過去編 第四章 女子高生の場合
「ああっがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああああああああっ!!!!」
Liveで流れてたバラエティが狂乱の渦に巻き込まれてる。
コンビ芸人が血を吹き出し、女優が顔を掻きむしる。
まともに立っている人間は一人もいなかった。
唯一、おそらく機械に固定されているのであろうテレビカメラだけが不動を保っていた。
あまりのうるささにチャンネルを変える。
うってかわって今度は全員まともだった。
ドッキリを仕掛けられた俳優が唖然とした様子でカメラを見つめているのに、スタジオの芸能人がコメントし、オーディエンスから笑いの声が漏れる。
この世界でここに収録されている人間だけがまともだってことを考えると、なんだか滑稽に思えて来て、少し面白くなる。
柄にもなくニコニコテレビを見ていると、唐突に頭の中でウィンドウが開いた。
{魔王と天使はそれぞれの持ち場についてください。}
女神様の声が脳内に響き渡る。
神たる荘厳さを持って語り掛けられる言葉はシステムの開始を告げていた。
「ふぅ。」
一人息を吐いて、リビングのソファから立ち上がる。
リモコンの電源ボタンは、私からの指圧を十全に受け取りテレビの電源を消した。
ブゥンと、蜂の羽音みたいな擬音がダイニングの方で鳴る。
地面で頭をかち割ってぶっ倒れてる父親の上を跨ぎ、机周りに溢れてるゴミ袋を蹴ってどかす。
ゴミ袋の下から出て来たゴキブリが、殺虫剤をかけられた時みたいに身を捩りながら痙攣してる。
システムってゴキブリにも効くんだとか思いながら、机の下の床に現れた青色の魔法陣になんの躊躇いもなくタッチした。
…
目がまわる。
三半規管がどうとか言う問題以前に、体がバラバラになって、もう一回構成されるような衝撃が体を揺さぶる。
光が点になって星屑みたいに大量に辺りを埋め尽くしたかと思うと、線になって後ろに流れてく。
そんなはちゃめちゃな状態に揺られること数秒。
私は、気付いたらとんでもなく広い平な土地に突っ立っていた。
凍えるってほどじゃないけど、地元に比べると大分冷たい風が私の肌を撫でる。
部屋着のままここに来たことを若干後悔するけど、まぁそんな大した問題でもないと思い直す。
{システムを読み込みます。}
手持ち無沙汰で突っ立ってると、またしても脳内に声が響く。
今度のは女神様の声じゃなくて、人間の声をつぎはぎして作ったような人工音声風な感じだったけども。
{読み込み中…。}
その声が発せられると同時に、目の前のだだっ広い空間にとんでもなくでかい透明な壁が出現する。
それは幾つかの魔術を組み合わせて作られており、水平線から水平線までつながっている。
薄ピンクの光をぼんやりと放ちながら、外界と内界を遮断する結界の内部で、更に魔術が行使される。
何千、何万の大小様々な魔法陣が空に浮かび空を埋め尽くしていく。
ある物は楔を地に打ち付け、ある物は天高い建造物のようなホログラムを作り出し、ある物は面上のレーザー光を照射する。
{読み込み中…}
{読み込み中…}
{読み込みが完了しました。}
どうやら読み込みが完了したっぽい。
薄ピンクの結界が青色に変わる。
中に入れるようになったようだ。
結界の側面に手を触れ、そしてそのまま私は中に入った。
…
結界の内部に侵入した瞬間、私の中の何かが活性化したのを知覚した。
私の中の厨二心が溢れ出す。
「ステータス」
こっそり呟くと、私の目の前に青色のステータスボードが現れた。
{魔王
SP : 1000/999999
称号:(管理者)(魔王)
権能:「Code.8」「Code.10」「魔王」「SP自動回復」
特記事項: system ID : oris08xt00&0001}
「おふ」
なんかよくわからないため息が漏れる。
なんと言うか、その、あれだ。
私の役割は一応理解してるつもりだったけど、いざこうして目の前に突きつけられると、なんかとんでもないことになったって事がじわじわと現実として私の中に染み込んでくる感じがする。
明らかにチート。
なんと言うか、あまりに捻りのない公式チートだ。
まぁ実際私の役割的にこのくらいはないといけないんだろうけど、役職的な意味で考えるとなんか明らかにぶっ壊れてるのがわかる。
{「Code.10」の権限を解放しました。}
人工音声のアナウンスが流れる。
灰色に染まっていたステータスボードの「Code.10」の枠が白く光る。
手を伸ばして逸らす。
ふぅ。
それじゃぁ、まずは手始めに魔王城から作り出してやろう。
私は権能を発動させた。




