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第6話 神を守る者達

 夕刻のチョコランタ城の執務室で、今日の仕事を終えて、ビター()は考え込んでいた――


(俺が王になって約2年半か……)


 約3年前の女神誕生祭(メシアフェスティバル)の2度に渡る“あの光”――


 現段階でわかっている事をまとめると、2度目の光は“神の加護持ち”しか見えていない――

 “最初の光”は、大広間に差し込むあれだけの眩しい光にも関わらず、街の者達は全く気付いていなかった――

 そして驚く事に、あの日大広間に居た(ほとん)どの者が、ひと月も経たないうちに光の事を()()()という不可解な事が起こった――


 事の発端は、バトスが「光? なんの事だ?」と笑えない冗談を言い出したのが始まりだ――

 でも、バトスは嘘のつけない正直な奴で、冗談を言ってる素振りもなく、本気で忘れていた――


 あの場にいた者に聞き込みをすると、()()()()()()()()()()()が“忘れている”と判明した――


 その()()とは――“神への()()”――


 神の加護を授かった俺や親父――

 そして、隣国マカダミア王国へ留学している弟のホワイティスこと“ティス”――

 神の“加護”は言わば、神との“絆”のようなものだから、当然()()()()()――

 俺はティスに嫌われているから、アイツが光を見たという事も親父から聞かされた。

 マカダミアにいたティスが見えている事から、距離は関係ないとわかる――


 そして、神の加護持ち以外で覚えていたのは、()()()()()――


 ひとり目は、欲望という名の執着に囚われた大臣、ランドルフ・ブロバイン――

 神メシアが再び降り立った光だと躍起(やっき)になって、大臣(クソジジイ)が指揮をとって神を探している。

 何か企むような顔で嗤うから、見つけても知らせるつもりがないと見え見えだ。それを承知の上で、()()()泳がせている――


 そして、ふたり目は昔馴染みでもある王族近衛騎士(ロイヤルナイト)のサンセット・ゲイン――


 サンセとバトスとカイトは“王の懐刀達”という大層な呼び名で城の兵士や貴族達からも一目置かれているが――

 俺からすると親友とも言える昔馴染みで、歳も近くて素でいられ、昔から一緒に居て楽な存在だ――

 バトスは脳筋バカだし、カイトは無表情で冗談も通じない。要するに、何をしでかすか怖いふたりを、最年長のサンセが暴走しないよう食い止めて兄のように面倒を見てくれた。

 そんなサンセもしっかりしてるように見えて、実は抜けてる所もあって、全部の面倒が俺に降りかかる事もあった。

 それで、3人の頭文字をとって三馬鹿(サンバカ)と勝手に命名した。そんな風に冗談で呼べる程には三馬鹿(あいつら)を信用している――


 周囲に有名な三馬鹿(あいつら)の中でも、サンセは“笑顔の絶えない紳士な爽やか好青年”と男女問わず好印象を抱かれていた――

 当然貴族令嬢にもモテていたが、その()()のおかげで上手く(のが)れる(すべ)を得ていたのだろう。

 実際、()()()()は俺もよく使っている。王族が不安がれば伝染するし、怒れば萎縮(いしゅく)させてしまう――

 それ故に“王族たるもの心根で思っている事を顔に出して悟られるな”と育ったから――


 けど、俺もサンセも()()()()は親しい者の前では取り払われる。と言っても、敬語がタメ口になって、笑顔もよそ行きの微笑みから楽しげに笑うようになるくらいか――


 よく知った仲だと思っていたけど――

 サンセはこの約3年の月日で、俺にだけは隠さず()()を見せるようになった――

 女神誕生祭(あの日)以来、サンセは三馬鹿(サンバカ)ネーミング由縁の()()を良い意味で裏切った――

 王族故に、相手の顔色や声色を伺う事に長けている俺すらも(だま)す程に、サンセは()()()()()()()()――


(今になって思うと腹立たしいな……)


 これまでの面倒事の数々が脳裏に過ぎり、懐かしむように口元が少し緩んだ――

 

 女神誕生祭(あの日)から変わって神を覚えているってことは、サンセも大臣(クソジジイ)と同じ神を崇拝する信者?


(いや、()()ではないな――)


 大臣(クソジジイ)は神を道具のように利用してやろうって欲まみれな感じだ――


(じゃあ、サンセはなんだ?)


 ふと、子供の頃の記憶が過ぎった――


 サンセはいつも絵本を持っていた。

 たしか【メシアとメシス】という幼子にも神のことを教え伝える為の、ポピュラーな絵本だ。

 サンセはいつも目を輝かせてその絵本を見ていた。まさに、恋する少年のように――


(“敬愛”からくる“執着”か……)


 すると、ノックの音が部屋に響いた――


「ビター? ちょっといい?」


 噂をすれば、サンセが今日の任務を終えて報告に来たようだ――


「ああ、いいぞ」と俺が返事をすると、サンセがドアを開け部屋を見回し「あれ? ビターだけ?」と察したような呆れた顔をした。


「ああ、バトスは腹減ったーって出て行った」

「バトスは相変わらずだね……」

「護衛の意味をわかってないんじゃないか?」


 お互いクスリと笑ったあと、サンセの顔つきが真剣になった。


「……ビターだけに話したかったから、丁度よかった」

「……どうした?」

「……神、メシアを見つけた」

「なっ!」


 俺は驚き、執務室の椅子からガタッと音を立てて立ち上がった――


 すると、サンセの瞳が薄いオレンジ色から暗いオレンジ色へ変わっていく――


(っ!? サンセの雰囲気が……変わった?)


「……大臣の雇った賊の追っ手ふたりは殺したよ」

「……そうか……」


 神メシアを敬愛するあまりの神に仇なす大臣のような存在を心底許せないような感情が、サンセの表情と低い声色から読み取れる――


(この目のサンセは危険だな……)


 自分の死すら恐れず、大臣を殺したくて堪らないような――()()()()をしている――


――サンセの報告によれば、神メシアは教会裏の山にいるという。

 崖のような急斜面で教会側からは登れないから、城下街を出て街道を外れた山道からしか行けない所か――


(俺とカイトならそのまま行けそうではあるけど……灯台もと暗しとはこの事だな)


 親父は俺に王位を譲った後、教会で身分を偽り神父になり、母さんと共に教会裏手にある孤児院で子供達の面倒も見ている――


(……まさか、知ってて?……いや、()()親父に限ってそれだけはないな……)


 昔から教会と孤児院を営んでいた老夫婦が亡くなり、跡継ぎもいない所を王時代から顔馴染みだった親父が引き継ぐと言っていた――


(単にそれだけだろうな……。親父が神を見かけていれば、ウザイ位に同じ事を何度も自慢げに言ってくるような人だから……)


 親父の姿が浮かんで呆れた溜息を吐く――

 ふと、サンセに視線を移すと、気持ちが落ち着いたのか、瞳の色がまた元の薄いオレンジ色に戻っていた。


「メシア様はメティーと呼ばれてて、守ってくれる者といるみたい。……会えなかったけどね」


 サンセはそう言って視線を下に落とした。


「メティーか。その方が名前を呼んでもバレにくいだろうな……」


 ()()()()()()()か――


 女神誕生祭(あの日)、教会の上で光っていた光が()()によっていきなり消えた事が頭に浮かぶ。


()()は、()()()だったってことか?)


「……僕はまた大臣の同行調査を続けるよ」


 陰った表情のサンセが、考え込む俺にそう告げて部屋を出て行こうとした――


「ああ、頼む……くれぐれも無茶はするなよ?」


 サンセの表情から心配になり、そう声を掛けると、サンセはまた()()()()で振り返り、哀しげに微笑んで出て行った――


(……また()()()か……サンセにとって何が最善か考えないとな……。考える事が山積みだ……)


 机の上で肘をついて考えるように手を組めば、左手の人差し指の指輪が視界に入った――

 指輪(これ)を託された戴冠式(たいかんしき)前日の出来事が思い浮かんで溜息が零れる―― 


 “あの光”の意味を親父に教えられ【伝記】である“この指輪”を託され、これは王となる者にしか見る事すら許されないものなのだと聞かされた――

 

 【伝記】は、この指輪の中にある――


 指輪に神の加護の証である魔力を込めると、球体の立体映像(ホログラム)が浮かび上がる――

 その球体の中にある“本”に右手をかざして、ページを自在に(めく)る事が出来る仕組みだ――


 【伝記】の最後には“神は()()()()()()に帰った”と記され、以後何百年以上も姿を見せていなかった事がわかる――


(何で今になって再び現れたのかは会って確認したい所だが、神には早々に“帰るべき場所”とやらに帰ってもらわないとな――)


――神は()()()()()()()()()()()――



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 サンセ()は執務室を後にして城にある自室へ向かっていると、さっきのビターの顔が過ぎった――


 初めてビターに“醜い僕”を見せたけど、表情で驚きは見せずに、()()()感じ取った顔をしていた――


 “醜い僕”とは、幼い頃から我慢して溜め込んだ心の闇そのもの――

 “醜い僕”が作り出す心の闇が僕の全身に広がって“醜い僕”に変貌を遂げる――


 見た目では普段より“瞳の色が暗くなり”、動きでは普段よりも“早く動ける”ようになる――

 迷いなく斬り殺す“冷酷非道”な人格だと()()から、変わってる間の記憶がない二重人格とも違う、“もうひとりの僕自身”――


 ()()()“醜い僕”と呼んでいる――

 初めて発動した時、自分でも危険だと思うからこそ“醜い僕(この力)”は“メシア様に危害を加える者に使う”と決めた――


 あの女神誕生祭(メシアフェスティバル)の日――


 “メシア様(あの方)がこの地に再び降り立ったのでは”と騒ぎがあった時は、僕は嬉しさ以前に大臣の微かな企みの嗤いを見つけて怒りに震えていた――


 “大臣(お前)のような()()()メシア様(あの方)に触れることはおろか、視界に入れると思うだけでも反吐が出る。メシア様(あの方)の慈愛の心を穢すことは許さない”――


 あの日、()()強く思った言葉を思い返すだけでも大臣(ゲス豚)の嗤う顔が浮かび、込み上げる怒りに拳を強く握り締める――


 今日、メティー(あの方)に会って、あの時の思いと全く変わる事はない。


(むしろ、強まったぐらいだ……。メティー(あの方)を狙う者の死すら、涙を流して悲しむ心優しい方だ……)


 メティー(あの方)の泣き顔が浮かぶと、再びあの日強く思った“言葉の続き”が頭に響く――


 “今は存分に泳がせてやるが、メティー(あの方)を利用しようとした時は――”


(“命はないと思うがいい――”)


 あの日の僕と今の僕の声が重なり、窓に映った僕が暗い冷たい目で嗤った――



 

次回は幕間としてサンセの幼少期の話が!? サンセの好きな絵本の全内容も明らかに!?

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