152 死と絶望は突然に(第三者視点)
―そしてそれから更に数時間後。
転移して早々に餓死するくらいならと背中から生えてくる触手でも千切って食ってやろうかと思い始めた矢先。
ソイツは突然に現れた。
―ガサ、ゴソガサ…
その音を聞いた瞬間、私の中の空腹に緩んだ気持ちが一気に弾きしまる。
生き物の気配。
数は…足音的に複数か?
多足類だとしたらその数見積は外れるけど、常に事態の最悪を考えていた方がいい。
敵は岩陰に隠れてる。
切り札その一発動!
幻と影が渦巻き、私の姿は闇に紛れる。
敵がどのくらいの強さなのかは未知数だ。
取り敢えず初手は不可視の死角からの一撃必殺で。
警戒は怠らぬように。
ついでに幾つかの魔法も準備しとく。
よし。
準備は完了した!
いざ尋常に勝負!
息を殺し、足音を消し、滑るように岩の反対側に回り込んで…。
{ピータン lv.5
HP 89/ 164
МP 95
SP 160/210
平均瞬発力: 130
平均攻撃能力: 90
平均魔法攻撃能力:133
平均防御能力: 189
称号:
スキル : 「飛翔Lv.1(new)」「強顎Lv.3(new)」
特典スキル:
経験値: 551
特記事項:}
何とも形容し難い奇妙な姿をした雑魚を見た。
…。
体調は50センチくらい。
バッタのような細長い面に、大きな複眼。
昆虫、強いて言うなら蟻のような胴体に、皺枯れたエンドウマメのような白い羽と、胴体下部に何本も生えた人間の手のようなものが足の体を成していた。
何これ。
え、いや、ちょっと待て?
え?
何これ。
気持ち悪いが具現化したみたいな姿してるんですけど?
有り余ってた食欲が一瞬にして消し飛んだんですけど?
え、異形型ってこう言うこと?
つか、何このステータス。
HP、SPに関してはまぁまぁな値なのに、スキルが「飛翔」と「強顎」て。
「強顎」に関しては最早これが唯一の攻撃手段ですって言ってるようなもんじゃん。
要するにこれは名前から推察するに顎の力を強くするスキルって感じでしょ?
しかもこの経験値量。
551.
つまりはこの程度。
マジもんの雑魚。
本当はこう言うところで雑魚扱いして油断するのは死亡フラグなんだけど、それすらも許されるくらいの雑魚。
死ぬほど警戒して切り札まで発動してる私が馬鹿みたいじゃないか。
あーあ。
心配して損したー。
こいつを殺したところで食う気も起きないし、経験値の足しにもなりそうにないから、もうスルーでいいかなー。
んじゃ、切り札その一も切ってと…。
ーズゥンッッ
勢いを一気に削がれた私がさっさと切り札その一を切ろうとした瞬間。
突然に響いたその足音が私の手を止めた。
…。
{ペータン lv.8
HP 360/ 379
МP 462
SP 299/342
平均瞬発力: 321
平均攻撃能力: 532
平均魔法攻撃能力:427
平均防御能力: 462
称号: (異形殺し(new))
スキル : 「飛翔Lv.5(new)」「剛顎Lv.8(new)」「物理大攻撃Lv.6(new)」「火耐性Lv.2(new)」「土耐性Lv.5(new)」「火魔法Lv.8(new)」「物理攻撃耐性Lv. 5(new)」
特典スキル:
経験値: 5737
特記事項:}
…姿形は先刻のピータンと全く同じ。
しかし、大きさだけは常軌を逸していた。
5メートル。
視界いっぱいに広がるグロテスクな顔は、私ではなくピータンに向けられていた。
―ブンッッッッッッ
巨大な体躯を揺らして放たれた前肢の一撃は、絶対ステータスと物理大攻撃の力を持ってしてピータンを襲う。
―ズガァァァァァァンッッ
爆音が鳴り響き、前肢がピータンに着弾する。
当然のごとくそれは外殻を貫通し、ピータンは内側から爆発するように絶命した。
“元”異形の肉塊が辺りに降り注ぐ。
その惨劇を起こした張本人であるペータンは、その破片の一番大きなものを口で拾い上げ、そのまま足音を響かせ去っていった。
その間僅か数十秒。
私は、ずっと岩陰に隠れていた。
ピ、ピィタァアアアアアアアアアアン!!




