


増井は滴る冷や汗を拭いながら、門に書かれた表札を読み取ろうとする。


「…読みにくいな…。」


丁度あかりは門の近くまで辿り着かず、表札は薄暗く見辛かった。


その時。


玄関から光が発せられた。


ソーラーライトと同じオレンジ色。


冷や汗が吹き出す。


ダラダラ汗をかきながら玄関の方を見たが、しばらくして光は消えた。


どうやら、動くものを感知して光るタイプのライトだったようだ。


増井は安心し、深くため息をついた。




「こんばんは。」



「ひぅっ!?」




増井は自身の内臓が一斉に冷え切るのを感じた。

心臓は早鐘のように鳴り響き、さっきとは比べ物にならないほどの冷や汗が流れ出す。


声は、背後から聞こえてきた。


直前まで、いや、声をかけられたその瞬間までその存在には気づかなかった。


ただものじゃ無い。


おそらくカタギの人間ではないだろう。


増井は振り向けなかったが、そこでふと、その声に聞き覚えがあることに気づいた。


恐怖のあまり震えが止まらなかったが、頭の中に浮かんだ疑問を解消すべく増井はゆっくりと振り返った。


「所長…。」


暗闇の中、背後に立っていたのは石田であった。


目が慣れ、うっすらと見え出した表札には『石田』と書かれていた。



…。



広いリビングだった。


大きな窓ガラスを通じて庭が暗闇の中浮かんでいる。


枯山水とでも言えばいいのか、岩と砂でできた精密な凹凸と、それを囲む木々がマッチしている。


天井は吹き抜けで、かなり上の方でファンが回っている。

空間を贅沢に使い、灰色を基調としたモダンな家具が並べられている。


ガラスの机を囲むように置かれた深く座れるソファに座り込みながら、何インチあるかもわからない沈黙したままのテレビを見つめ、増井は状況の理解に全力を尽くしていた。


「増井さん…これどう言う状況ですか…?」


「わからん…さっぱりわからん。」


同じように石田に連れてこられ、ソファに座っている小崎が、増井に耳打ちしてくる。


しかし、答えようが無い。


増井だって何が何だかさっぱりわかっていなかった。


そうこうしているうちに、ダイニングの方から石田が紅茶とマカロンを運んできた。


今の状況を最も理解している…と言うか、この状況になった要因の一人、というか、全ての黒幕である石田は、増井と小崎の反対側の席に座り、紅茶を啜り出した。


「しょ、所長!」


たまらず叫ぶ増井。


それを聞き、石田が紅茶をテーブルにおろして目を向けてくる。


その瞳は、妙に澄んでいて、この存在は増井が知っている石田では無いことが瞬時に察せられた。


「なんだい?」


いつもと変わらない様子で言う石田。


しかし、妙な気迫により、増井は次の言葉に完全に詰まっていた。


「…所長…えぇ…実は…。」


「私達がここにきた理由、わかりますか?」


しかし、小崎は違った。

石田の気迫を跳ね除け、凛とした様子で問う。


小崎は、まっすぐ石田の目を見据えていた。


その様子に石田は一瞬面食らったように目を見開き、そして耐えきれなくなったように目を瞑ると、言葉を紡いだ。


「すまない。勝手にいなくなってしまって…。」


その様子は妙にしおらしく、先ほど感じた威圧も気迫も消え去っていた。


「い、いえ、私は…。」


その様子に慌てたように言う小崎。


石田は、ゆっくりと目を開き、増井と小崎に向けて次の言葉を紡いだ。


なぜ自身が急に失踪したのか、なぜこのような状態になり、このような建物を得たのか。


そして、自身が何に成ったのかを。


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