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ミクロな世界の女子大生  作者: やまとりさとよ
第六章 ミクロな世界の真実

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Code.1 (14)

試験が終わってから、大体1週間程度の時間が経った。


アドヴァンダルの合格者発表は試験当日から1週間。


つまり今日がその発表日になる。


「…それでは、行きましょうかおぼっちゃま。」


もうすっかり見慣れた宿の玄関で、いつもの如く人形のような出立ちで俺を待つカナンがそう言った。


心なしかいつもよりも表情が硬いように見えるが、無理もない。


今日の合格発表でカナンの人生が決まるのだから。


…まぁ俺の試験だったわけだが。


「オーケー。行こうか。」


試験の日にも着ていた両親に買ってもらった一張羅を着、真新しい靴を足にはめて俺はカナンが開けたドアから外に出た。



…。



ここ数日間で何度も通った道を進む。


周りには俺と同じくアドヴァンダルの合格発表を見にいくのであろう少年少女とその保護者が緊張した面持ちで歩いている。


その雰囲気に当てられた俺も当然緊張…は特にしていない。


「随分と余裕そうですねおぼっちゃま。」


俺のそんな態度に対してカナンがいつもより若干棘のある声色でそう言ってきた。


「んー…まぁ正直言って普通に合格できてると思うしね。」


「ぼっちゃまの事ですからそんなに不安じゃないですけど、それでも心配なものは心配なんです。」


「大丈夫大丈夫…。多分ね。」


「保険かけましたね。」


「あはは…。」


カナンにはこう言ったけど、本当に正直合格自体は余裕でできていると思う。


筆記試験の自己採点はほとんど100点だったし、実技に関しては言わずもがな、面接にしても大の大人が小学校レベルの面接で転ぶわけがない。


何なら首席合格もあり得るとすら思ってる。


若干ズルっぽいけど、これも運だ。


偶然異世界転生して偶然勇者輩出の名門に生まれて偶然帝都に住んでいた結果が今の状態だ。


ユーリーンの人生で幸せになるためには、持てるスキルは全部使ってやる。


そう決意を固めていると、アドヴァンダルの校門が見えてきた。


「いよいよですね。」


「まぁ、大船に乗ったつもりでいてよ。」


「端からそのつもりです。」


俺はそう言いつつも若干声が震えているカナンに笑いかけ、アドヴァンダルの荘厳なエントランスを潜った。



…。



「えーっと…1207、1207は…と。」


受験表を片手に、正面玄関前に建てられた巨大な看板を見上げる。


アドヴァンダルの受験者は五千を超えるが、そのうちで受かるのは三百程度。


ここに集まっている群衆の中で受かるのは一割に満たない。


ほとんどが項垂れて帰っていく中、俺はというと…。


「1120、1140、1152、1159、1179、1186、1190…」


ほとんど10飛ばしで進んでいく受験者番号。


若干暴れ出す心臓をおさえ、指でなぞりながら探していく。


その中に俺の受験者番号1207は…


「1207。お、あったあった。」


ちゃんとそこに存在した。


額にかいた汗を拭う。


余裕ぶっていたけど、それでもやっぱり俺は緊張していたようだ。


「とりあえず、これで一安心…ってうっ」


横から腹に向けての突然の衝撃。


一瞬の戸惑いの後、横でずっと息を殺して看板を見上げていたカナンであることに気づいた。


「カナン!?」


「よかったです…本当に。」


彼女の声は震えていた。


顔を俺の胸に押し付け、頭をぐりぐりしてくる。


「大丈夫か…?」


「大丈夫です……あんま見ないでください。泣いてるので。」


「あ、あぁ」


…まぁ、カナンの場合マジで命に直結してたしな。


俺はカナンが泣き止むまで彼女の頭をそっと撫でていた。



…。



「おーい。ユーリーン!」


未だ若干目を腫らしているカナンの手を引き、宿に戻ろうとした矢先、背後から聞き覚えのある声がした。


振り返ると、そこにいたのは銀髪碧眼、目にかかる程度の前髪は整った顔立ちをより凛として見せ、女と見紛うほどのTHE・美少年。


レミウルゴスだった。


「ああ、レミウルゴス。」


「お疲れ様だったな。で、どうだった結果は。」


少し不安気に聞いてくるレミウルゴス。


「それはもちろん合格だったよ。」


「おお!そうかそうかそれはよかった!」


俺の答えを聞き、レミウルゴスの顔が花開いたような満面の笑みに変わった。


「で、お前はどうだったんだよ。」


「お、俺か?俺はだな…」


俺が聞くと若干顔に影がさすレミウルゴス。


…まさか。


不安が胸をよぎる。


「もちろん、合⭐︎格⭐︎だったぜ!」


キラーンという効果音が鳴りそうな勢いでサムズアップするレミウルゴス。


…ちょっと不安に思った俺がバカだった。


「あ、あのっ、ユーリーン君!」


頭に手を当て、大きくため息をついた俺の後ろからまたも聞き覚えのある声。


「エイ様。」


カナンが先に反応した。


「あ、はい。エイです。あ、えっと、改めてこの間のお礼をしようと思って、えっと、今日なら会えるかなって思ったので、その、えっと、この間はありがとうございました!」


そう言い、深々と頭を下げるエイ。


相変わらず義理堅い子だ。


「いやいや、当然のことをしただけだし。」


「あっはうぅ」


俺がそう答えると顔を真っ赤にしてカナンの背後に隠れるエイ。


…元気だな。


「…なあ、ユーリーン、あいつ誰だ?」


エイ登場時から固まっていたレミウルゴスが俺に囁いてきた。


「ああ、えっと、この子はエイって言って、俺らと同級生だ。…あ。」


「だ、大丈夫です!私もちゃんと合格したので!」


「…同級生のエイだ。それでエイ、こちらが…」


「俺はレミウルゴスだ!よろしくな!」


「あ、えっと、よろしくお願いしますぅ…。」


そう言ってまたカナンの後ろに隠れようとするエイ。


するとカナンがエイの背中を持ち上げて前に引き立たせた。


「握手しようぜ!握手!」


手を突き出すレミウルゴスを涙目で見ながら恐る恐る手を出すエイ。


レミウルゴスはその手をガッチリと握り、手をブルブル振った。


「ひぇえええ」


「これで俺たちは友達だな!」


凹凸な二人で、見てて面白いと思った。





新しくできた友人3人とカナンで俺たちは帰路についていた。


「あーあ、とりあえず受験勉強が終わったとはいえ、色々大変だよなぁ」


レミウルゴスが少し気だるそうに言った。


「…まぁ、アドヴァンダルは一年生からやることがたくさんありますしね。」


意外とあっさりレミウルゴスになれたエイがそう答える。


「うーん。まぁそれもあるんだけどさ、宿題が出たじゃん?」


「宿題?」


「そんなの出てたか?」


…俺の記憶が正しければそんなのなかった気がするんだが…。


「でたぞ。郵便で送られてきたろ?」


「え、いや、多分送られてませんけど…。」


「マジか。じゃぁ俺だけってことかー?めんどくさいなぁー!」


レミウルゴスだけに配られる宿題ってなんだ?


「…何がきたか覚えてるか?」


「んー。確か作文をかけって書かれてたんだよな。『入学しての意気込みを三千文字くらいで書きなさい』みたいな。」


「え、それって。」


「…他にその手紙には何か書かれてたか?」


「そんなに俺の宿題が気になるのか?…えーっと…ああ、何だっけ確か題名が『首席合格者レミウルゴス様』みたいなことが書いてあった気がするな。しゅせきってなんだ?」


「は?」


「え。」


「へぇ。」


レミウルゴスが…首席合格者?


マジ?

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