Code.4(6)
「カートマン様。こちらが新しい冒険者登録証になります。」
アンナさんの手から離れ、冒険者受付の対面テーブルに置かれたそれは黄金に輝いていた。
帝都所属冒険者 グレイ・カートマン
ランク ゴールド
「ぉおおおお…。」
震える手でそれを取る。
メッキ加工されたそのカードはひんやりとした感覚を僕に与える。
手の中に収まったそれの存在は、そこに至るまでの経緯を鮮明に僕の脳裏に映し出していた。
…。
「僕のランクをゴールドに!?」
ギルドマスターの部屋に僕の素っ頓狂な声が響く。
あの騒動の次の日。
いつもの如く冒険者ギルドに出勤した僕は、ドアを開けるなり早々ギルド役員の人に連行され、ギルドマスター室にやってきていた。
何か不手際があったかとビクビクする僕に対し、椅子に座る帝都冒険者ギルドギルドマスターのアークさんが開口一番に放った言葉が「お前をゴールドランクに格上げする。」だったのだ。
僕のあまりの声量に面食らったような顔をしたアークさんは若干剃り残しが目立つ顎をさすりながら答えた。
「あぁ、その通りだ。お前のカリエ嬢救出の功績が認められた。本来なら一冒険者の階級を一気に二つ上げるなんてことは絶対にしないんだが、お前がカリエ嬢を救った時の動きについて専属騎士様からいくつか証言を貰ったところ、お前にはゴールドにふさわしい実力が備わっている事が証明された。」
「あ…え…へぇ?」
目を点にして固まる僕にアークさんは更に補足説明を続ける。
「難しかったか?つまりだな、お前はカリエ嬢を助けたろ。」
「はい」
「そのすげぇ動きをしたそうじゃないか。」
「はい」
「つまりお前はゴールドランク相当の実力があるってことだ。」
「ぅえ…っへぇ?」
「つまりお前はゴールドランク冒険者になる資格がある。」
「へ」
「それと…」
「それと…?」
何かを言いかけて唐突に口ごもるアークさん。
僕が訝しんで聞き返すと、言いにくそうに彼は答えた。
「あぁこれはあんま口外しちゃいけんだけどな。この措置にはけじめと義務の意味もあるんだ。」
「ケジメ…?ギム…?」
「けじめっつうのは、長らくお前に見合わないランクと依頼をしていたギルドのランク制定の甘さとそれによる損害に対する謝罪の意だ。そんで義務っつぅのは…」
「ギムというのは…?」
「お前が追い返した魔物、騎士団様の証言によればあれは『ハクマ』っつー魔物だ。」
「ハクマ…?」
「ああ。白い魔物と書いて『白魔』。依頼掲示板にも載ってたろ。」
白魔…。
そういえば、ギルド依頼掲示板の下の方でちらっと見たことがあるような…。
記憶の箱をひっくり返している僕に対し、アークさんは更に続ける。
「こいつらは最近急増している魔物の種類を指しててな、特徴は真っ白な体色、種族は獣型、植物型、異形型と様々だが、そいつらに共通して言えることは必ず元の種族よりもはるかに強くなるってことだ、教会の見解では地脈の流れの異常による急速な進化か、何かしらの病原体による突然変異か、魔王の策略かということらしい。」
そういえば、僕が見た狼の魔物も全身が真っ白な体毛で包まれていたような…。
成程…それで白魔…。
ん。
いや待てよ。
そういえば…
「そういえば白魔の討伐依頼ランクって…。」
「ぅぐ…そう…ゴールドだ。」
僕のこの質問にアークさんは苦虫を噛み潰したような顔で答えた。
…なんとなく、今回のことの顛末が理解できた気がする…
「つまり…僕がゴールドに上がる本当の理由っていうのは…」
確信を持って聞く僕に対し、アークさんは頭をかき、深くため息をついてから答えた。
「ああ…カリエ嬢のお家、ユースタシア公爵家は今回の事をかなり重く見ておられてな…森に出現した新たな白魔の討伐依頼が冒険者教会本部に出された。そして、その討伐隊の編成に指名で組まれた中にお前の名前が入っている…。」
「そんな…」
「本来ならそれでも冒険者ランクを操作することなんてないんだが、今回に関してはどうやら教会から直々に命令が出たみたいでな…どうすることもできなかった…。」
「…。」
黙って沈黙する僕を見て、慌てたようにアークさんは続けた。
「ご、ゴールドってのも悪いもんじゃないぞ?ゴールド以上の冒険者は帝都内の宿屋ならほぼ半額割り引き、酒場含め飲食店でのサービス、更に給料もそれ未満のものと比べて5倍以上になる!それに、今回の依頼を完遂してくれれば本来行われる冒険者試験も受けなくていい!それにほら!これ見ろ!」
そう言い、アークさんは小袋を僕に突き出してきた。
「なんですか…?これ。」
「それはな、今回の依頼の前金だ!指名依頼っつーことでお前に渡すようになってる!」
「へ、へぇ…」
突き出された小袋を受け取り、中身をのぞいてみる。
「ハハははっはあっはハハッはは、白金貨!?!?」
袋の口から飛び出したるは、白金に輝くコインの群れ。
あまりの輝きに目線が吸い付いて離れない。
「どうだ?受けてくれるか?」
「…はい」
気がついたら僕の首は縦に振られていた。
…
ゴールド冒険者のカードをポケットにしまいこみ、アンナさんの見送りの声を背後に聞きながら僕は冒険者ギルドを後にした。
なんだか買収されたような気がしないでもないけど、それを抜きにしてもこの胸の高鳴りは本物だ。
過程はちょっとテコ入れがあったとはいえ、僕がゴールドランクになったというのは事実なわけで。
ゴールドランクといえばベテランの冒険者の称号として一般に認知されるランクだ。
昔からの夢が叶ったという事実に思わず気分が上がる。
…が。
一つの現実が僕を天上から地上に叩き落とす。
白魔討伐。
それもこの前あった白狼。
奴に切り裂かれた瞬間がフラッシュバックする。
何事もなく今生きているけど、あの時のあの感覚は間違いなく現実だ。
切り裂かれた後、自分がどういう経緯を辿って生き返ったのか全くわからない。
神の戯れか、悪魔の策略か、邪神の囁きか。
もう一度ああいう状況になって蘇れる自信は僕には全くない。
腰についた新品の剣を確認する。
手で握ると、カチャリという金属音を立てた。
白魔討伐決行の日時は一ヶ月後。
依頼を受けなくても一年は生活できるくらいのお金はもらってる。
少し…修行するか。
僕は森に進む道に向かった。
…。
森で修行を始めてから二週間が経過した。
この前森で僕の身に起こった変化は一時の勘違いではなく、確実な事実であることがわかった。
体は以上なほど軽いし、力は昔とは比べ物にならないほどに強くなっている。
日々の肉体トレーニングに体はしっかりとついてくる。
毎日の練習でできることが増えていく。
気が付けば最近は一日中剣と魔法を練習していた。
どうしてこんなことになったのかは未だにわからないけど、それを調べるのはまた今度で良さそうだ。
…少なくとも、そんなことよりも重要な事態が起こった。
少し開けて広場のようになった森の憩いの場所。
その中心に一本だけ生えている木の根もとに寝転がる一人と一匹。
木漏れ日に照らされ、純白に輝くその姿はまるで森の精霊か人形のように美しい。
穏やかな寝息をたて、その獣の上で寝るロングヘアーの少女。
純白の毛皮を被った2メートル強の巨大な狼は、気持ちよさそうに少女に寄り添って目を瞑っていた。
山:解説のコーナー!hooooo!
ア:本来の私たちの仕事なのに過去3回くらいしかやってない奴ですね。
山:ちくせう
ア:それで、今回の解説要素はなんですか?
山:ズバリ、この世界の通貨価値さ。
ア:ああ。
山:まず、この世界には主に貨幣が流通しています。
ア:信用創造なんかで紙に価値が生まれてたりする以前の世界観なんですね。
山:ひどい言いよう。
ア:それで、貨幣にはどんな種類があるんですか。
山:まず、銅貨。これは大体日本円で10円くらいかな。
ア:カラーリングはそのままなんですね。
山:それで銀貨が100円、金貨が1000円って感じ。
ア:さっきでてた白金貨というのは…?
山:あれには一枚10万円の価値があります。
ア:桁が一気に変わった…。
山:他に、端数計算のための1円に相当する小銅貨だったり、五百円玉の役割をする大銀貨ってのがあります。
ア:大きさやグレードが上がるごとに価値が5倍から10倍になるんですね。
山:まぁそういうことです。今後もちょくちょく出てくるかもしれないので、その時はなんかノリで理解してください。
ア:投げ方が雑すぎます。




