第43話 迫る真相と不吉②
「メティー! 大丈夫?……だいぶ起きてこないから心配した」
クロウさんはメティーのそばまで駆け寄ると、目線の高さにしゃがんで私の両肩に手をのせた。
ドキッと高鳴った私の心臓に、忘れたのはクロウさんの事じゃないとわかって安心し、平常心でドキドキを静める努力をする――
「……だいじょうぶ……おはなち……ちてたの?」
私がクロウさんとサンセを交互に見て尋ねた。
「あ……」
「…………話はちょうど終わったとこだよ……ね? クロウ……」
「………………はい」
気まずそうに黙ったクロウさんに代わって、サンセがそう答えてクロウさんに返事を促すと、クロウさんは気まずそうに返事をした――
(え……すっごい気になるよ!? 何話してたんだろ!?)
興味津々な私の思考を遮るようにサンセが真剣な表情で話し掛けてきた――
「そんな事より、メティーに急ぎの頼みがあるんだけど……」
「いしょぎのたのみー?」
「猫が怪我してて――」
「っ! なおしゅ! つれてって!」
私は全てを聞くよりも先に返事をして、サンセに向かって両手を上げて抱っこをせがむ――
「え……」
「ん? だっこしゅるのー」
「あー…………僕でいいんだ?」
サンセがチラッとクロウさんを見てから意味深にニヤリと笑ったのを見て、私は全てを悟られていると感じた――
(っ! 顔に出やすくてバレバレだって言われてたし、絶対サンセに気付かれてる! てか、何普通に抱っこをせがんでるの私! お子ちゃまか!……いや、お子ちゃまだけども――)
サンセにクロウさんへの恋心がバレた事で脳内は盛大に取り乱し、ひとりツッコミに更にツッコミを入れるぐらいにパニックになっていた――
(ましてや、クロウさんに抱っこされたらって想像するだけで顔が火照って心臓持たないよ!)
「うー……しゃんしぇ! ねこしゃんなおしゅんだから はやくしゅるの!」
何とか話を逸らして必死にそう伝えるも、恐らくこの顔の熱さからして、顔真っ赤でわかりやすい反応というものになっている気がした――
「……まぁ、そういう事にしといてあげる」
サンセはクスリと笑ってからそう言うと、私をふわりと抱き上げて下の階に降りていく――
すると、伏せの姿勢からピクリとも動かない三毛猫と、カイトの膝の上で寛ぐ右目に傷のある黒猫がいた――
(っ! 1匹かと思ったら2匹だった!)
「……ほんと野良猫の割に人懐っこい奴だね」
サンセがカイトの膝の上の黒猫を見て、驚きと呆れが混ざったような顔で呟くと、黒猫が私の方をジッと見た――
(っ……可愛い! 獣化した時のしーちゃんを思い出すなぁ……)
「おりりゅのー!」
「その前にカイト、そいつしっかり抱えといて。さっき寝てるメティーの上に飛び乗るわ、頬舐めるわの前科者だから……」
「え!? しょーだったの!?」
(それで気付かないとか……私どんだけ爆睡してるの……)
驚きよりも恥ずかしさで呆ける私をよそに、カイトは黙って頷いて黒猫をしっかり抱えると、それを見届けたサンセが私を下ろしてくれた。
そして、私はいかにも重症だとわかる動かない三毛猫のそばに歩み寄る――
「いまなおしゅね――」
今の所、私に出来る唯一ちゃんと役に立てる事だから、自然と気が引き締まる――
三毛猫に手をかざすと三毛猫が白い光に包まれ、難なく治療する事が出来たのだけれど――
問題はその後だった――
三毛猫は伏せた姿勢から立ち上がるや否や、カイトが抱える黒猫目掛けて飛びかかったが、カイトは難なくそれを躱す――
私は一瞬の出来事に頭が真っ白になって固まり、サンセとクロウさんも息を呑んで佇んだ――
三毛猫は尚も黒猫に向かって威嚇の姿勢をとっているのに対し、黒猫は立ち上がったカイトの腕の中から冷静に三毛猫を見下ろしていた――
私が黒猫と三毛猫を交互に見てアワアワしていると、頭上からサンセの呆れた声が降ってきた――
「……お前ら仲間じゃなかったの?……このまま一緒にいてもケンカになるなら、当初の目的の治療も終わったし、外に逃がすしかないか――」
サンセがそう言って三毛猫を抱き上げようとすると、三毛猫は嫌がるように部屋の中を逃げ回り、その攻防は早い段階でサンセが降参した――
「……三毛猫は人に怪我させられてるし、無理に追い回すのは良くない……。自然と外に出て行くのを待つしか――」
サンセがそう言いながら入口のドアを開けたその瞬間、カイトが抱えていた黒猫が暴れて腕の中から抜け出した――
「っ!」
黒猫はそのまま入口に向かって一直線に駆け出し、それを見た三毛猫も後を追うように駆け出し、2匹の猫はあっという間に廃墟からいなくなった――
「……え? え!? ええぇぇぇぇ!?」
ポカンと呆気にとられた私は、遅れて状況を理解して驚愕の声をあげ、他の3人は微動だにせず静かに立ち尽くした――
「……くろのにゃんちゃん……まだなのにー……」
(なでなでしたかった……)
傷を治せなかった事に加え、私の心の声が哀愁漂う表情により拍車をかけ、周囲はどんより重い空気に包まれた――
「…………情報収集してれば、また見つかると思うし……そしたら、また連れてくるから……その時治してあげよう?……ね?」
サンセは私の機嫌を取るように頭に軽くポンと触れ、私は頬を膨らませて渋々納得するように頷いたけれど――
未だに拗ねた様子の私を見かねたクロウさんがこっちに近付いてきた――
「……メティーが元気じゃないと猫さん治せないし、一緒に遊べないよ?…………まずは、お腹空いてない? スープ作ったんだけど……スープなら食べれそう?」
クロウさんに優しく宥められた後、心配そうに食事を勧められ、自分が昼食も食べずに夜まで眠っていたのだと思い出す――
(クロウさん優しすぎ!……私の体調の心配だけでなく、食欲無くても食べやすいものを用意してくれてるなんて……)
「……うん!」
私はクロウさんの優しさに感謝して元気良く笑って返事すると、クロウさんの口元も微笑んだ――
(……それにひきかえ私は、サンセに抱っこせがむわ、にゃんこがいなくなって拗ねるわ…………どんどんお子ちゃま化してない!? 仮にも中身大人のはずなのに……恥ずかし――)
「い!?」
私が俯いて自分の反省点を考えていると、突然ふわっと足が地面から離れ、思わず驚きの声を上げる――
それと共に視界に入ったのは、近い距離にあるクロウさんの顔で、私はクロウさんにお姫様抱っこされていると気付いた――
「え!? ど、どどどうちて!?」
「……んー……お姫様を食卓へエスコート?」
慌てふためく私をよそに、クロウさんはふと考えるように黙ると、破壊力抜群の言葉を呟いたかと思えば、トドメに微笑みのトリプルコンボフィニッシュ――
(ぐはぁぁぁぁ――!!)
クロウさんの声は優しい声に部類されるが、総括してイケボである事に変わりないわけで、見事にクリティカルヒットを食らった私は、瀕死の重症レベルに心の中で発狂していた――
(くっ……“お姫様呼び”はお子ちゃま扱い! あくまで“ごっこ遊び”の延長線上! いちいちドキドキするな! 私の心臓! 恋愛対象外の私はドキドキするだけ無駄!……無駄なんだから……)
ドキドキする心を落ち着ける為に、自分に言い聞かせた言葉で逆に気分が沈んでいく――
(この浮き沈みの落差……情緒不安定すぎ……。乙女心とお天気は変わりやすいみたいなことわざあったぐらいだし……こうなるのは私だけじゃないんだから……)
最終的には深く考えないように、自分だけじゃなくて“恋する乙女はみんなそうだから”と変に達観した考えにまで至った――
そして、ぼんやりした私をよそに、みんなで食卓を囲んでサンセの情報収集報告が始まっていた――
(いけない……ぼんやりしてないでちゃんと聞いておかなくちゃ……)
「――で、マカダミアでも神の絵本はそこそこ知られてて、内容はともかく表紙の神の絵なら見た事あるっぽいから……メティーはずっと留守番確定……残念だったね?」
「うぅ……」
最初から、マカダミアでもチョコランタ同様の警戒をしないといけないのはわかって覚悟していた。なのに、サンセはそれをどこか嬉しそうで楽しげに言うから、私は複雑な心境で頬を膨らませて拗ねた――
「あと……ティス様は……クロウが思った通り、やっぱりお城にいそうだ……」
「……そう……ですか…………調べてくれてありがとうございます……」
サンセが真剣な面持ちでそう告げてクロウさんをチラリと見ると、クロウさんはお礼を言いつつも、声は暗く沈んだ感じがする――
(やっぱりティスさんの事が心配だからかな? ティスさんを助けたらクロウさんの不安が少しは減る……?)
私はそう思ってクロウさんの様子を心配して見ると、サンセは更に言葉を続けた――
「ティス様は、まさに昨日の深夜……王家の馬車にとある女性と一緒に乗って来たらしい……」
「っ!」
サンセの言葉にクロウさんは明らかに動揺して持っていたスプーンを落とした――
「……クロウのその様子じゃ……知ってる人みたいだね? ティス様とクロウは……その人とどういう関係?」
サンセの言葉にクロウさんが黙り込み、クロウさんの動揺が私にも別の動揺を与え、胸がザワザワと落ち着かない――
(クロウさんの彼女さんだったり!?……それともティスさんの彼女!?……果てまた、その人を巡っての三角関係!?)
私はそんな有り得そうで有り得て欲しくない想像を並べつつ、クロウさんがどう答えるのか様子を窺う――
「………………僕らは……最初、その人を憎んでました……。でも…………僕は……彼女に救われて……今ここにいる――」
クロウさんが言葉を大事に選ぶようにゆっくり伝えるからなのか、言葉の重みが余計にヒシヒシと伝わってきた――
私はクロウさんの“憎んでいた”という言葉に、想像と違いそうで安心した矢先に、その後に続いた言葉に大きく心を揺さぶられていた――
(え……救われる? 救いは心の支えの意味にも取れる……クロウさんはその人の事が好きだったり?)
「…………だからこそ…………彼女だけは……助け……ないと――」
クロウさんは研究所の事を思い出しているせいか、呼吸が荒くなるのを必死に整え、声も弱々しく震えていたけど、強い意志がこもっているように感じた――
私は特別感を含む言葉に息を呑み、必死に表情に出ないように平静を装った――
(……いっちょ前にショック受けて……私はそもそも“お子ちゃま”だから……関係ないってさっき言い聞かせたばっかりなのに――)
そんな沈んだ私を救ったのはサンセだった――
「……で? クロウはその人の事好きなの?」
「……は!?」
私がニヤリと微笑んだサンセを見たのと、クロウさんが驚きの素の声を上げたのは、ほぼ同時ぐらいだった――
(今……クロウさんが“は!?”って言った!? レアすぎる!……良い! そんなクロウさんも最高に良い!)
さっきのショックを容易く吹き飛ばし、クロウさんが同年代とかには砕けた口調になるのかもしれないと、私は勝手に想像してニヤついた――
「…………あ、えっと……ごめんなさい……あんまりにも有り得ない事、急に言われてびっくりしちゃって……」
(っ!……今、有り得ないって言わなかった!?)
私の想像してニヤついた顔は、今度はいかにも興味津々な顔でクロウさんを眺める――
「……有り得ないのかぁ……残念。クロウが失恋して凹む所見たかったなぁ……」
サンセは揶揄っているだけだと分かるのに、言葉のトゲが隠しきれずに見えていて、クロウさんは返答に困るように黙り込む――
(サンセってば……そりゃ返事困るに決まって――)
「えっと……失恋って事は、サンセさんはセルフィーの想い人の情報も入手したって事ですか?」
(クロウさん華麗にスルー!……ん? セルフィー?……ああ、その人の名前かな?)
「へぇー……呼び捨てするぐらい親しいの? セルフィーさんは僕よりも年上なのにねぇ?」
「っ!」
サンセが最後にわざとらしくこっちを見て言った言葉に私は衝撃を受ける――
冷静に考えれば私の反応を揶揄う意図だとわかるのに、私はまんまと真に受け、クロウさんを追求する眼差しで見据えてしまった――
すると、クロウさんは私を見て呆れたような溜息を吐いた後、サンセの方を見るとピリッと空気が緊迫したように感じた――
「……サンセさん……茶化したってほんとに何も無いですよ? 最初に憎んでたって言ったじゃないですか……そんな相手に敬称をつけます?」
(んんん!? クロウさん!?)
クロウさんは普段穏やかで優しい印象なのに、今はサンセの煽りを煽り返すような嫌味っぽい言い方で、どこか不機嫌そう――
ふたりの間に険悪なムードが漂ったかに見えた、が――
「……ごめんごめん。少し悪ふざけが過ぎたね」
サンセがニッコリ笑って謝ると、クロウさんは呆れた溜息を吐き、そのムードはすぐに柔らかなものへと変わった――
煽ったり煽り返すのは、よっぽど仲良くないと余計酷いケンカになるのに、そうならなかった事が引っかかって私は考え込む――
(んんんー? 何だかクロウさんとサンセの互いへの接し方が変わった? 主にクロウさんがサンセに親しげ? さっき上でふたりで話してたのが関係してるのかな?)
「…………そんな事よりセルフィーは今どこに?」
「それが……いくつかの手掛かりを残して宿から姿を消しちゃってね……。それについてはまたあとでふたりで話したいんだけど……」
「っ…………わかりました……」
再び始まった会話はどちらが主導権を握っているのか明確なまでに、サンセがニヤリと余裕の笑みを浮かべ、クロウさんは気まずそうに返事をした――
(っ! やっぱりさっきのふたりの会話が関係してそう! 誰にも聞かれないように廊下の隅で近付いてコソコソ話してたぐらいだもん! 怪しい! 気になる!)
私はそんな思いを空気を読んで隠す事も出来ず、これ見よがしに頬を膨らませ会話に乱入する――
「ふたりでないしょのおはなしー? じゅるい! わたちもききたいよー」
「……これはまだ教えられる段階じゃないっていうか……クロウに聞いてちゃんと確かな情報になったら話すから。それより、城にいるティス様を救出する方法考えないと……」
サンセに言いくるめられた挙句、ティスさんの事を言われてしまったら、私はさすがに空気を読んで黙るしかなかった――
「……じゃあ、先に片付けてお茶用意しますね」
「ありがとう」
ちょうど食事を食べ終わったタイミングで、クロウさんは空いた食器を片付け始める――
「あ、そうだ。カイト、今日こっちでランスに会ったよ……って……予想通り限りなく嫌そうな反応だね……」
サンセはクスクス笑い、私もそう言われてカイトを眺めると、無表情だけど目が死んでるような気がした――
「らんしゅしゃんー?」
(くっ……また新たな言いにくい名前の人が……練習しないと……)
「マカダミア出身の王族近衛騎士の男で、チョコランタの王族と王族近衛騎士をこよなく愛すが故に、僕らの絵を描く変人の事だよ」
(サンセ……その説明はなんか悪意ない!?)
まだ見ぬ顔も知らない人だからこそ、会う前から変な偏見で見たくなくて、サンセに半信半疑の目を向ける――
「カイトも絵を描く為に結構追いかけ回されてて……さっきの反応見てわかる通り苦手意識ある奴だから――」
「え!? しょんなに!?」
(追いかけ回す!? え!? ストーカー!?)
私は変な偏見で見たくないと言った矢先に、早くもサンセ寄りにぐらりと傾きだし、私のバレバレの表情を見てサンセはクスリと笑った――
「……まぁ……変人ではあるけど良い奴だから安心して。歳はクロウのひとつ下で――」
サンセがそう言ってクロウさんの方を見ると、クロウさんの姿が見えなかった――
(※ダイニング越しにキッチンが見えるカウンター的な造りになっている)
「……クロウ?」
サンセがそう言ってキッチン側へ向かうのに私もついて行くと、クロウさんはシンクの手前で身体を震わせてしゃがみこんでいた――
「クロウ!? どうしたの!?」
「くりょーしゃん!」
私とサンセが慌ててクロウさんのそばに駆け寄ると、クロウさんの震えた手は懸命に食器を落とさないように堪えていた――
恐らく、研究所の事を思い出した反動の発作だとわかった――
サンセはすかさずその食器を受け取りシンクの中へ置いた――
「なん……とか……落とさず……済んで…………よかったです……」
クロウさんは苦しげに息を整えながら喋る様は痛々しくて、見ている私まで胸が苦しくなる――
「キツイなら喋らなくていいから……。ごめん……僕が配慮に欠けて聞き過ぎたのかも……。食器は僕が洗っとくから、クロウはもう上で休んでて。さっき言った話もクロウが大丈夫な時でいいから」
「…………すみま……せん……」
クロウさんがフラついて立ち上がるのをサンセが咄嗟に支えると、カイトに声を掛けた。
「カイト、クロウの部屋まで付き添って」
カイトは黙って頷き、クロウさんに肩を貸して支えながらゆっくり歩き出し、私は自然とそのあとを追う――
そして、階段の前まで来るとクロウさんはカイトから離れた。クロウさんはさっきよりはだいぶ呼吸が落ち着き、足取りも安定したようだった。
「……ありがとう……ございます……。僕は大丈夫なので……メティーを抱えて上がってくれませんか?」
「へ!? わたち?」
私は心配で見に行ける所までついてきただけで、上まで図々しくついて行こうとは思っていなかったから思わず驚きが声に出た。
「メティーと少し話したくて……ダメかな?」
「っ!……だめじゃない!」
クロウさんに遠慮がちに言われ、私は全力で首を振ってから満面の笑みを浮かべると、クロウさんの口元も綻んだ――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後、カイトとは部屋の前で別れ、私はクロウさんの部屋の中へと足を踏み入れ、現在挙動不審の極みである――
(ここがクロウさんの部屋! あんまジロジロ部屋見たら悪いよね……どうしよう! どこ見ていいかわからない!……足だ! 私の足だけを見てよう――)
「メティー……どうしたの?」
「へ!?」
クロウさんがそう言って私を抱き上げたかと思えば、すぐに何かの上に座らされる――
(っ! こ、ここここここは!! クロウさんがいつも寝てるベッドの上!?)
部屋にあった家具はベッドと収納家具だけ故に、座るなら自然とベッドになるのはわかってはいるけど――
こんな事でテンパる邪な心があると、ある意味中身が大人なんだと思い出せる――
クロウさんは私を座らせてからその隣に座ったものの、何か悩んでるような、思いつめてるような複雑そうな感じで黙り込んだままだった――
そんなクロウさんを見ていると、私はクロウさんの気持ちをちゃんとわかってあげられてるのか不安に思えてくる――
私の気持ちをわかって優しい言葉をくれたクロウさんのことを、私もちゃんとわかってあげたいのに――
こんな時、クロウさんの表情を余計知りたいと思って、自然と眼鏡に視線が向いた――
すると、ちょうど意を決したクロウさんが私の方を見て、手を震わせて弱々しく呟いた――
「……メティー。……もし、僕が………………嘘……ついてたら……怒る?」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
一方、夜更けに研究所へセルフィーを連れ帰ったアビスは――
「…………てか、このヒョロ女の部屋どこ? 似たり寄ったりの部屋ばっかとか……面倒くさ…………悪く思わないでよね――」
そして、朝を迎えてセルフィーが目を覚ますと、そこは見知らぬ天井どころか岩盤で覆われ、地面も硬い石で身体が痛みを訴える――
「っ!……ここは……どこ?」
天井に人ひとりが通れる程の穴から光が差し込んでいて、セルフィーは周囲を見回し洞窟のような場所だと理解する――
「やっと起きた?」
「っ!! 誰!?」
セルフィーが声のした方を見ると、さっき見回して誰もいなかった場所に見知らぬ少年が、それもロイドが言っていた“白銀の髪に赤い瞳の悪魔”の特徴そのままの人物がいれば、当然恐怖で声も出なくなる――
「…………なんでそんなに怯えてるの? 僕、アンタには何もした覚えないはずなんだけどなぁー」
アビスはそうケロリとおどけてセルフィーに歩み出すと、セルフィーは怯えながらも声を出した――
「ち、近付かないで!」
「……へぇ? 僕、アンタをここまでわざわざ連れ帰ってあげたんだけどなぁ………………あのまま路地裏で倒れてたかった?」
最初は同様にケロリとおどけて答えていたアビスだが、間を置いて冷たい声に変わり、セルフィーはビクッと身体を震わせた――
「あ…………ご、ごめんなさい…………あ、ありがとう……ございます……」
「…………ああ、ごめんね? べつにアンタを怯えさせるつもりなかったんだけど…………僕……今、機嫌良い方ではないから」
セルフィーの言動にアビスは意味もわからず首を傾げて返事を返すと、それがまた新たな怯えの種となってセルフィーがビクッと震えた――
「あーもう……いちいち怯えないでよ。アンタを痛めつける気ないし…………部屋どこが近いか教えて?」
アビスは面倒くさそうに言うと、黒い靄を出した。その靄の向こうに研究所の景色が映り、どんどん景色を変えていく――
セルフィーは今起こっている事がにわかに信じ難く、まるで夢でも見ているような気分で呆然としたが、また怒らせてはいけないと必死に靄の中を眺めた――
「……あ! ここが近いです……」
「じゃあ入って? 入ればそこに出るから」
セルフィーはモジモジと何かを言いにくそうにして、なかなか靄に入ろうとせず、当然それはアビスを呆れさせた――
「なんなの? ここ通るのも怖いって事? 痛くも何ともないってば……」
「その………………私の荷物って…………どこにありますか?」
「え…………僕は倒れてたアンタを連れ帰っただけで、そばに荷物はなかったと思うけど……」
セルフィーはそれを聞いてこの世の終わりのような顔で地面に崩れ落ちた――
「私…………あの本とメモがないとダメなんです……」
「え…………あーーもう! 面倒くさ! わかったよ! 僕が取ってくればいいんでしょ!? だからアンタの部屋さっさと案内してくんない? そうすれば、今度は直接アンタの部屋に通じる道が出来て、早くアンタに届けてあげれるから――」
セルフィーは何度も頭を下げてお礼を言って部屋に案内し、アビスはその後気配と姿を消してマカダミアの街へと向かった――
アビスがセルフィーに言われた宿へと訪れたのは、ちょうどサンセ達が宿に聞き込みしている時で、探していた物は既にサンセの手に渡っていた――
(……あの時のピンク頭じゃん…………面倒くさ……)
アビスはセルフィーの相手をするのが面倒になって、セルフィーから一旦離れる為に取ってくると言った事で更に面倒なことになり、ウンザリする表情でサンセを見据えていた――
次回、実家へと戻ったランスは亡き父の墓碑に手を合わせる!? クロウとメティーは何を語り合うのか!? サンセの下にアビスが現れる!? 廃墟を飛び出して行った猫は!?




