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第39話 聖なる夜に贖罪の誓い~サンセの過去~④




 キールは一気に間合いを詰めると、重い一撃を打ち込んだ――


 サンセは木刀で防ぐも、手が痺れるぐらいの強力な一撃に顔を(しか)めた――



「っ……」


「……よく防いだな。衛兵クラスじゃ木刀が吹っ飛んで即終了だっただろう……。でも、サンセの本気は()()()()()()()ないんだろ?」



 キールは早く本気を見せてみろと言わんばかりにニヤリと笑った。



(……煽ってくるとか…………元から剣好きのキールを本気にさせると()()()()のか……)



 サンセはキールに“優しい兄”の仮面を取らせた事で、純粋に強者と戦いたい“戦闘バカ”のキールに火を付けてしまった事に憂鬱になる――



「……だから、それは買いかぶりすぎだって――」


「本気を出さないなら……出させるまでだ!」



 キールはそう言うや否や、重い連撃をサンセが休む間もなく何発も叩き込んでくる――



「っ……」



 サンセはなんとか木刀で防ぐのが精一杯で、何発も重い一撃を受けている事で手の感覚が麻痺しだしていた――


 

(……力のバトスと速さのカイトを合わせて、尚且つそんなふたりの上位互換って所か――)



 サンセは戦況がしんどい中でもキールを冷静に分析していた、が――



(……どうしろっていうの? ほんと大人気ないんだけど――)



 サンセは本気を出したくても出し方もわからないのに、攻められ続ける理不尽さに苛立ちを感じていた――



「ほらほら! どうした!」



 キールは尚も重い連撃を畳み掛け続ける――

 サンセは肩で息をするまでに体力を消耗するも、冷静に剣筋を見て防いでいた、が――



(っ……()()なの?……これ以上はもう――)



 サンセの手の感覚は(かろ)うじて木刀を持っているまでに麻痺し、いつ弾き飛ばされてもおかしくない状況まで追い込まれた――



「サンセが()()()()()()()()()()()()()()()か!」


「っ!」



 今までの理不尽さにサンセの苛立ちはピークを迎えるかという時に、サンセの“メシア様に対する思い”を侮辱されれば我慢の限界だった――


 これまでで一番重いキール渾身の一撃が打ち込まれ、サンセの木刀がバキッと音を立てて真っ二つに折れた――

 その瞬間、絶対絶命のピンチにも関わらず、サンセがニヤリと不敵な笑みを浮かべた――

 サンセはこの時を待っていたとばかりに素早く折れた剣先側を右手で掴んだ――



「……()()()()()()()()()()()()()()()



 サンセは暗いオレンジの瞳でキールを睨みつけ、左手の持ち手側でキールの攻撃を受けつつ、右手の剣先側の木刀をキールの喉元に寸止めで突きつけた――



「っ!……参った……」



 キールは木刀を離して両手を上げて降参のポーズをとった。サンセはそんなキールの姿を見て、我に返るように瞳の色が普段の淡いオレンジへと戻り、突きつけた木刀を下ろした――



(……今のって……“醜い僕”?……だけど……()()()とは……()()?)



 サンセの()()以上の結果に、サンセは放心して立ち尽くす――



「これを狙ってたのか……見事な作戦だった」



 キールは普段の優しい兄の振る舞いに戻り、サンセの頭をぐしゃっと撫でた――

 

 サンセの()()とは、苛立ちつつも冷静にキールの攻撃を()()()()で受け続け、木刀が折れる時を()()かと待っていた――

 木刀が折れて二刀流になれば、キールの意表を突いて攻めに転じられる()()程度の作戦だった。そうなっても、勝率はキールの方がやや高いだろうと踏んでいた――

 

 そこへ、上手いこと“醜い僕”が発動した事で、その勝率を完全にひっくり返したのだ――



「……これでハッキリした。サンセは間違いなく王族近衛騎士(ロイヤルナイト)クラスの実力者だ……。でも……()()をやったのがサンセなのかは何とも言えないな……」


「え?」


「あんな残虐的な殺し方……サンセがやったとはどうしても思えなくて……」


「っ……」



 サンセの事を大切に思うばかりのキールの言葉が、逆にサンセの心をグサリと傷付ける――



(……じゃあ、()()をやった僕は()()()()()()?……キールにとっての僕は()()()()?)



 サンセはそうは思っても、サンセ自身もキールにそう思われても仕方がないとわかっていた――

 サンセの実の兄は厳しくて甘えられるようなタイプじゃなかった。その点キールは、優しく甘やかしてくれる理想の兄そのもので、キールの前では弟のように甘える事もあった――

 故に、今回の件がキールの中で簡単には結び付かないだろうと――



(……逆に僕は……キールにどうして欲しかったんだろう……)



 キールに優しい言葉をかけられようが、酷い言葉で(ののし)られようが、どっちみち傷付いたんだろうという正解のない答え――

 傷付きたくないのに、それでも罪深い僕を傷付けて欲しいという矛盾を伴った複雑な感情――



「……サンセ? どう――」


「僕だよ」



 キールは俯いて黙り込んだサンセに声を掛けようとしたが、サンセはそれを遮るように呟いた。



「え?」


「キールが言ってた通り、先輩を殺したのは盗賊だけど……その盗賊達を殺ったのは僕だから」


「っ!……証拠はあるのか?」


「ないけど……僕が覚えてる。手に残る感触も……血のニオイも……恐怖に叫ぶ声も――」


「っ……」



 悲しげに顔を歪ませて語ったサンセに、キールはどんな言葉を掛けたらいいかわからず黙り込んだ――



「……だから……僕を地下牢に入れて?」


「っ! ライアンの仇討ちの為だったんだろ!? それなら情状酌量の余地があるから、部屋で謹慎処分が妥当――」


「そうだとしても、たくさんの盗賊を殺したのは事実で、罪深い事だってわかってる……。それに、僕が先輩の命令を聞かずに勝手な事をした……。それがなければ、先輩も死ぬ事はなかった……。だから……先輩を殺したのも、僕同然――」


()()()……命令違反は褒められることじゃない……」



 キールはサンセの言い分も理解出来ていたが、どうしても我慢ならず、サンセの声を遮るように声を一度張り上げると、冷静に語り出した――


 

「けど……ライアンはサンセを見殺しにする事なく、助けて命を落とした……。だから、ライアンが悔いがなかったとはハッキリ言えないけど、俺はライアンを立派で誇らしく思うよ」


「っ……」



 サンセは変な慰めで“ライアンは悔いはなかったはずだ”と言い切られるより、キールの正直な言葉に少し救われる思いだった。



(先輩の悔いならたくさんあったはずだ……。子供が産まれてメロメロだったし……プレゼント渡したがってた……し……っ!? 先輩が言ってた、ぬいぐるみ“わた”の続きって……“渡して”か“渡したかった”?)



 サンセがそこまで推測すると、ライアンが生前子供の事で何度も似たような事を言っていた事を思い出した――



(確か……本当は聖なる夜前後に産まれる予定が早産で、俺に会うために早く産まれて来たんだって……っ……)



 ()()()つまり、早産でなければ、ライアンは()()()()()()()()()()命を落としていた事になる――



(……ほんとに会う為だったのかもね……。こんな事、僕が言えた義理じゃないけど、早く産まれて来てくれて……会えて……良かった――)



 サンセはそうは思っても、ライアンが子供と過ごす未来を楽しみにしていただろうと思うと、無性に泣けてきた――



(っ……先輩……ごめん……っ……ごめん――)



 キールは突然泣き出したサンセに驚くも、会話の流れ的にライアンの事で泣いていると察した。

 キールは何も言わずに左手でサンセの顔を自分の肩に埋めさせ、そのままサンセが落ち着くまで頭を優しく撫で続けた――



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 翌日、サンセとキールは内密に朝一番で王と謁見した――


 最初は普段通りふざけていた(ブライ)だが、真面目な話とわかると、ちゃんとした王に早変わりした。

 ブライはサンセがした事に驚きつつも、反省する気持ちがあるなら部屋での謹慎で充分だと、地下牢に入る事には反対した――

 だが、サンセの意志の硬さから、その意志を尊重する事になった。


 

「ビターにはどう伝える?」


「……ビターにはこの件の詳細は言わないで下さい。キール以上に心配性だし。……出来れば他の兵士達や、家族にも……」


「サンセが本気を隠す以上はそうせざるを得ないしねぇ。……まぁ、命令違反だけで地下牢行きは罰が重すぎるってビターが怒りだしそうだけど……。はぁ……サンセずるい! 羨ましい!」


「……はい? 急に何なんですか……」



 ブライは話す事はだいたい終わったとばかりに、ふざけた態度に早変わりして愚痴を零し、サンセもその後ろに控えるキールも困惑する。



「ビターに心配されちゃってさー……ずるいずるい! こっちは悪態つかれてばっかなのに! この扱いの差、酷いと思わないかい!?」



(これじゃあ、悪態つかれて当然でしょ……)

(そういう所直さないからだろ……)


 呆れたサンセとキールは、心の中で思い思いのツッコミを入れた。



「話は終わったので下がらせて頂きます」


「え!? ちょっと! 話はまだ――」



 サンセとキールは、まだごちゃごちゃ何か言っているブライをスルーして、そそくさと謁見の間を後にするのだった――



 

 その後の日中、ライアンの葬儀が教会で行われ、関係者が花を手向(たむ)けに列を連ね、王族からも代表でブライとビターが参列した。

 

 実質既に謹慎中のサンセも、ライアンとの最後の別れの為に外出を許され、キールと共に並んでいると――

 ライアンの人柄の良さから、慕われていた事がわかる参列者の声が聞こえてきた――



「奥さんが花好きで詳しいみたいで、結婚前からよく花屋(うち)に顔出して勉強を――」


本屋(うち)で花の本立ち読みしてたのはそれで――」


「プロポーズだって、奥さんの好きなガーベラでするって花束を買って――」


「よくうちで酒飲んでたのに、回数減ったのは、その為に金節約して――」


「子供も産まれてこれから幸せいっぱいって時に可哀想に――」


「ああ……良い奴を亡くしたよ――」



 サンセは自然と耳に入ってきた会話に居た堪れなくなって俯く――

 同じく聞こえていたであろうキールが察して、肩を組むように手を乗せ、サンセを(なだ)めるように優しく叩いた――


 その後、サンセの番が来て、花を手向けて祈りを捧げるも、それは懺悔に近い気持ちだった――



(先輩……僕はどうすればいい?……っ……どうすれば――)




 葬儀が終わって城に戻ると、近親者のみに明日の明朝サンセが地下牢へ入る事が告げられた。

 案の定、事情を知らないビターやサンセの両親は“考え直せ”と説得しに来たが、サンセの考えが変わることは当然なかった――


  

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 翌日の明朝、予定通りにサンセは秘密裏に地下牢へ入って行った――



(……いざ、こうしてひとりになると、ビター達にだいぶ救われてたのかも……)



 手枷と足の重りで自由が制限され、静まり返った薄暗い地下牢にひとりでいるだけで、サンセの頭の中には()()()の光景が映し出され、気が狂いそうになる声がガンガン鳴り響いていた――



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 サンセが地下牢に入って3日目の、聖なる夜当日の朝――



(……赤い……)



 連日連夜続いた()()()の悪夢に、サンセは精神を痛めつけられ、虚ろな眼差しで()()()の残像の血に汚れた手を眺めていた――


 そこへ、階段を下りてくる靴音が響き、その足音はどんどんサンセの方に近付き、サンセの牢の前で止まった。



「サンセ、一旦出るぞ」


「………………」



 声の主はビターだったが、虚ろな目のサンセはビターが来た事にも気付いていなかった。



「っ!」



 ビターは魂のない抜け殻の様なサンセを見て、一生この状態から戻らないのではと急いで牢の鍵を開けて中に入ると、サンセの頬を何度か軽く叩いて刺激を与えた――



「サンセ! おい! しっかりしろ!」


「……っ………………ビター?」



 サンセがビターを認識して弱々しく呟くと、ビターは泣きそうな顔でサンセを抱きしめた――



「このバカ! だからひとりになるの反対したんだ!…………サンセのバカ! 意地っ張り! 頑固! わからず屋!」


「……………………随分酷い言われようだね」


「バカにはこれぐらい言わないとわかんないだろ!」



 ビターは言葉ではキツイことを言いつつも、サンセを抱きしめる手に更に力が籠り、心配を隠しきれていなかった。サンセもそれがわかり、ふっと儚く笑った――



「…………ビター……まずは手枷(これ)とって? そしたら、抱きしめてよしよししてあげるから」


「はぁ!?…………そうやって()()言うぐらいには元気出てきたみたいだな」



 ビターは安心したように笑ってから、サンセの手枷と足の重りの鍵を外していく――

 サンセは冗談っぽく誤魔化したが、もし手枷をしていなければ自然と()()していただろう。心配を掛けたお詫びと、心配してくれた事への感謝を込めて――



「あ、そういえばちゃんとミスティーにお礼言うんだぞ?」


「え?」


「あの日、ミスティーが()()()()()()()()()()()俺に教えに来てくれたんだからな?」



(…………それ、絶対僕に何かあれば()()()()()()()()()慌ててたんだと思うけど……)



「サンセわかったか?」


「…………うん」



 サンセはどうせミスティーには近付く事はないからと、形ばかりの返事をした――




 サンセはビターに連れられて地下から地上に出ると、窓から差し込む久しぶりの日差しに目を細めた。



「っ……眩しい」


「早く慣れてくれないと困る。今日は予定がたくさん詰まってるから――」


「……予定?」


「今日は聖なる夜でサンセの夜会デビューだろ? まずは風呂入ってから着替えて――」


「ちょ、ちょっと待って……今、僕って()()()の身だよね? なら、夜会には行けないでしょ?」


「人生1度きりのサンセが16歳で夜会デビューする日だから、()()()親父から許可が出た」



(……最悪……)



 ビターの張り切りぶりを横に、サンセは溜息を吐いて落胆の影を落とす――


 サンセはもちろん、夜会に出たくなくてあの事件を起こしたわけじゃない。あの事件がなければ、適当な理由を作って行かないつもりでいたぐらい、憂鬱で気だるい行事だった――

(※ライアンに聞かれた時“夜会には出ると思う”と言ったのは、出ないと言うとうるさそうな為)


 3階まで上ると、ビターはとあるドアの前で立ち止まり、サンセの方に振り返った。



「ここは、元々サンセに用意してた部屋だ」



 ビターはそう言って鍵を開けてドアを開くと、サンセは見えた室内に言葉を失った。



(元々用意って、何これ……僕を軟禁する気?)



 入口のドアは外からしか開かない鍵付き、窓は鉄格子がはめ込まれ脱走不可、部屋の中の家具も割れ物系は全くなく、必要最低限の安全を考慮された物ばかりだった。



「てか、()()()()()になるなら、もう地下牢に入れさせらんないから、今日からしばらくはここで謹慎させるって親父にも後で言っとく。元々そのつもりで用意させてたのに地下牢行く事決まってたからさ……」



(ああ……なるほど)



「さすがにひとりは心配だから、カイトをそばに付ける。……って事でまずは風呂入って来てくれ」



 ビターは部屋に備え付けられた風呂場のドアを指差した。ビターはサンセが渋々風呂場に入ったのを見届けると、使用人を呼んでサンセの着替え等を指示して部屋を出て行った――




 サンセが風呂から出ると、待ち構えたように使用人がいて、サンセの着替えや髪型のセットをしていく。カイトは壁に寄りかかり、そんなサンセの様子をぼんやり眺めていた――



(ん……? やけに紫が多いんだけど?)



 白を基調とした礼服に薄らと淡い紫の模様が施され、身につけるブローチやカフスに至るまで紫に統一された色合いに、サンセは小さな不信感を抱いていた――



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 一方ビターは、城内のとある部屋を訪ねノックしていた――



「準備出来たかー?」



 メイドがドアを開け、ビターを中へと促すと、化粧台の前にドレスアップされたミスティーが腰掛けていた――


 ミスティーは、淡いオレンジの小さな花の飾りが散りばめられた淡いピンクのドレスを身にまとっていた――



「ミスティー綺麗だ。よく似合ってる」


「っ! ももももも勿体なきお言葉……あああああり……ありがとうござ、ござ……ます……」



 ミスティーはただでさえビターがいて緊張しているのに、ビターに綺麗だと言われたら完全にキャパオーバーを起こしていた。

 ミスティーは何とかお礼は言ったものの、ビターが何か言っているのも聞く余裕がなく、真っ赤な顔で空返事を返すのが精一杯だった――



「――って事で行こうか」


「はい!?」


「……やっぱり、ちゃんと話聞いてなかっただろ? まぁ、着けばわかるから……頑張れよ?」



(わかるって何がですか!? 頑張れって何を!?)



 ビターの話にうわの空だったミスティーは、わけもわからず混乱しながら部屋を出たビターの後に続いた――


 ビターは歩きにくそうなミスティーを気遣いながらゆっくり歩き、サンセの部屋のドアをノックすると、使用人達がゾロゾロ出てきた――



「準備ご苦労だった。今日はこれで帰ってくれていい。聖なる夜の日を楽しんでくれ」



 ビターの計らいに使用人達は嬉しそうに頭を深々下げて去って行くのを後目(しりめ)に、ビターが入口から部屋の中を覗くと――


 

「カイト、お前も今はここを出て休んでてくれ」



(カイトまで外に? なんか怪しいんだけど……)



 サンセはビターに言われて部屋を出て行くカイトを横目に、ビターを疑うような目で見据えた――



「サンセもよく似合ってるな」



(え? サンセットさん?)

(サンセ()?……他に誰か――)



 ミスティーがビターの出した名前に戸惑い、サンセが更に怪しむようにそう思考した時――



「ミスティー、入ってくれ」


(は?)


 

 サンセはその名に驚くも、ミスティーが気まずそうに部屋に入ると、その格好を見て全てを察したが、ビターはサンセに追求の間を与えなかった。


 

「それじゃ、夜会の時間まで()()()()()()()()話してくれ――」


「は!?」

「え!?」



 ビターはサンセとミスティーの驚愕の声を遮るようにドアを閉めると鍵を掛けた――



「え!? ビター様!? 開け下さい!」



 ミスティーはドアをドンドン叩いて懇願するも、ビターは既に去っていた――



「……やめときなってば」


「なっ!? サンセットさんはなんでそんな落ち着いてられるんです!? 私達閉じ込められたんですよ!?」


「……僕らはビターに()められたんだよ。だから、時間まで誰も来ないんじゃない?」


「……()められた?」



 サンセは何もわかってなさそうなミスティーに溜息を吐く――



「……お互いの格好見てみなよ」


「……格好?」


「僕はミスティーの髪や瞳の色の紫で、ミスティーは僕の髪色に近いピンクのドレスと、瞳の色のオレンジの飾り……。こんな格好でお互い夜会に行ったらどうなると思う?」


「っ! 婚約が決まった仲だと思われる!?」



 サンセは溜息を吐きつつ肯定するように黙って頷いた。



(そんな……そんな事になれば、サンセットさんを好きな令嬢達にまたなんか言われちゃう……)



(鈍いビターには、ここまで露骨な事(※互いに服を揃えた婚約者アピール)を考えるのは無理だから、ビターの両親(あの人達)の知恵だろうけど…………にしたって、閉じ込めるとか……親子揃ってやる事ぶっ飛びすぎでしょ……)



 ふたりは思い思いに黙り込んだが、最初に沈黙を破ったのは、何故こんな事になったかを察したサンセだった――



「あ、そうだ。あの日、ミスティーがビターに知らせに行ってくれたんだって?……()()()()()



 サンセはいかにも感謝してない気だるい表情と声色でお礼を述べた。



「なっ! なんですかその態度――」


「この面倒の発端は()()だから」


「……え?」


「ビターが言ってたよ?“ミスティーが()()()()()()()()()()()伝えに来た”ってね……」


「なっ! そそそそんなわけ――」



 ミスティーは反論しようと声を張り上げるも、その声はサンセの気だるい表情から()()を思い出したのか、尻すぼみに小さくなって真っ赤な顔で黙り込む――


 サンセはミスティーが怒って鋭い目付きで睨んで反論してくると思っていた、が――



(え……? 思ってた反応と違うんだけど……) 



 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

※前回ノベルアッププラス版にはおまけが付かなかった代わりに、今回限定おまけが付いてます!


ノベルアッププラス版限定おまけ

【おまけ会話~サンセ&キール~】

※本気の手合わせから約2週間後、部屋で謹慎中のサンセの下を訪ねたキール。部屋にいたカイトに用を言いつけ退室させると、サンセとふたりだけで何やら話があるようで!?


※気になって下さった方は読んでくれると嬉しいです



次回、今度はミスティーの勘違いが暴走!? サンセが上着を脱いで妖艶に微笑む!? ミスティーのサンセに対する想いに変化の兆し……なのか!? サンセはライアンに贖罪(しょくざい)を誓う!?

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