とある魔族の話(2)
円卓に並ぶ幾つもの椅子。
そこに座る1人の女が私に向かって話しかけてきた。
座高から、背丈はおよそ150センチほど。
豊満な胸を漆黒のドレスに包み込み、その大きな黒目を小さな頭に埋め込み、羊のような角を生やしたサキュバスの女は、第103階層のボス、名前はアイシャだったか。
して、質問は先日突然言い渡された魔王様の魔王引退についての話。
あの方はいつもいつも突然何かを言い出してはすぐにそれを実行しようとする行動力が生物の形をした様な方だったが、今回の件に関しては些かことが大きすぎる。
なんせ千年間もの間この魔王城を管理し続けてきたのはあの方なのだから…。
「っておーい。聞こえてるー?シュバルトさーん。第96階層ボスのシュバルトさーん!」
呈された疑問についての悩み事にまたも頭を悩ませていると、問いかけに反応しない私を不満に思ったのかアイシャが肩を揺らしてくる。
「…ああすまない。考え事をしていた。」
「あーうん。それについてはいいんだけど。んで、魔王様が辞めるってほんとなの?」
「ああ、その様だ。そのことについての会議で、我々知能系が集められているのだからな。」
「そっかー。ま、私はザ・知能って感じじゃないけど。…そんで、今の魔王様が代替わりするってことは二代目は誰になるわけよ。」
「それはいまだに誰にも公表されていない。今回の会議で魔王様が直々に発表されるそうだ。」
「成程ねー。なれるといいね、シュバルトさん。」
「は。私などまだまださ。きっともっと強い配下を魔王様は次期統治者に任命するだろうさ。」
「はは、ご謙遜を。そんな馬鹿みたいなステータスして、よくそんなこと言えるわよね。吸血鬼の真相×古代龍だったっけ?どんなことがあったらそんな化け物になるのよ。
ま、それを言ったら魔王様も大概だけどねー。
っと噂をすれば。」
私の事を興味深げに見ていたアイシャの視線が外れる。
その視線の先で、円卓の入り口である重厚な扉が重々しい音と共に開かれ、魔王様が入ってこられた。
圧倒的な威圧感。
あまねく生命の頂点に君臨せし太祖。
限界値に達したステータス、そのエネルギーを内包している幼い見た目の魔王は地面にひかれた赤い絨毯を踏み締め、いつもの定位置に向かう。
背中から白鳥の様な翼を生やし、真紅の血で全身を初めた血濡れの天使を連れて。
「おっし!それじゃ、今から魔王城直下緊急会議を始める!」
魔王城のはるか下。
深淵の奥底、第99階層。
岩壁と壁にかけられた不気味な絵画がランプの灯に揺れる中、円卓に並べられた豪勢な食事を囲んで魔族の命運を分ける会議がはじまった。




