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第38話 聖なる夜に贖罪の誓い~サンセの過去~③

 キール達が現場に駆けつけたのは、全てが終わった後だった――

 

 戦場を見慣れた彼らですら、現場の光景を直視できない程の酷い有り様で、サンセとライアン以外はほぼ人の原型を留めていない状態だった――


 血塗れのサンセとライアンを発見した際は、間に合わなかったかと、悔しさを叫ぶ者やすすり泣く者もいた――

 

 キールは実の弟のように可愛がるサンセの血塗れの姿に、顔面蒼白になってフラフラの足取りで近付くと、うつ伏せで倒れるサンセを震える手で抱き起こした――



「っ……遅くなってすまない……」



 キールはサンセをそのまま抱きしめると、サンセに息があると気付いた。それならば傷は浅いだろうと傷を見る為に身体を拭いた所、サンセは傷ひとつ無いとわかった――


 衛兵達が、サンセは血塗れ故に死んでいると思われ“殺人鬼”に殺されずに済んで良かったと話す一方――

 王族近衛騎士(ロイヤルナイト)のふたりはサンセを見つめ、険しい顔で考えるように黙り込んだ――


 その後、救出部隊をふたつに分け、キールが仕切る部隊はひとまず先にサンセとライアンを城へと連れ帰り、残りの部隊は盗賊達の遺体を丁重に埋葬する作業に追われた――



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 キール達が城に戻ったのは夕暮れ時だった――

 

 衛兵達は、“謎の殺人鬼”がライアンや盗賊達を殺し、サンセは運良く助かったのだと騎士団長(※王族近衛騎士(ロイヤルナイト)の中から選ばれた人格者が務める)に報告した。

 その横で、キールは口を挟む事なく俯いて考え込んでいた――


 そんなキールの様子を見て、騎士団長はキールに声を掛けた――



「――キール……この内容に間違いはないか?」


「…………()()()()()()()()()()



 キールは確証もない事を憶測で伝えられないと口を噤んだ――



(この事はサンセが起きたら確認して、返答によっては王に伝え判断を仰ぐ必要が……。それまではビター様にも悟られてはいけない――)



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 キールが帰ってきたと聞いたビターは、サンセが運ばれた兵達の仮眠部屋に書類を持ち込み、サンセを傍らで見守りつつ目覚めを待った――



――サンセが目を覚ましたのは、翌日の昼前だった――



「っ……ここは?」



 サンセが寝たまま部屋を見回すと、ベッド脇に突っ伏すよく知る金髪の頭が見えた。



「ビター?」


「……ん……サン……セ?…………っ! 気がついたのか!?」



 ビターは寝ぼけながら顔を上げ、目覚めたサンセを見て眠気が一気に覚めた。

 ビターは昨日からずっと夜通しサンセのそばに付いていたが、眠気に負けて寝ては起きてを何度か繰り返し、今のが三度寝だった――



「サンセ大丈夫か?」


「……大丈夫って?」



 サンセがビターと話す為にゆっくりベッドから起き上がると、着た覚えのない前開きのローブを素肌の上に着ている事に気付いた。



(……この服……それに僕はなんでここで寝て?……何か……悪い夢を見ていたような――)



 サンセがまだ混乱しているとわかったビターは、報告のあった内容を伝える事にした――



「サンセは昨日“謎の殺人鬼”襲われて、ほぼ丸1日寝てたんだ」


「……()()()?」


「サンセは運良く助かったけど、ライアンは……」



 ビターが言葉を詰まらせ悲しげに黙り込むと、サンセはその表情から察したように頭の中のぼんやりした霧が薄くなっていく――



『――ぎゃあああぁぁぁ――』


「っ!」


 

 サンセの頭の中に、いくつも重なった盗賊達の恐れ(おのの)く叫びが響き渡り、頭の中の霧が一気に晴れた。 

 それは、悪い夢を見ていた訳では無いと、その声が、手に残る感触が、そう告げていた――



「現場は酷い有様だったらしい……だから、サンセが……サンセだけでも無事で良かった。……キールも心配してたから、目覚めた事伝えてくる」



 サンセはそんなビターの声はおろか、部屋を出て行った事にも気付く余裕がなかった――

 

 全て思い出したサンセは、自分の犯した罪に青ざめた顔で身体を震わせた――



「……あ……僕は……っ……」


(……赤い……消えない……)



 サンセの服は着替えさせられ、身体は綺麗に拭かれていたが、サンセには血の付いた汚れた身体に見え、それはたくさんの命を奪った自分への呪いのように思えていた――


 サンセの頭の中はぐちゃぐちゃで、盗賊の頭が言った腹立たしい言葉や、盗賊達の叫び声が気が狂いそうになる程に繰り返される――


 そんなサンセの頭の中に、盗賊達の声に混じってライアンの声も微かに聞こえてきた――



『――サンセ!』


『――ぬははは――』



 その声はだんだん大きくなって、終いにはライアンの声だけになった――



「っ……先輩……」



 ライアンの声は、普段の明るいライアンを思い起こさせるものばかりだった――



(……ウザイと思ってた……苦手だった……。だけど……()()()()()()()()のに……)


「っ……何で僕が生きて……先輩が――」



 サンセは堪えきれない怒りと悔しさをぶつけるように、腕を横に強く振り切った。

 すると、宙を切るはずの腕がベッド脇に置かれた花瓶に当たり、ガシャンと音を立てて花瓶は割れ、行き場をなくした花がパサリと床に落ちた――



(……花瓶……)



 サンセの虚ろな眼差しは自然と割れた破片の鋭い先端に目がいった――

 自暴自棄になっていたサンセは、割れた破片を拾うと、鋭い先端を自分の首元へとゆっくり近付けていく――


 そこへ、キールに伝え終えて近くまで来ていたビターが割れた音を聞いて慌てて駆けつけた――



「サンセ!? 何してんだよ!」



 ビターはサンセの持っている破片を奪い取って下に投げ捨てると、サンセの胸ぐらを掴んで身体を揺する――



「おい! 何考えてんだよ」


「……ビター? そんな怒ってどうしたの?」



 ビターの心配するあまりの怒りに対し、サンセは何事もなかったように微笑んだ。


 

「は!? 今サンセが破片を――」


「うん。ぶつかって落としちゃったから拾ってただけだよ?」


「っ……」



 サンセは尚も笑顔を取り(つくろ)い、バカなふりでとぼけて平静を装う――

 サンセがこの笑みを浮かべるのは、幼少期から(つちか)った自分の感情を隠す為の芸当だった、が――

 

 ビターはサンセのその笑顔に、幼少期の笑ってるのに笑ってないサンセの顔が重なって見え、何も言えなくなった――



(確かに破片を首元に持っていこうとしてたのに……何で……っ……何で無理して笑うんだよ――)



 その声に出せなかったビターの気持ちは、サンセが話してくれない悔しさなのか、サンセに無理に笑わせてる自分への怒りなのかわからなかった――



「――嫌ぁぁぁぁぁぁ……あなたぁぁぁ――」


「「っ!」」


 

 ビターのそんな複雑な気持ちをかき消すような悲痛な女性の叫び声が隣の部屋から聞こえてきた――


 サンセは“あなた”と泣き叫ぶ声から、それが“ライアン(先輩)の奥さん”だと察し、ビターの手を払い除けて向かおうとした――



「っ……おい! そんな格好で会うつもりか?」



 サンセはビターが胸ぐらを掴んだ事により胸元がはだけて肌が(あらわ)になっていた。



「……国の為に尽くしてくれたライアンだ……今頃(親父)がちゃんと話を――」



 ビターがそう言ってサンセを(なだ)めようとすると――



「――お金なんていらない! あの人を……っ……あの人を返してよ――」


「っ……」



 ちょうど聞こえてきたライアンの妻の悲痛な泣き叫ぶ声に、サンセは唇を噛み締め、表情は暗く陰っていく――



(……()()()()()()()……()()()()()――)



 サンセの視線は再び割れた破片へと動き、それをビターは見逃さなかった。サンセのとる行動を察したビターは、サンセにしがみついた――



「え……」



 サンセはビターの唐突な行動に戸惑う――



「死なせないからな……絶対……。だから……絶対離さない……」


「っ……」



 ビターの“まるで子供の駄々で(すが)りつくかっこ悪くて情けない姿”は、さっきの複雑な気持ちを代弁しているようだった――



(ごちゃごちゃ考えたってわからない……だけど、サンセに死んで欲しくない事だけは確かだ……どんな無様な姿を晒そうが止める――)


(……今まで目敏いビターに気付かれずバカなふりしてこれたのに……今は隠し通せないぐらい(まい)ってるのか……)



 ふたりはそんな互いの心境を読む余裕もなく、(しばら)くそのままの体勢で沈黙が流れる――


 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 一方、時同じくしてミスティーも、訳あって果物が入ったカゴを持ってサンセの見舞いへと向かっている所だった――



(サンセットさんに近付かないでって言った手前、私も極力近付かないって決めてたのに……。ビター様……どうしてよりによって私に――)



 これは、勘違いをしたビターなりに気を利かせ、ミスティーに“サンセの見舞いに何も用意してなかったから果物を持ってきてくれ”と頼んでいたからだった――


 そこへ、ビターの知らせを聞いて報告書を片付けたキールが、悩ましげな様子のミスティーとばったり鉢合わせた。



「あれ? ミスティーもサンセの見舞いか?」


「キール様!……はい。ビター様に頼まれて……」


「そうか。すぐそこだけど一緒に行くか」



 ミスティーはキールの申し出に頷くと、サンセに対する気まずい気持ちを整理しながら歩き出した―― 



(これは()()()()()()……ビター様に渡してすぐ帰れば問題ない!)



 ミスティーは部屋の前まで来てそう意気込むと、その勢いのまま()()()()()()()ドアを開けた――

 

 すると、ビターとサンセが顔を近付け見つめ合い、よく見るとビターはサンセに抱き着き、サンセの服は乱れて胸元がチラリと見えていた――

 そんな、まるで周りに花が舞っているような美しい光景(※あくまでミスティー主観)が視界に飛び込む――

 ミスティーはみるみる顔を赤くして固まった――

 

 その横でキールは、単なるふざけたじゃれ合いだと思い、呆れた眼差しをビター達に向ける。



「おっ! キールにミスティー! 持ってき――」


「あ、あああああのっ!……おおおお邪っお邪魔しました――」



 ビターがサンセから離れ、ミスティーに“持ってきてくれたのか”と言おうとしていた、が――

 パニック中のミスティーは、それを遮るように早口で告げながら果物が入ったカゴを入口に置くと、一目散に部屋を後にした――



「……え?」


「っ……」


 

 ビターは意味もわからず呆気にとられ、サンセは何かを察して笑いを堪える――



(今は笑える気分じゃなかったのに……っ……面白すぎでしょ……)



()()って何でだ?」


「……たぶん、()()()()()()()じゃない?」


()()()()って?」



 サンセは尚も笑いを堪え、ビターはサンセの含みのある言い方に苛立って答えを急かした――



「……ミスティーは僕とビターが熱い抱擁をする仲だと――」


「はぁ!? 男同士だぞ!? 何でそうなる!?」


「あー……ビターは知らないか。茶会で僕がビターの所行くって言うと、令嬢達は()()()解放してくれるんだよね」



 ビターは再び呆気にとられて首を傾げる。



「……何でだ?」


「……ビターは婚約者と全然一緒にいなくて、僕もどの令嬢にも興味を示してない。それでいて、僕らはよく一緒にいるから、()()()()()()されてるっぽいね」


「なっ………………」



 ビターは言葉を失い、令嬢達にそんな風に見られてた事実を知らない程に無関心だった事や、自分にもそう思われて仕方がない非があると考えさせられ黙り込む――


 すると、呆れたキールが咳払いで話を断ち切った――



「…………ビター様。ひとまずサンセとふたりだけで話をさせてくれませんか?」



 キールの真剣な声と顔付きに場の空気はピリッと一変した――

 サンセは話の内容を察して顔を引き締め、ビターも大事な話だとわかる雰囲気に「わかった」と言って部屋のドアに手をかけた――



「あ……サンセ。これを渡そうと思ってたんだった」



 ビターが再びサンセに近付いて手渡したのは“白くて青い瞳の血で汚れたうさぎのぬいぐるみ”だった――



「っ!」


「これでも親父の魔法でだいぶ綺麗にしてもらった方だけど、汚れ……残っちゃったな……」


「……これで充分だよ……」



 サンセがぬいぐるみを大切そうに受け取って儚げに微笑むと、ビターもその微笑みが移ったように儚げな笑みを浮かべて部屋を出て行った――


 サンセとキールのふたりだけになったものの、キールはどう切り出すか考えあぐねていて、部屋は静まり返る――



「……話があるんじゃなかったの?」


「っ……」



 聞かれるであろう事を察しているサンセは、緊張する事なく至って冷静に儚く微笑んだ。

 キールはそんなサンセの憂いを帯びた微笑みを見て、余計に言葉選びを間違えて傷つけるわけにはいかないと黙り込んでしまった――


 そんなキールの気持ちも察したサンセは、自ら話を切り出した――



「……ビターにだいたい聞いたよ……()()()の仕業って。…………キールも()()思ってるの?」


「っ……俺は…………」



 サンセの問いかけにキールはビクッと反応し、意を決して話そうと開いた口は再び閉じてしまった――

 サンセはそんなキールの様子を見て(らち)が明かないと言わんばかりの溜息を吐いた。



「……ハッキリ言っていいよ? キールは()()()()を見たんだよね?……“王族近衛騎士(ロイヤルナイト)のキール”はどう思ったの?」



 サンセは、現状のキールが自分を弟分として可愛がってくれてる優しいキールだからこそ、言葉に困っているとわかっていた――

 だからこそ、あえて言い逃れ出来ぬようにそう尋ねた――



「っ……俺は…………現場の状況を見ると…………ライアン以外の遺体は酷い有様で……その中でサンセだけ傷ひとつないのは…………っ…………不自然だと思ってる」



 キールは言葉を発する事を躊躇(ためら)いながら悲しげに顔を歪ませた。それに対してサンセは動じることなく儚く微笑み、キールに続きを促すように見つめた――



「……遺体の状態から、ライアンを殺した人物と、盗賊達を殺した人物は()()だろう。()()()()()()が出来る人物は限られてくる……“得体の知れない殺人鬼”なんかには不可能だ……。それこそ……“王族近衛騎士(ロイヤルナイト)クラスの実力者”じゃないと、な……」



 キールは悲しげな表情のまま真剣な目でサンセを見据えたが、サンセは尚も儚げな微笑みを浮かべたままだった――



「……サンセが普段の訓練で本気を出していない事は、王族近衛騎士(ロイヤルナイト)達はみんな気付いてる……」


「……だろうね」



 サンセはキールに手抜きを見破られたにも関わらず、眉ひとつ微動だにせず落ち着いていた――

 なぜなら、最強と名高い王族近衛騎士(ロイヤルナイト)が、()()()()も見抜けない程愚かではないと思っていたからだ。



「……別に本気を出してない事を責めてる訳じゃないんだ。試験の時は緊張やらで実力を出せない奴もいれば、名誉より命優先だったり、様々な事情で実力を出したくない奴だっているだろう……。だから、サンセが本気を隠すのも自由だ……。だけど……1度サンセの本気を俺に見せてくれないか? その上で判断したいんだ……」



(僕を疑いつつも僕の本気を見た上で、ね……。ほんと……優しいキールらしい)


「…………いいよ」



 サンセは儚げな笑みを絶やさぬまま答えた――


 キールはサンセが目覚めたばかりという事や、精神的に辛いだろうという事から、気持ちが落ち着いてからでいいと言うと、サンセは明日の夜でいいと言い張った――

 

 キールはサンセが平気ならと、ふたりは明日の夜に訓練所で落ち合う事になった――



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



 翌日のすっかり日も落ちた薄暗い訓練所に、キールの姿があった――

 

 訓練所は安全の為に高い塀で囲まれ、何方向かに頑丈な扉がいくつかある。キールはその扉を順番に閉め鍵を掛けていく――

 それは、他の誰かに見られる事がないようにという、サンセが本気を隠していた事への配慮だった。


 キールは扉を閉めつつ、サンセとの日頃の手合わせを思い返していた――



(……サンセとは休みの日によく手合わせはしてる……。その時もサンセは本気じゃなかったのか?)



 キールの脳裏に普段の訓練の時よりは楽しげなサンセの姿が浮かんだ。

 可愛い弟分を怪我させる訳にはいかないと、キール自身も本気を出してサンセと手合わせした事はなかった。



(……まさか、俺の手加減に合わせてサンセも手加減を? それなら――)



 最後の扉をひとつ残してキールが訓練所の中央へ立つと、ちょうどサンセがその扉から入ってきた。



「……来たか。その扉閉めて鍵掛けてから来てくれ」



 サンセは閉め切られた訓練所と、普段の優しいキールとはどこか違う雰囲気に、ピリッとした緊張感を肌で感じつつ扉を閉め鍵を掛けた――


 全ての扉が閉まると薄暗さも増したが、逆に月明かりが中央を照らすスポットライトのように見えた。


 サンセがキールのいる中央まで来ると、キールは木刀をサンセに投げ渡し、サンセは難なく片手でそれをキャッチした――



「……俺は今から本気を出す」


「え?」


「だからサンセも本気で来い……じゃないと怪我するぞ?」


「……それはいくら何でも僕の事買いかぶりすぎじゃない?」


「買いかぶりかは、サンセが本気を出せば自ずとわかる事だろ?」


「………………」



 キールがまだ見ぬ強者と戦える事に気分を高揚させているのに対し、サンセは気が進まない様子で黙り込むと訓練所が静寂に包まれた。 



(……キールには悪いけどほんと買いかぶりだよ。僕が本気を出した所で()()()程強くないんだから……。()()()、自分がどうなってたのか……僕が知りたいぐらいなのに――)



 サンセはこの時、まだ“醜い僕”を使いこなせておらず、なぜ()()()()()()()よくわかっていなかった――

 そもそも、サンセのこれまでの感覚では、マイナス思考に闇に堕ちていく自分を“醜い僕”と称し、愚痴等を誰にも言わずに()()に溜め込む――

 いわゆる“感情を吐き出す場所”という感覚だった――



()()()も、()()()()だったんだろう……。“醜い僕”で戦うと()()()()って事?……そうは言っても、キールに対して()()()恐ろしい力を使いたくない――)



「さあ……どっからでもかかって来い」



 サンセの内心の動揺を知らないキールは、そう言って木刀を構え、真剣にサンセを見据えた――


 サンセもキールに続いて木刀を構えたものの、攻め込めば返り討ちにあうとわかる程にキールに威圧されて動けない――



(っ……どっからでもって言う割りに、隙なんか全くないし――)



「……来ないなら俺から行く」


「っ!」


 キールは普段どれだけ手加減していたか一目瞭然なスピードでサンセに向かって駆け出した――




 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

3サイト別おまけ企画第2弾!

【おまけSS~素直なカイトは腹黒サンセをも甘くする!?の巻~】


 キールの話が終わった後、キールが部屋を出るとカイトが待ち構えており、キールと交代で中に入った。



「ん? カイトも来てくれたの?」



 サンセの言葉にカイトは黙って頷き、そのまま黙り込み続けた――


 それはいつもの事でサンセは慣れていたが、この日ばかりは用件を聞いたらカイトには部屋を出てもらい、ひとりになりたい気分だった――



「えっと……どうしたの? なんか用事?」



 戸惑うサンセの言葉にカイトは首を横に振った――



(は? 用もないのに何なの……)



「……悪いけど……用がないならひとりにしてくれない?」



 サンセはひとりになれない苛立ちを心根に零しつつ、それを感じさせない笑顔を浮かべた。


 だが、カイトは尚も首を横に振り、それを見てサンセが再びイラッとすると――



「……サンセを…………見てる……」



(は?…………あー……そういう事か……)



 サンセはカイトが誰かに頼まれでもしなければ、こんな行動は取らないとわかっていた。


 サンセは、さっきのビターの心配した様子から、カイトに頼んだのだと察した。



(よりによってカイトに頼むとか……)



 サンセは他の人ならば適当な理由を付けて退室させる自信があった、が――

 カイトは仮にサンセが狸寝入りしようがずっと見続け、部屋を出れば何処へ行くにもついてくるだろうとわかりきっていた――



(普段なら気まずくならない程度に僕が話しかけてるけど……今はそんな気分じゃない……)



 サンセがチラリとカイトに視線を向けると、日頃一緒にいたからこそ気付く違いがあった。

 普段無表情のカイトの口角がやや上がっていて、機嫌が良さそうだと――



「……カイト、なんか良いことあったの?」



 サンセの問い掛けにカイトは黙って頷くと――



「……サンセ……いるから……」


「え……?」


「……いつも……いない……」



(あー……なるほど……夜は家に帰ってるから当然としても、僕が兵士になってからは、日中もパトロールの日だとカイトに会う時間もなかったから?…………キールとビターがカイトを甘やかす訳だ……)



 サンセにはカイトが、まるで遊んで貰えなくて寂しがる弟のように見え、キールとビターが甘い理由に納得した――



(はぁ……仕方ない……なんか適当な話題――)



 サンセはこの後、カイトを気遣うように話題を探して話し、夜は夜で同じ部屋で眠った――



 翌日はさすがに話題に困ったサンセ――


 サンセはカイトが1番喜ぶのは、幼少期の頃から“手合わせ”だとわかりきっていたが、ライアンの件もあり休んでいろと言われている身だった――



(……でも、カイトの身内のキールと、今日の夜手合わせする約束してるわけだし……キールならバレても怒らないか……)



 サンセは時間の許す限りカイトと軽い手合わせでウォーミングアップして過ごした――

 カイト自身も他の見習い兵士と手合わせするより、サンセとの手合わせの方が楽しめるのだ。(※見習い兵士相手だと力の差が歴然の為)


 サンセはカイトが楽しいなら何よりと、ふわりと笑った――




~他2サイトおまけ情報~


①アルファポリス版では【おまけ会話~ビター&サンセ~】

ビターがサンセにしがみついた後、本編ではミスティーに場面が移りましたが、その間のビターとサンセのおまけ会話付き


②カクヨム版では【おまけSS~ミスティー煩悩と葛藤するの巻~】

飛び出して行ったミスティーがその後どう思っていたかわかるおまけ付き


※気になった方は見に行って下さると嬉しいです!


――おまけおしまい――




次回、ついに始まったサンセとキールの手合わせの勝敗の行方は!? サンセはライアンを思い涙する!? 地下牢にいるサンセの下を訪ねたビターはサンセを抱きしめる!? ビターの勘違いが暴走!?

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