262 神罰
そういえばずっと気にしてなかったんだけど、洗脳をした相手は生きたままその能力値を奪われるので、ゾンビ操作とかと違って色々な成長補正を生前の状態と同じように受ける。
それはスキル補助による能力補正だったり、熟練度や条件での称号獲得の補正だったり、魔物を倒すことによって得られる経験値と、レベルアップによる進化だったり…
…
{条件が一定に一定に一定に一定に
{エラーが
{天使への進化を開始開始
{中枢への
{スキルを還元しま還元
{深刻な不具合が
{媒体に問題が
割れるような頭痛に思わず頭を抱えてしゃがみ込む。
過去数多経験してきたそのどれにも当たらない激痛。
視界が霞む。
頭の中に何度も何度も何度も何度も反響する少女と天の声。
思考が鈍る。
{エラーが発生しました。}
地面についた手が鈍く透けている。
背中に痛みが走ったと思ったら、真っ白い何かが背後に広がった。
{変容を開始開始開始
{信仰を
パチパチと軽いスパークを出しながら頭上に浮かび上がる白い輪っか。
激痛が走る。
唸り声しかあげられない。
脳が内側から捻りあげられるような感覚。
握った拳が砂を無意味に掴む。
拳を叩きつける。
爆音。
魔女っ子の細腕の起こしたものとはとても思えないような破裂が目の前で発生する。
抉れた地面に転がり落ちる体。
砂が覆い被さってきてもなにもできない。
{中枢への接続を
{補助
体の内内から、無限の力が外に向けて押し出される感覚。
魂が圧縮され、変形していくような感覚。
全身の細胞一つ一つに至るまでが作り替えられているように感じる。
まるで体が私と言う異物を拒絶しているかのように、割れんばかりの頭痛が襲う。
鼻から吹き出た鼻血が顔を覆う手を赤く汚していく。
{条件が一定に
{鑑定Lv.24
{言語
悶えて地面を無意味に転がる。
砂の上にうつ伏せになり、頭を抑えて痛みに堪えた。
そうして悶え苦しむ私のもとに、奴は現れた。
ザク。
肉を突き刺す擬音。
久しぶりに聞いたその音。
これまで何度もやってきた所業のSE。
それが極めて身近に聞こえた。
?
霞む視界に、異物が映った。
私の胸の中心から生える剣の切っ先。
腕がガクガク痙攣する。
「ぁ…はぇ?」
嘔吐感。
口から勢いよく吹き出したのは、大量の血液。
ボタボタ溢れる赤い液体が乾いた砂を結合させる。
痛みと苦痛の中に混じる口内鉄感。
口を拭う。
血が止まらない。
背中に突き立てられたその剣は真っ直ぐ心臓を刺し貫いていた。
「お前、汚染されているな?」
気配は感じなかった。
直前まで。
全く。
心臓を刺し貫かれた時ですら存在を知覚できなかった。
私の体前半分に突き出た刃のもう一方を握り、私の背後にたった金髪の男が話しかけてきた。
「あ…ぁぁあ」
「私はとある教会の司祭をしているものだ。つい先ほどここで生まれた天使の保護にしにきた者でもある。」
軽そうに言う金髪はそう言い切ると、手に持った剣を勢いよく引き抜いた。
血が吹き出す。
胸と背中から赤が飛び散る。
私の身は手をつくことさえ許されぬまま地に突っ伏した。
赤だけが砂を湿らせる。
「gyaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」
魔物の絶叫。
分体が金髪に攻撃を仕掛ける。
いくつかの属性のエネルギーが一緒くたになって金髪に迫る。
が。
「邪魔だ。」
{希少スキル「烈風魔法Lv.10」の発動を確認しました。}
金髪が手を振るうと同時に発動した烈風が迫っていた攻撃を相殺し、そのまま背後にいた分体達を吹き飛ばした。
あまりの風圧に、何体かの魔物の体が引きちぎれ、カラフルな血と肉塊が降り注ぐ。
「少々荒療治になるが、許せ。」
歯を食いしばる私の耳元で金髪が囁いた。
{天使固有スキル「信仰Lv.10」の起動を確認しました。}
聳える女神像。
巨神の背に展開する光背。
砂漠は天上の世界へと景色を変え、数多数千の人間が跪き祈りを捧げる。
石の体を持つ女神はそれでもなお荘厳な威圧を持っていた。
柔和な笑みを浮かべる女神はゆっくりと目を開けた。
「神罰。」
その言葉が為された瞬間、女神に跪く数百の人間が首を掻っ切られた
勢いよく噴き出す血液。
大理石の地面に溜まった赤は最早浅い池のようになっていた。
人々の魂は光る糸となり、女神の体に吸収されていく。
女神の目が怪しく光った。
光背が光り輝き、数百の光線が放射状に展開される。
{「獄誘」の効果を観測しました。}
{「獄誘」の効果を観測しました。}
{「獄誘」の効果を観測しました。}
{「獄誘」の効果を観測しました。}
{「獄誘」の効果を観測しました。}
{「獄誘」の効果を観測しました。}
{「獄誘」の効果を観測しました。}
{「獄誘」の効果を観測しました。}
オート君の叫び声が反響する。
激痛を堪え、溢れる血液を抑えようと胸を庇う。
霞む視界に、金髪が再度手をかかげた。
「死罰」
次いで数千の人間の腹が裂けた。
いくつもの臓物がこぼれ落ちる。
歪な形になった人間が本来曲がる方向と逆に倒れる。
酸っぱい匂いが充満した。
女神の笑みが深さを増した。
人々の魂が女神の右腕に集中する。
女神が腕を振ると、極光を放ちながら一振りの剣が現れた。
女神が剣を構える。
ゆっくりと天に掲げられた聖剣は金の輝きを放つ。
天を切り裂く剣が、轟音と共に振り下ろされた。
血を吐いた。




