Code.10 (6)
全力の聖力を込めた自身の剣が新生天使の頭蓋を貫いた事は感触でわかっていた。
全てが鈍化していく世界で意識を数千倍に増幅させた司祭は剣にこびりついた脳漿を振り払い、ゆっくりと後方に倒れ込む頭の抉れた天使の体を支えるべく天使の背後に立った。
瞬間、世界は等倍に息を吹き返す。
再び色づいた世界の中で、司祭は天使を抱き止めると、ゆっくりと地に横たわらせた。
と、同時にあらゆる場所で爆音と魔物共の叫び声が聞こえてきたが、司祭はそれを無視した。
地面に横たわった天使は、その幼い顔を真っ赤な血で汚し、夥しい量の赤で地面を染めている。
一見致命傷に見えるほどの頭部へのダメージだが、天使の身にとってこの程度の欠損は何ら問題にすらならない。
{希少スキル「聖洸魔法Lv.8」を発動しました。}
天使の顔の欠損部に手を当て魔法を発動すると、同時に天使の体内に残った瘴気が急激に薄れていくのを感じた。
{希少スキル「聖洸魔法Lv.8」を停止しました。}
手を離すと、そこには頭部が元通りの形になった天使が現れた。
その顔は凶悪な瘴気に包まれていた先ほどまでのものとは打って変わって、穏やかになっている。
背中に生えていた悍ましく肉肉しい触手らしきものが灰のように黒ずんで崩壊していった。
ひとまず任務はこれで完了した。
司祭が額の汗を拭うと、それと同時に目の前の地面が轟音と共に揺れた。
ゆっくり視線を上げる。
途端、視界いっぱいに広がる爬虫類然とした火竜の顔面。
怒りと殺意に満ち満ちたその表情は、瘴気と混じって絶望的な威圧を纏う。
次いで同時に響く幾つもの轟音。
気づけば、司祭と天使を囲うように数十体に及ぶ魔物が立っていた。
それらは大小様々なイキモノ。
亜人、異形、魔獣、幻獣、龍。
ラインナップを見るにこの階層の一つ上にいた魔物共だろうか。
「天使に取り憑いていたものを排除すれば消滅するかと思ったが、どうやら違ったようだな。」
司祭は剣を抜いた。
…
身を掴む何十本もの黒く細長い手。
影から伸びるそれを全て切り払い、左から噛み付いてきた狼型の魔獣を蹴り飛ばす。
正面から殴りかかってきた細身の亜人の拳をもぎ取った魔獣の首で受け止める。
肉が爆散すると同時に、半身となって突き出した剣を亜人の脳天に突き刺す。
断末魔の叫びをあげて倒れ込む亜人を右に投げ飛ばし、襲い掛からんと距離を詰めてきていた魔獣をまとめて薙ぎ倒す。
「gilaaaaassssaasss!!!」
聞くに耐えない超高音の叫び。
目と手がいくつも折り重なったような姿の異形が飛びかかる。
閃光が一瞬司祭の目をくらませた。
右腕に走る激痛。
亜人から放たれた雷が装備を貫通して肌を焼いていた。
「ちっ」
{通常スキル「聖魔法Lv.10」を起動します。}
軽く舌打ちをし、即座に傷を回復させる。
踊りかかってきた異形を裁断し、体を半回転させて剣を背後に振り切る。
鱗で覆われた爬虫類型の魔獣が叫び声と同時に緑の血を撒き散らす。
{希少スキル「大地魔法Lv.10」の発動を確認しました。}
{希少スキル「天地魔法Lv.5」の発動を確認しました。}
地面が歪曲する。
世界が揺れ、地の波がそり立つように全方位から司祭に降り注いだ。
「破断!!」
瞬間、司祭の剣が光り輝く。
天に向かって放たれた光線は左右に分かれて地の波を裁断した。
「っ」
鼻血が垂れる。
意識が若干混濁する。
軽い目眩にふらつく司祭は、背後から襲いかかった異形の突進を避けられなかった。
運動エネルギーに従って異形に抱きつかれたまま地面と衝突する。
目を開くと、眼前に現れたのは巨大な眼球…
神がいた。
彼女は模倣をした。
純白の空間。
始原以前の世界の根幹。
繰り返し。
{状態異常「悪夢」を確認し…
「生憎…天使は悪夢を見ないんだよ。」
突き出した右腕は、異形の巨大な眼球の瞳孔に突き刺さっていた。
痙攣する異形の眼球にさらに腕を押し込む。
柔らかいものが当たった。
声にならない断末魔の叫びを発し、異形が脱力した。
腕にこびりついた脳漿の欠片を振り払う。
「gaaaaaaaaa!!!!」
頭上から迫る絶叫。
司祭が上を振り向くより早く、龍の牙が司祭の胴体を固定した。
「なっ」
万力の咬合力に司祭の鎧がひしゃげる。
貫通した牙が司祭の肉を抉り、血が吹き出す。
闇の龍は、司祭の動きを完全にとめていた。
司祭の頭に焦燥が浮かび上がったその時、莫大な魔力の顕現を察知した。
弾かれたように上を振り向く。
{希少スキル「雷光魔法Lv.8」の発動を確認しました。}
{希少スキル「暴風魔法Lv.10」の発動を確認しました。}
{希少スキル「煉獄魔法Lv.1」の発動を確認しました。}
{希少スキル「天地魔法Lv.1」の発動を確認しました。}
{超希少スキル「獄炎魔法Lv.5」の発動を確認しました。}
{超希少スキル「獄氷魔法Lv.5」の発動を確認しました。}
{希少スキル「引斥魔法Lv.7」の発動を確認しました。}
{希少スキル「邪魔法Lv.3」の発動を確認しました。}
{希少スキル「暗黒魔法Lv.7」の発動を確認しました。}
{希少スキル「天地魔法Lv.1」の発動を確認しました。}
{超希少スキル「獄炎魔法Lv.5」の発動を確認しました。}
{超希少スキル「獄氷魔法Lv.5」の発動を確認しました。}
{希少スキル「引斥魔法Lv.7」の発動を確認しました。}
{希少スキル「邪魔法Lv.3」の発動を確認しました。}
{希少スキル「暗黒魔法Lv.7」の発動を確認しました。}
{超希少スキル「深淵魔法Lv.5」の発動を確認しました。}
{超希少スキル「深淵魔法Lv.5」の発動を確認しました。}
{超希少スキル「獄闇魔法Lv.4」の発動を確認しました。}
{超希少スキル「獄炎魔法Lv.5」の発動を確認しました。}
{超希少スキル「獄氷魔法Lv.5」の発動を確認しました。}
{希少スキル「引斥魔法Lv.7」の発動を確認しました。}
{希少スキル「邪魔法Lv.3」の発動を確認しました。}
{希少スキル「暗黒魔法Lv.7」の発動を確認しました。}
{希少スキル「天地魔法Lv.1」の発動を確認しました。}
{超希少スキル「獄炎魔法Lv.5」の発動を確認しました。}
{超希少スキル「獄氷魔法Lv.5」の発動を確認しました。}
{希少スキル「引斥魔法Lv.7」の発動を確認しました。}
{希少スキル「邪魔法Lv.3」の発動を確認しました。}
{希少スキル「暗黒魔法Lv.7」の発動を確認しました。}
{超希少スキル「深淵魔法Lv.5」の発動を確認しました。}
{超希少スキル「獄闇魔法Lv.4」の発動を確認しました。}
{超希少スキル「深淵魔法Lv.5」の発動を確認しました。}
{超希少スキル「獄闇魔法Lv.4」の発動を確認しました。}
{超希少スキル「獄氷魔法Lv.5」の発動を確認しました。}
{超希少スキル「獄炎魔法Lv.5」の発動を確認しました。}
{超希少スキル「獄氷魔法Lv.5」の発動を確認しました。}
{超希少スキル「深淵魔法Lv.5」の発動を確認しました。}
{希少スキル「氷結魔法Lv.8」の発動を確認しました。}
{希少スキル「天地魔法Lv.1」の発動を確認しました。}
{超希少スキル「獄炎魔法Lv.5」の発動を確認しました。}
{超希少スキル「獄氷魔法Lv.5」の発動を確認しました。}
{希少スキル「引斥魔法Lv.7」の発動を確認しました。}
{希少スキル「邪魔法Lv.3」の発動を確認しました。}
{希少スキル「暗黒魔法Lv.7」の発動を確認しました。}
{超希少スキル「深淵魔法Lv.5」の発動を確認しました。}
{超希少スキル「獄闇魔法Lv.4」の発動を確認しました。}
・
・
・
空を埋め尽くす魔法陣。
その全てに充填された魔力が光り輝き、辺りを火の中のように照らす。
魔力の予兆であらゆる物体が崩壊を始める。
何千もの破壊の渦から黄泉の香りが漂い始める。
総毛立った。
「「神判」!!!!!」
光のブレードを解き放つ。
脳がオーバーヒートを起こしたように暑くなり、目の前が真っ赤に染まる。
が、司祭は闇龍の牙に囚われたまま縦に回転切りをし、顎を切り開いてその拘束から脱した。
「gaaaaaaa!!!!!!」
龍の断末魔と返り血を背中で浴びながら、地面に倒れている天使の元に向かう。
「天使!!」
{天使からの要請を受け取りました天使種固有スキル「天使Lv.26」を起動します。}
新生天使の元に駆け寄りながら、次いで司祭は叫んだ。
「レベル16-26までを使用!獲得、空間魔法!!!」
瞬間、世界が浮いた。
天に展開された魔法陣から魔法が放たれた。
魑魅魍魎の怪物共のように獰猛で雑多な破壊エネルギーが天から地上に迫る。
それらは互いに食い殺し合い、混ざり合いながら強大になっていく。
{天使からの要請を受け取りました。「天使Lv.26」を発動しました。}
{条件が一定に達しました。希少スキル「空間魔法Lv.1」を獲得しました。}
{条件が一定に達しました。希少スキル「空間魔法Lv.2」を獲得しました。}
{条件が一定に達しました。希少スキル「空間魔法Lv.3」を獲得しました。}
{条件が一定に達しました。希少スキル「空間魔法Lv.4」を獲得しました。}
{条件が一定に達しました。希少スキル「空間魔法Lv.5」を獲得しました。}
{条件が一定に達しました。希少スキル「空間魔法Lv.6」を獲得しました。}
{条件が一定に達しました。希少スキル「空間魔法Lv.7」を獲得しました。}
{条件が一定に達しました。希少スキル「空間魔法Lv.8」を獲得しました。}
{条件が一定に達しました。希少スキル「空間魔法Lv.9」を獲得しました。}
{条件が一定に達しました。希少スキル「空間魔法Lv.10」を獲得しました。}
新たなる技能が天使の力によって司祭にインストールされる。
瞬間。
世界は激震のうちに崩壊した。
あらゆる魔法がその階層の内部空間の全てを破壊した。
それらは空間を吹き荒らし、創り、そして弾けた。
炎は全てを焼き尽くし、氷は全てを永遠の牢獄に閉じ込めた。
そして闇が全てを飲み込んだ。
莫大なエネルギーの中、司祭は新生天使を抱き抱え、何かを叫んだ。
そして、全てが無に帰した。
…
その場所に彼が帰ってくる事は1時間前に告げられた言葉から二人ともわかっていた。
が、帰ってきた時その身がそれほど傷つくとは誰も想像していなかった。
講堂の中心に突如として現れ、転がったその姿を見、二人は驚きに目を見開いた。
二人組の片方、黒いローブを着た細身の男が倒れ込む司祭に問いかける。
「それほどまでに魔王城の敵は厄介だったのか?」
「それは皮肉と…受け取ってもいいか?…ゴホッ。」
「いや、単純な疑問だ。お前は少なくとも私たちの中で一番強いはずだろう?」
苦しげに答える司祭にそう返す黒いローブの男。
「はぁ…いや、59層のボスはさほど問題じゃなかった…というより、すでに倒されていた。」
「倒したのは……聞くまでもないですか…。」
二人組のもう片方。
これまた黒いローブを着た長髪の女が発言する。
その目は、司祭の横で目を瞑る少女に向けられていた。
「君をそんなにしたのもその子が?」
「ああ…というか彼女の眷属と思しき魔物達だな…尋常じゃなく強化されていた…。」
「見たところまだ10代かそこらにしか見えんが、そんな少女が単独で魔王城59層ボスを倒した上魔物を眷属にして天使になったというのか?」
「ありえない。」
「ああ…だが事実としてここにある…こうなる以前、彼女はどうやら汚染されていたようだが、魔王が何かしたのかもしれん。」
「魔王がわざわざ天使を作ったと?」
「それこそ訳がわからん。そもそも彼女は何者だ?」
「身の上は今から調べる…とりあえずは彼女の回復が先決だ。」
「わかった…それは私がやろう。司祭は一旦休め。」
そういうと、細身の男が前に現れ、司祭を押し除けて少女の前に跪いた。
祈りを捧げるように目を閉じると、少女の横たわっていた地面に黄色の魔法陣が展開される。
軽い発光。
その効果は、少女の反応から察せられた。
「…ここは…」
ゆっくりと少女が目を開ける。
目線だけを動かしてあたりを伺う少女に細身の男は優しく語りかけた。
「ここは帝都の教会だ。私はそこで神父をしているものだ。」
「神父…様」
掠れがちな少女の声は、まるで何年かぶりに会話をしたかのように弱々しかった。
「それで…実は君に聞きたいことがあるんだが、君は一体何者なんだ。」
「私…ですか?私…私は…サラ…っ…あ…ああ…あああああああああああああああ????」
サラが自らの名前を発した瞬間、突如として覚醒したように彼女の目が大きく見開かれ、そのまま発狂した。
「どうしたんだ。」
困惑して聞く神父にサラは抱きついた。
「私…!わたし…!ああ…あああ…あれから…火竜に…自分で…自分を…ころ、殺してぇ!地獄みたいな…ぅ…魔物を…生きたまま…ぅえ…う、あああああああああ!!」
「落ちつけ、もう大丈夫。もう大丈夫だ。」
「…どう見るシスター。」
「どうもこうもないでしょう。」
泣きじゃくり発狂するサラの頭を撫で、声をかけ続ける神父の背後で、女…シスターと司祭は顔を見合わせた。




