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ミクロな世界の女子大生  作者: やまとりさとよ
第五章 ミクロな世界の覚醒

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Code.10 (5)


今年で七歳になるレミウルゴスは、筆記テスト、実技テストを終え、施設長に買い与えられた一張羅の裾を直しながら、面接室の前に置かれた椅子に座っていた。


数分前に彼の前番号の少年を吸い込んだ真正面の扉は重厚な威圧感を持って真正面にあった。


待合室はやや広めの立方体の部屋であり、中央には一脚の椅子とローテーブルが置かれ、ミルク色の壁に貼られた古風な絵画が凝った装飾の額縁に納められていた。


壁に貼り付けられた時計が立てる音だけが部屋を支配していた。


ベランダに続く窓から差し込む日光に若干目を薄めつつ、椅子のクッションに体重をもたれていたレミウルゴスは一人静かにため息をついた。


拳を開く。


赤いものが視界に映った。


手のひらに付着した少々の血液をハンカチで拭き取りながら、レミウルゴスは少し何かを考えるように目を瞑ったが、1秒もしないうちに目を開けた。


脱力するように首を傾ける。


きめ細やかな白髪が作り物のような顔に垂れてきたところを煩わしそうにレミウルゴスは手で払った。


時計が時間を1秒に分けて刻む。


大きな目は太陽の光を反射していたが、その目に生気を感じ取ることはできなかった。


生き人形のように静止しながら、前の受験者が面接を終了するのをレミウルゴスは待ち続けていた。



…。



「失礼しました。」


その声の数瞬後、扉が閉まる音が背後から響いた。


どうやら前の受験者が帰ったようだった。


レミウルゴスは座っていた椅子から立ち上がり、事前に確認した面接の手順に沿って静かにドアの前に立ち、ノックをした。


軽い木の音が響く。


数秒後、中から声が届いた。


「どうぞ、お入りください。」


若い、鈴のような女の声だった。



…。



面接室は一定の緊張感に包まれていた。


待合室よりもさらに若干広めの空間に、椅子が3対1で置かれ、座った3人の教員がレミウルゴスを見ていた。


幾らかの重圧と値踏みをするような視線にレミウルゴスはある程度の冷徹な目で返し、3人に対し頭を下げた。


「どうぞ、座ってください。」


そう声を発したのはレミウルゴスから見て最も左の教員、髪が後ろに後退し、やや太り気味の中年の男だった。


「失礼します。」


そう言いレミウルゴスは置かれた椅子に着席した。


「それでは、面接を始めます。」


先程座るように促した中年の教員が机に置かれた資料を見ながらそう言った。


他の二人、真ん中に座る中年教員よりもさらに歳の取った白髪の高齢教員、そして右に座る二人とは対照的に極めて若く、教員と言われなければ魔法学校の生徒かと勘違いしそうな見た目の白髪の女教員は机の上の資料に手をつけず未だレミウルゴスを注視していた。


「私の名前は魔法化学学部教授ユースタシア・ストリッチ、右が魔物研究学部教授アーノルド・セトレス、そして、


「アドヴァンダル魔法学校理事補佐、サラです。よろしくお願いします。」


ストリッチの紹介を遮るようにサラが自らの自己紹介をおこなった。


ストリッチはそれに少々面食らったように一瞬目を剥いたが、すぐに元の顔に戻り、レミウルゴスに自己紹介をするように目で訴えた。


「受験番号0018、ハルド・レミウルゴスです。よろしくお願いいたします。」


凛として答えるレミウルゴスに満足したようにストリッチは資料に再度目を落とし、告げた。


「よろしい。それでは、質問を開始します。」



…。



Feat.サラ


アドヴァンダル魔法学校のその日の職員会議は、当然の如く合格者の選別だった。


アドヴァンダルの受験者は毎年5000人を超える。


その中で合格できるのはわずか300人程度。


教会下の帝立学校であるが故に、その合格基準は当然のように厳しくなっていた。


勉学、性格から趣味嗜好まで、アドヴァンダルにふさわしくないものは構築された特別選別魔法術式で片端から省かれていく。


職員会議はそうして選別された受験者をさらに絞り込むために開かれていた。


魔法学校において最も重要ものの一つに戦闘力が存在する。


魔法、武術、どちらにおいても幼少期から特に秀でているものだけがアドヴァンダルの下で学ぶことができる。


実践訓練の様子からそれらはさらに絞り込まれていき、会議はついに最終段階。


1-A特進科生徒の選抜である。


5000人に及ぶ受験生の中から選ばれる上位30名。


特に将来が有望視される生徒が選ばれるクラスの名簿が会議室のスクリーンに投影された。



『アドヴァンダル魔法学校1-A特進科生徒名簿


1 : ハルド・レミウルゴス


2 : レーニン・ユーリーン


3 : フォルスト・レストリア


4 : アーグリウス・ミハネ


5 : ハンス・リメライン


6 : アーミン・ジェクト



30 : アーク・サイパー』


会議室にざわめきが起こった。


「レミウルゴス…あのアグリ先生を下したと言う…」


「レーニンの子がいるじゃないか」


「あのレーニンか?」


何人かの教員がサラの方に視線をやったがサラはそれを意図的に無視した。


「筆記、実技結果からこの30人が上位という結果が出ました。」


痩身の若い教員、ラムルスがそう説明した。


「例年通りですと、特に大きな問題がない限りこの通りにクラスが編成されますが、異論ある方はいらっしゃいますでしょうか。」


「異論なし。」

「異論なし。」

「異論なし。」

「異論なし。」


いくつもの声が重なり、一つの言葉を繰り返した。


「では、1-A特進科生徒の選抜会議は以上になります。」


拍手が会議室中に鳴り響いた。


「では、解散。」


理事長がそう言うと、会議室はざわめきに包まれ、それぞれたち上がった教員たちが話しながら部屋を出て行く。


サラは一人名簿を見続けていた。



…。



最後の一人が会議室をでていき、一人閑散とした部屋の中でサラは独りごちた。


「Code.3…ねぇ。」


一瞬彼女の背中に白い羽が現れたかと思ったら、それは一瞬の瞬きの後に消え去っていた。

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