第42話 迫る真相と不吉①
サンセはマカダミアの人となりを知る為に、情報収集に意欲的なランスに無理を言って近くにあった本屋へ寄ってもらった――
店に並ぶ本を眺めると、隣国であるチョコランタの本のコーナーも作られていて、“神の絵本”も目立つ所に綺麗に並べられていた――
(ランスが仲裁した騒ぎといい、チョコランタ嫌いが多いって聞いてたけど……僕が思ったよりだいぶ好意的かも……)
チョコランタの本、それも僕が好きな神の絵本の扱いが丁寧と言うだけで、僕の中で好印象になる単純ぶりは自分でもどうかしてると思う――
「ランス、マカダミアでもこの絵本って有名なの?」
「俺は小さい頃よく読んでもらったっすけど、チョコランタ嫌いの家では読まれてないかもっす。それでも、表紙ぐらいはみんな知ってると思うっすよ?」
「なるほど……ありがとう」
僕らが本屋を出たのは、朝からいろいろあったせいか、もう昼過ぎを迎えていた――
次の情報収集場所へと向かう中、僕はマカダミアでの神の認知度を知って思考しながら歩く――
(……そうなると、やっぱりメティーには極力隠れててもらわないと……)
そう思うと、メティーが頬を膨らませて拗ねた顔が浮かんでクスリと笑みがこぼれる――
(……子供みたいな愛らしい表情をする時もあれば、僕らを気遣う大人びた優しさもあって……だから心が乱されるんだ――)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
僕とランスは城門近くまで来たものの――
「ランス、参考までにだけど……最初ひとりで突っ走ってどう調べる気だったの?」
「ん? 城門の兵士に聞くに決まってるじゃないっすか!」
「え……」
ランスの当然と言わんばかりの自信満々の笑顔に、僕は呆れて顔を片手で覆い、目を瞑って考え込む――
(……ランスを全力で止めてよかった。城の兵士に声掛けてティス様の事聞いたら、絶対怪しくて顔覚えられるでしょ……)
僕は早くも一緒に捜査する気苦労に憂鬱になりつつ、ランスを注意しようと目を開けると、ランスの姿がなかった――
「え……ラン…………ス!?」
焦って周囲を見回した僕の視界に入ったのは、城の門番と談笑するランスの姿だった――
(何してんのあのバカ……)
拍子抜けするぐらいに楽しげに兵士と喋るランスは、いい意味で王族近衛騎士特有のオーラがなく、全く怪しまれていなかった――
程なくして、ランスは話し終わって満足気に僕の方へ走って来て、仕入れた情報を共有したが、それは予想以上にちゃんとした情報だった――
ティス様は王家の家紋入りの馬車で深夜に城に到着した事――
その馬車にはティス様だけでなく、フードを深くかぶった女性も同乗していたらしく、その女性は送り届けた後は城に入らずマカダミアの街へ消えたらしい――
(あんな世間話的なノリでここまで聞き出してるとはね……。ランスの人柄が相手の警戒心を解いたのか……)
「すごいねランス。あんな堂々と聞き出すなんて僕には出来ないよ」
「サンセ様はオーラ有りすぎて目立つっすもんね……。俺はマカダミアでは“チョコランタ好きの絵描き”として知られてるからこそ、誰も俺が王族近衛騎士って知らないんすよ。だから、俺がティス様の事聞くのも不自然じゃないんっすよね……」
そう言ってニヤリと笑ったランスの顔は、今までの何も考えてなさそうなバカっぽい笑いではなく、思惑通りに事が進んだのを喜ぶような――
ランスという人物像を改めて考えなければと思うには充分の含みのある笑顔だった――
(コイツ…………マカダミアでも絵を頻繁に見せてたのはその為の布石? 絵の中には当然ランスはいないから、自然とチョコランタ好きの絵描きだとマカダミアの人達に思い込ませたんだ……)
ランスは単なるバカじゃない――
バカっぽく振る舞って油断させて、自分が動きやすい状況を作り出している――
(じゃあ……王族と王族近衛騎士が好きだと言って兵士になったのも、僕らを油断させる為? それだと、ランスはスパイ――)
ランスに疑いの視線を向けると、ランスは考え込む僕をスケッチする“いつもの変人ランス”と化していて、僕は呆れた苛立ちが込み上げる――
「…………何してんの?」
「サンセ様が黙り込んだ時は唯一のスケッチチャンスっすから!」
いつも通りキラキラした目で楽しげにスケッチするランスには、偽りの影もない――
(……これが油断させる為の嘘だとしたら相当の演技力だけど……)
「もう何枚も描いてるのに、何でそんなに描きたがるの?」
僕はランスの裏を探る為の言葉を投げかけたのだが――
「何言ってんすか! 何枚描いても全部違うっす! この眉の角度とか、目の表情から口角の角度や、手の位置とか――」
ランスは永遠と語れるぐらいの勢いと熱量で僕の絵について語りだすと、もはや僕の事がどれぐらい好きかを語っているようなもので――
(…………あー……これはさすがに嘘はない。てか、本当に王族や王族近衛騎士が好きか探ろうとしたのに、僕の絵の語りが始まると思わないでしょ……)
返答に困った僕はランスのスパイの線が消えたのをいい事に、僕はランスの熱い語りを総スルーして話題を本題へと戻した。
「とりあえず、ティス様と一緒に馬車に乗ってたっていう女性を探そう。深夜なら宿に泊まった可能性が高いし」
「うっす! 宿はこの大通りに面してて酒場と一緒になってるんすよ」
「情報収集と言えば酒場だし、他の情報も聞けるかもね――」
僕らが宿屋に着くと、1階の酒場はこの時間は準備中のようだ。掃除をしている人影があると思えば動きが不自然で、足は棒立ちのまま進み、ほうきを持った手は動いていない――
「え……何あれ……」
「人型掃除ロボットっすよ。マカダミアは機械の国っすから、お店とかにはだいたいあって、土台のとこでゴミ吸い込んでるっすよ」
「…………それってさ、土台だけでよくない?」
「サンセ様わかってないっすね! 人型ロボットはマカダミア技師の昔からの夢とロマンが詰まってるっす! 今も尚、進化させた研究が進んでるっすよ!」
「……そ、そうなんだ」
ロボットの顔は人型と言えど、遠目からでも明らかにロボットだとわかる顔立ちで、初めて見た僕にはそこまでこだわる理由がよくわからなかった。
(機械技術は確かにすごいと思うけどね……)
そんなやり取りをしつつ階段を上がって2階の宿屋へ行くと、ランスが受付のおばさんに声を掛けた――
「すんません、深夜にここへフードを深くかぶった女性が泊まりに来なかったっすか?」
「……さぁて……どうだったかねぇ……。どっちみち、そういった個人情報は守らないとこの商売やってられないから教えられな――」
「実は……城の兵士が探してるみたいで、緊急っぽかったから“よっぽどの悪人”なのかと思って、僕らも手伝いで探してるんですよね」
僕は嘘をついて会話に加わった。それは、情報入手の為には仕方がない事だった――
「あれまぁ……そんな悪い子には見えなかったけどねぇ……」
「顔を見たんですか?」
「チラッとだけど、薄紫の長い髪と紫の瞳の若い子で、儚げな綺麗な子だったからよく覚えてるよ……あ、そうそう――」
おばさんは受付カウンターの後ろの棚から見覚えのある本と鞄を取って僕へと渡した――
(……この本、僕がキールにあげた作品――)
「それ、その子の忘れ物なのよね……」
「忘れ物……じゃあ、もうここには……」
「ああ、なかなか出て来ないから部屋を見に行ったらもぬけの殻で、それだけ置いてあったのよ。まぁ、代金は先に貰ってるからこっちとしては問題ないんだけどねぇ」
僕はおばさんの話を聞きつつ本を捲ると、そこには見覚えのある字のメモが挟まっていた――
(……キールの字……。じゃあ、これは別の本じゃなくて正真正銘の僕がキールにあげた本? この本、今はミスティーが持ってるはずじゃ? 何でここに――)
「……どこかへ出掛ける様子はありましたか?」
「1度目は酒場で“騒ぎ”があった時と、その後戻ってきたかと思ったら、またすぐどこかへ行って……それから見てないねぇ……」
「騒ぎ……というと?」
「おじいさんが何か……ティスはどうのって騒いでて……あ、その子……そのおじいさんと少し話してたね」
「「っ!」」
(ちょ、待っ…………何か情報入手出来るかも程度のつもりが、いろいろ情報量あり過ぎて――)
僕らは一通りの情報を聞いた後、ランスの得意の絵でおばさんが見た女性像を描いてもらう事にし、僕は先に下に降りた――
僕はその間に“騒ぎ”の元である手配書が貼られた壁を隅々まで眺めると、酒場の店長らしきおじさんに声を掛けた――
「………………あの、すいません……手配書ってここにあるので全部ですか?」
「そうだが……なんか不備でもあったか?」
「いえ……準備でお忙しい中ありがとうございます」
僕は酒場のおじさんと話終わると、ランスが降りて来るまで情報を整理していく――
(……なるほど。疑問点はあとでクロウに確認するとして……次に、おばさんから預かった鞄と本……)
――今後のミスティーに役立つヒントがあるだろう――
(本に挟まれたメモにはキールの字でそう書かれていた……。僕はキールが直接ミスティーにこの本を渡してる所を見てたから、それだとこの内容は不自然……。ミスティー以外の誰かに宛てたメモと、おばさんが見かけた“薄紫の長い髪と紫の瞳の若い女性”となると――)
「サンセ様!」
僕にひとつの仮説が浮かぶと、ちょうど絵を描き終わったランスが戸惑いを隠せぬ様子で下に降りて来た――
「……大体の感じで描いたんっすけど……なんかミスティーさんに似てるなって思って、ミスティーさんの絵も見せたんっすよ……そしたら、おばさんもこんな感じの子だって……」
ランスは話しながらおばさんの証言を参考に描いた絵と、ミスティーの絵を並べて僕に見せた――
ふたつの絵は髪の長さや、多少の顔のパーツの違いはあれどもよく似ていて、さっき浮かんだ仮説が確信へと変わった――
「…………うん、たぶん……ミスティーのお姉さんっぽい」
「お姉さん!? なんだぁ……良かったっす。ミスティーさんの変装なのかと思って……めっちゃ焦ったっすよ。じゃあ、ミスティーさんにお姉さんの事聞いたら何かわかるっすかね?」
(……ティス様と一緒に居たって時点で、研究所で働いてるのは僕には明白だけど、当然ランスはわからないしね……)
「……チョコランタに戻ったら、どこで働いてるかとか、その経緯を聞いてみたら?」
「了解っす!」
僕はそう思いつつ話すと、ランスはスケッチブックをメモ代わりにミスティーに聞く事をメモにとる――
そんなランスを横目に、僕は脳裏に幼少期に叩き込まれたランズベリー家の資料を思い浮かべた――
(……確か、名前はセルフィー……だっけ?……あの頃は言われるがまま覚えたけど、案外役に立ってるのが複雑……)
手元の本を開き、キールの字のメモに視線を落とすと、ふと思う事があった――
「ねえ……ランスはさ、そのメモの用が済んだらどうする?」
「へ?……そりゃー捨てるんじゃないっすか? 自分で書いたやつ大事にとっておくのも変っすから」
「……もしそれが自分の字じゃなかったら?」
「書いた人にもよるかもっすけど、捨てれないかもっす……え!? まさか! サンセ様俺の為にメモ書いてくれるっすか!? そしたら家宝にするっす!」
「絶対書かないから――」
聞く相手を間違えたかもしれない――
(ランスは王族や王族近衛騎士なら誰でも家宝にしそうだし……)
それでも、大抵の人はそういうものかも――
セルフィーさんの場合、キールがランズベリー邸に通ってた時期しか接点はないだろう――
(たぶん、セルフィーさんはキールが好きって事?)
それが単なる憧れなのか、本気の恋心なのかはわからないけど、少なくともメモを捨てれないぐらいの好意があるって事――
僕が良かれと思ってした事が、巡り巡って思わぬ事態に発展していたのには驚きだけど、逆にセルフィーさんの協力を得るにはキールが有効な切り札とも言える――
(……女より剣に夢中なキールが気にかけて本とメモをミスティーに託すぐらいだし……望みはありそうではあるけど……。一旦メティー達の事カイトに任せて、少しキールに探りを入れに戻る事も視野に入れとこう――)
入手した情報を整理して酒場から出ると、ランスは開口一番に話を切り出した――
「サンセ様! 次はミスティーさんのお姉さんと話してたっていうおじいさん探しっすか?」
「あー……それはまた今度でいい? 闇雲に探すよりは効率いいと思うから」
「え!? なんかツテあるっすか!?」
「…………まぁ、そんなとこ――」
僕がバツが悪そうに言葉を濁すと、ランスはニヤニヤと意味深な笑顔を浮かべた――
僕はランスがそんな顔をするような僕の噂をひとつ知っている――
貴族の世界は本当に面倒くさくて、令嬢同士のやっかみがあるなら、当然令息同士のやっかみもあるわけで――
いつからか流されたその噂も、令嬢達が遠のくならばと好きにさせていたが、だいぶ浸透してるみたいだ――
(……確か、情報入手の為の身体の付き合いだけの女が何人もいそう……だっけ? いそうって所がいかにも“ただの噂で嘘っぽい”と思うんだけど……。まぁ、それを信じてる奴が身近にいたわけで……)
まだニヤニヤと揶揄うような笑顔を浮かべたランスを横目に、僕は呆れた溜息を吐いた――
僕がさっき言葉を濁したのは、聞く相手がクロウだったからだ。ティス様の友人であるクロウの存在は、ランスにもまだ教えられない――
クロウに会わせる=メティーの存在がバレる――
(メティーを隠す為ならそんな事実無根の噂ですら利用する……)
「……まだ少し早いけど、もうすぐ日が暮れるしランスはそろそろ実家帰ったら? 休暇だから顔見せに来たんじゃないの?」
僕がランスのあからさまな態度を指摘せず、強引に話を変えて帰そうとした事で、ランスに噂が正しいと思い込ませる事に成功した――
「……あー……そうっすね……俺いかにもお邪魔みたいっすもんね……」
ランスは残念そうに伝えて足早に去ったつもりだろうが、ニヤニヤと興味津々に輝く目はお盛んなお年頃感を隠せていなかった――
(楽にひとりになれたのは助かるけど、あれと同類って思われてるのは腹立つんだけど……。その割にはランスのそういう話は聞かないな……。単にランスが僕を揶揄いたいから興味津々な素振りをしてただけかも――)
「ニャーニャー」
「っ!」
複雑な気持ちで考え込んだ僕を、猫の鳴き声が我に返らせた――
鳴き声の方を見ると、酒場の脇の狭い路地入口で、黒猫が他に目移りする事なく僕の方だけを見て鳴いていた――
「……どうしたの?」
僕がその猫に近付くと、黒猫は路地の奥に進んで立ち止まり、チラリとこっちに振り返った。
「…………ついてこいって事?」
少し近付いてわかった黒猫の瞳は青くて、右目は古い傷跡があって閉じられていた――
(……野良猫同士の喧嘩? それとも人為的なもの?……どっちみち、メティーが見たら悲しむだろうな……)
そんな思考を巡らせつつ黒猫についていくと、酒場の裏手の路地裏へ行き着いた――
「……なんか落ちてる…………何、この空箱……」
宝箱型の小さな箱が開いた状態で転がっていて、手にとって中を見ると空っぽだったが、黒い染みがついていた――
(……まさか、古い血の跡?)
全く知りもしないのに、そう思えてしまうような気味悪さがその箱から感じられた――
「ニャーニャー」
「あ……ごめんごめん。そこになんかあるの?」
僕は気味悪い箱を元あった場所に置いて黒猫の方を見ると、黒猫は行き止まりの空き瓶が入った木箱の物陰を見て鳴いていた――
近付いて覗き込むと、そこには三毛猫がピクリとも動かず倒れていて、慌てて僕は猫に触れた――
「っ!……息は…………ある…………」
僕はこの猫を苦しめる原因を探して発見した痕跡に、どこに行ってもこんな事をするクズがいるんだと反吐が出る――
(……打撲痕……それも人為的な…………そんな事より、骨が何本か折れてるかも……早く治療を――)
そう思うと自然とメティーの顔が浮かび、僕は猫を極力優しく抱き上げ、メティーの下へ向かう――
走ると振動が傷に障るだろうと、細心の注意を払って早歩きで進み、そんな僕の後を黒猫もついてきていた――
「……仲間が心配? 大丈夫、メティーならすぐ治してくれるから――」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
いざ廃墟に到着したのは夕日で空が赤く染まる頃で、クロウが僕を出迎えると“メティーは泣き疲れて眠ったまま起きてこない”と言うじゃないか――
「……は? クロウが泣かせたの?」
「……えっと………………」
大人気なく年下のクロウを睨む僕に、クロウは言葉を考えるように黙り込んだ――
違うなら違うとすぐ言えばいいだけの話なのに、そうしない――
それはつまり、クロウはメティーの泣いた理由に心当たりがあって、少なからずその原因の一部だと自覚してるって事だ――
(……イライラする……)
「っ…………メティーの様子見てくるから猫の看病お願いできる?」
「……は、はい!」
――僕はクロウに猫を任せて階段を上ってメティーの部屋のドアを開けると、いつの間にかついてきていた黒猫が駆け出し、メティーが眠るベッドに飛び乗った。
「あ! 急にお前が行くとメティーがびっくりするかもでしょ――」
そう言って黒猫をベッドから下ろそうと近付くと、黒猫がメティーの頬を舐めた――
「は? 猫だから何やっても許されると思ってるわけ?」
僕がすぐさま黒猫を抱き上げると、黒猫は暴れて抜け出したかと思えば、今度はメティーのお腹辺りに飛び乗ってゴロゴロと甘えだす――
「ほんと……猫で良かったね……人だったら絶対○ス……」
僕は表面上ではにこやかな微笑みを浮かべたが、怒りに震えた冷たい声でボソリとそう呟くと、ふと思った――
(……寝てるだけなら上に飛び乗られた衝撃でびっくりして起きそうなのに…………まさか――)
脳裏に以前見た顔を苦痛に歪めて意識を失うメティーの姿が過ぎり、僕はメティーのそばに行き声を掛ける――
「……メティー? ねえ、メティー…………メティーってば!……っ……」
怪我の猫の存在もあるが故、少し強めにメティーの身体を揺り起こそうとしている自分に気付き、その手を止めた――
(……これでも起きない……メティーだって目を覚ませない程の事があったかもなのに……これ以上は無理に起こせない……)
「……お前も今は下のお仲間のそばにいてあげな」
僕がそう言って黒猫を抱き上げると、今度は大人しく言う事を聞いてくれて、一緒にメティーの部屋を後にする――
僕が下に降りるとカイトも猫の看病を手伝っていた――
猫の状態も落ち着いているようだ。骨が折れてるなら下手に動かすと痛いだろうから、安静にしてメティーが起きたら治してもらう――
つまりは、ほぼ何もしてやれず見守る事しか出来ない無力感――
(…………作戦会議の時のメティーはきっとこんな気持ちで泣いたんだろうね……。それでも、僕はメティーを利用しようとする者の視界に、メティーを映したくない気持ちは変わらない――)
そして、僕はカイトが猫を見てくれてるならと、クロウに声を掛けた――
「クロウ……。聞きたい事あるからちょっと来てくれる?」
そう言って僕は上の階を指で示すと、クロウは僕のただならぬ空気を感じ取ったのか、緊張したように黙って頷いた――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
白い球体が優しい光を瞬かせる――
(……ゆ……め……?)
それは、これまでの夢と違うパターンの夢だった――
これまでは暗闇を歩く自分だったのに対し、今回は自分はその場にいないから動く事も出来ず、まるで映像を見せられている感覚だった――
しばらく白い球体を眺めていると、徐々に黒く侵食されていくが、動けないメティーはどうする事も出来ない――
(……まるで皆既日食を見てるみたい……)
白い球体はやがて黒に呑み込まれ、辺りが真っ暗になると、なにか大きな力に吹き飛ばされるような感覚を感じた――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――え?」
私がふと目を開けると暗い部屋で、もう夜だとわかる――
(……だいぶ寝てたみたい……)
まだ若干の頭痛が残り、靄がかかったようにスッキリしない頭でボンヤリと考える――
(また何か……忘れて……? それでも、最後に見た夢は覚えてる……)
今の部屋の状況と夢の暗闇がリンクされているようで、この世界にひとり置き去りにされたような孤独と恐怖を感じた――
すると、廊下から微かに話し声が聞こえ、人の気配にホッと安心した――
誰が何を喋っているかまでは聞き取れなかったが、聞き耳を立てるのもよくないと思い、私はベッドから起き上がりドアを開け廊下に出る――
すると、廊下の隅っこにクロウさんとサンセがいて、壁ドンまではいかずとも、サンセがクロウさんを壁の角に追い詰めているように見えた、が――
私が部屋から出てきた事に気付いたクロウさんとサンセは、ハッと驚くように会話をやめて同時にこっちを見た――
(……めくるめく禁断の世界?……)
私は寝起きで頭がまともに働いていないせいか、混乱を処理しきれずそんな思考をして固まると、クロウさんとサンセが慌ててこっちに駆け寄ってきた――
次回、メティーが猫を治すと……!? サンセの情報を元に今後の方針を練る!? クロウがメティーにふたりだけで話したい事があるらしく!? アビスが何やら不機嫌!?




