113 休戦ボス部屋 ②
改めて魔女っ子の方に向き直る。
おそらくはラノベとかで言ったら物語の重要なキーマンになることはなく、ただただ主人公のハーレム要因として作者に物語の厚みを持たせる為にどこかで殺されるであろう立ち位置の魔女っ子。
只、仲間を2人逃し、唯一残ったメイドも至極あっさりと殺された魔女っ子がこちらを見上げる顔は、晴れていた。
思わず私は動きを止める。
戸惑い。
得体の知れない、未知。
訳の分からない嫌悪感。
魔女っ子の顔を見て原因不明の当惑を覚えた私は、次の瞬間懐からナイフを取り出して自分にそれを突き立てようとする魔女っ子の姿を見逃せなかった。
私の中で何かが暴発した。
考えるよりも先に体が動く。
火翼が展開し、魔女っ子に肉薄する。
土魔法が構築され、魔女っ子の足に絡み付く。
魔女っ子が持っていたナイフを取りこぼす。
顔は依然として晴れやかな笑顔のままだった。
…。
…あれは、違う。
あれはこれから死ぬって事を物理的に理解した生き物の顔じゃない。
あれは、怪物の類だ。
そこに宿るのは満足感?いや自尊心?
自身の死を何とも感じていないような。
例えるなら、そう。
あれは、笑いながらアメリカ船に自爆特攻していく日本兵だ。
お国のため。
町村のため。
家族のため。
愛人のため。仲間のため。平和のため。勝利のため。栄光のため。武功のため。競争のため。復讐のため。絶望のため。
軽々しく命を投げ出す。
…反吐が出る。
目の前の目標に囚われて手っ取り早く成果を得ようとして、結局何も得られず死んでいく。
そこが人間の傲慢なところであり、醜悪なところであり、愚劣な所だ。
だから私は魔女っ子のその表情が気に食わない。
私自身、人間として破綻しているのはよくわかってる。
自分でも自分の異常さはよく理解してる。
それでも気に食わない。魔女っ子の思い、その全てが。
だから私は何もかも踏み躙る。
分体を一匹、魔女っ子の方に向かわせる。
そして、いつもの手順で魔女っ子の頭の中に入り込んでもらう。
リルラク・フォン・サラ。
殺しはしない。
只、それ相応の苦しみは味わってもらう。
私は、分体に洗脳を起動させた。




