229 フラグ回収とか言ったやつ誰だ。
…今さっきフラグ回収とか言ったけど、んなこと言った私をぶん殴ってやりたい。
飛んでくる拳を紙一重しゃがんで躱す。
空ぶった先で打ち据える対象を見失った拳が無造作に洞窟の壁面を破壊する。
壁が崩れ落ち、それに伴う爆風に首をすくめた直後、鰐猿のもう片方の豪腕が頭上から打ち下ろされた。
一瞬先、触手を前方に突き出し、吹き飛ばされるようにして拳の攻撃範囲から逃れる。
慣性の法則に従ってゴロゴロ洞窟を転がる私。
束の間、既に鰐猿は私の背後に立っていた。
私が後ろに逃げるより早く、鰐猿が背後に回り込んでいたことを一瞬で悟る。
極大の恐怖が身を包む。
地面に寝転がる私に迫る人間大の脚。
争う術はなかった。
身体強化系のスキルが一緒くたになって私を襲う。
世界が崩壊したと錯覚するほどの激震。
全身の骨が一気に砕け散るのを感じた。
紙切れのように吹き飛ばされ、私の体は洞窟の壁に勢いよく叩きつけられた。
壁に大きなクレーターを残して地面に激突する。
視界が霞む。
曖昧になった意識が復活するより先に更なる衝撃が腹部にかかる。
揺れがちになった目が捉えた先には私の腕に突き刺さる拳があった。
声にならない悲鳴が漏れる。
あたりにぶちまけられた血と肉と内臓が酸っぱい匂いを放つ。
最後の力を振り絞って触手を動かす。
抉れた腹を庇いつつ一本の触手を地面に突き立てそれを軸に横回転。
腹から噴き出す鮮血が悲鳴をあげるけど、そんなの知ったこっちゃない。
鰐猿の背後に回り込む。
一瞬私を見失う鰐猿。
その一瞬があれば十分だ。
鰐猿の視界から消えたまま、触手推進でさらに後方に退避。
と同時に切り札その1発動!
{パクテルアクストラレータからの要請を受けとりました。スキル「影魔法Lv.3」を発動します。}
{パクテルアクストラレータからの要請を受け取りました。スキル「幻魔法Lv.2」を発動します。}
瞬間、周囲に溶け込む私。
完全に私を見失った鰐猿が地団駄を踏む。
踏みつけた地面に放射状のヒビが入る。
咆哮。
あまりの音量に洞窟それ自体が鳴動する。
…ふぅ。鰐猿レベルになると切り札その1も看破してくるんじゃねーかって不安だったけど、特に問題なさそうで安心したわ。
さて、さっきのセリフの続きを言いますか。
あいつ強すぎんだよコノヤロー!




