20 やったねバクちゃん家族が増えるよ!
まさかの二週間遅れ
…は?
未だ状況を理解できずに呆然とする私をよそに、オート君がいつもの無機質な声でこの状況に対応した。
{外部からの直接攻撃を受けました。ミニマムレッサーバクテリアを戦闘態勢に移行します。}
{分体に敵の抹殺を遂行させますか?
―yes
―no}
え?
え?
は?
余りの状況展開の速さにもう9.9割パニックに陥っていた私は、またもや振り下ろされてきた、見慣れた紫色の刃を避けることができなかった。
{再度外部からの直接攻撃を受けました。全防御系スキルを自動展開に移行し、オリジナルからの反応が無いので分体に敵の抹殺命令を出します。}
{熟練度が一定に達しました。スキル「物理攻撃耐性lv.2」を獲得しました。}
またもオート君の無機質な声が流れ、私を攻撃してきた元分体は私の現分体に抹殺された。
…。
取り敢えずだけど、オート君が咄嗟にやってくれた戦闘態勢を解除した今でも切られた二本の触手の痛みは見た目ほどに痛くない。
感じとしてはカッターとか使ってて
スパッ。
ドブシュッ。
プシャアー。
あ、切っちゃったテヘペロ☆って感じかな。
これは多分私と目の前にいる八つ裂きにされた元分体が苦労の末に手に入れた「痛覚軽減」とかいうスキルのおかげだと思う。
で、何で私の分体だったこの子が私に襲い掛かってきたのかってことなんだけど、これは多分、視覚集中をさせた時の苦しみが酷すぎて、無理矢理視覚集中を止めるために私の支配ごと脳からのすべての繋がりを切ったんだと思う。
そんなことできんの!?
って感じだけど出来てるんだから出来るんだろうね。
げに恐ろしきは生物の生存本能って奴?
で、そのままただの脳のないミニマムでレッサーなバクテリアに戻った元分体のこの子が「生物を殺め、捕食する」という行為を私に向けてやってきたってことなんだと思う。
ま、この子は私のスキルから生まれたわけだから私を殺したらこの子も消えるけどね。
しっかしなー。
まさかここまで視覚を共有することでダメージを負うとは。
多分あの量の視覚情報をバクテリアの貧弱な脳で処理するのはきついのかなー。
でも、情報のない状態で生きていくにはこの世界はあまりにも厳しすぎる。
伊達に私もsociety4.0を生きていた女子大生じゃない。ネットもスマホもない状況でサバイバルさせられたら秒で死ぬ自信があるね。
ま、普通にサバイバルするだけだったら私には鑑定というチート系なスキルを持ってるわけだから問題はないんだけど、戦闘ともなると鑑定さんはほとんど役に立たない。
精々敵の攻撃手段を把握したり対抗策を教えてもらったりするくらいで…。
ってうん。
意外と役に立ってますな。
まあいいや。
…でも実際事戦闘においては鑑定に頼りっぱなしじゃ勝てないこともあると思う。
その為にはやっぱり情報を共有する方のネットワークも必要になると思ってるんだけどなー。
ま、案自体はあるんだけどね。
視覚情報を共有できるようにしたい。
でもそれを可能にさせるには脳のスペックが圧倒的に足りない。
するとどうするか。
こうします。
{ミニマムレッサーバクテリアからの要請を受け取りました。固有スキル「自我植樹lv.11」を起動しますか?
―yes
―no}
Yes。
<自我を植え付けられた分体はオリジナルの性質に似る>
オート君はそう言ってた。
オリジナル。
つまり私。
その私に似た性質の自我を持ったバクテリアがもう1体作られるということ。
そうして私と分体で視界を制御できれば願ったりかなったりだ。
と、いう考えのもと、一体の分体に自我植樹を使ったわけだけど、一つ疑問..というか心配なところがある。
<自我を植え付けた分体の操作権限はオリジナルからはく奪される。>
オート君はそんな感じのことも言ってたはずだ。
だ、大丈夫かなぁ。
私が今分体と同じ立場になったとしたら全力で懇願して回避する。
てか分体は要するに私なわけだから今言ったこと分体がする可能性大じゃん。
懇願返ししたら何とかやってくれたりするかな?
私って見た目じゃ全くわからないかもしれないけど相当に頑固だからなー。
え?
知ってた?
あははは。
ばかな。
なんて脳内茶番をやってると私の頭の中に毎日聞いている、聞きなれた声が響いてきた。
{ハローオリジナル。}




