13 お腹が空いたら駆けつけてくれるパン系ヒーローもおんなじようなことしてるよね。そういえば。
さてと。
取りあえずはここから脱出しますか。
こんなのが漂ってたら絶対他のミクロな世界の住人が集まってくると思うのでね、まあ私は、お残しはしない主義なんだけど、いまだに私の刃が突き刺さってるところからあふれ出てくる液体を見るとちょっとね…何と言いますか。
うん。
じゃま、一回刃しまっていかないと脱出できないし、先ずは戦闘態勢から通常フォルムに移行しましょかね…!
え?
{警告:SPが5%を切っています。早急にSPを回復してください。}
何…だと。
戦闘態勢から通常状態に戻した瞬間、すさまじい空腹感と人工音声の声が聞こえた。
脳が、魂が、体を構成する要素一つ一つが絶望的なほどの飢餓感に悲鳴をあげる。
真空かと錯覚させるほど収縮し切った胃が周囲の内臓を引き込み、体内から万力で潰されたような鋭い痛みが継続的に襲いかかる。
全身の筋肉が弛緩していき、気怠さを2000倍濃縮還元&純粋培養したような脱力感が全身を犯す。
…誰だ!
バクテリアはおなか減らないとか言ったの!
ばりっばりにお腹すくやんけ!
1秒1コンマ秒その瞬間そのごとに飢餓感が脳を蝕み、本能が食い物を渇望する。
…くうっ。脳内で何か考えるだけで空腹感が増す!早く何か食べないと…!
は!クマムシの脳!
…
と、いうわけで現在に至ります。
いやーマジで瞬間系ドッキリはやめてほしいんだけどなー。
ちなみにだけど、恐る恐るちょっとだけ生やした刃で切り取って口に運んだクマムシの脳は想像してた通り味がなく、臭みもなかった。
多分だけどこれはもともとクマムシの脳が無味無臭ってわけじゃなくて、バクテリアには味覚や嗅覚が存在しないんだと思う。
触覚やら視覚やら聴覚やらがあるのに、嗅覚や味覚がないってのもおかしな話かもしれないけど、多分バクテリアにはものを食べるときに毒の有無や黴菌が入ってるからあんまり気にしなくてもいいから発達しなかったってだけなんだろうね。
それかそもそもの問題それを再現するほどの高度な生命体じゃないか。
…どうでもいいけど。
…そう言えば、なんで戦闘態勢から戻った瞬間におなかが減ったんだろ?
モグモグと口を動かしながら考える。
{戦闘態勢中は、痛覚や空腹感等の戦闘に支障が出るような感覚は脳に伝達される前に阻害されるようになっています。}
すると、即座に人工音声が答えを言ってくれた。
へーそうなんだー。
なるほど、わかりみ。
…ってちょっと待った。
さっきからやけにタイミングよく返してきてくれてるけど、人工音声。あんた何者?
{「鑑定lv.17」の派生スキル、「応答」です。}
はぁーレベル17の派生スキルですか。
まあそんだけ高レベルならそんだけ高性能なのもうなずけますな。
ふーん。
レベル17ねぇ。
…レベル17。
ん?
待てよ?
レベル17?
え?
ちょっと待って?
高くね?
めっちゃくちゃに高くね?
そんな高性能な鑑定を一介のバクテリアである私が持っちゃってていいの?
{…。}
…反応なし。
…んー。
まあ、いいのか。
すでにもうもらっちゃったし。
貰ったものを返す義務なんてない。
というか返す気なんて毛頭ない。
ありがたく有効に使わせていただきますかね。
でも「応答」の呼び方毎回「人工音声」とか「応答」とかじゃなんか味気ないなー。
「応答」。応答。おうとう。おーとう。オート―。
うーん。
じゃ。今日から君の名前は「オート君」な!
今から0.000000000003秒以内なら異論を認めてやる!
ないね!
じゃあ決定!
{…。}
オート君は何も言わずに沈黙した。
ふう。
じゃあ食事タイム、再開です。
…。
むしゃむしゃむしゃむしゃ。ごっくん。スパッ。パク。むしゃむしゃ…。
私は、口をモグモグクッチャクッチャしながら考える。
戦闘態勢。
これはどうやらオート君によると、刃や良く分からない毛を生やしたりする能力以外に、痛覚や空腹感を感じさせなくする効果もあるようだ。
確かにこの効果があれば相手からの攻撃に怯みにくくなって、相手を倒しやすくなるだろう。
でもそれと同時に、痛覚や空腹感とかっていう苦痛は脳への危険信号だ。
それが切られるってことは…。
大怪我をしてるのに気付かずに失血死したり、おなかがすいてるのに気づかず、行き倒れちゃったりってことが容易に想像できる。
そうだな。これからはこまめに戦闘態勢になる必要がなかったらキッチリ解除していこう。
…バクテリアにケガという概念があるのかは知らないけど。




