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【番外編】敬愛するあなたへ~ミスティーの過去~②

(婚約?……もう会えないの?)


 ミスティーは初の茶会から帰ってからというもの、頭に浮かぶのはビターの事ばかりだった。

 言葉で説明されても幼さ故によくわかっていない現状だった――

 

 その茶会からひと月もしない内に、今度は別の貴族の家で茶会が開かれる(しら)せが届いた。

 ミスティーはいつものように「行きたくない」と言ったのだが、その後両親の話す会話で“王族も少しだけ顔を出す”という言葉に反応して「行きたい」と身を乗り出した。


 なぜビターに会いたいと思うのかもわからないまま――


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 茶会当日、ミスティーは両親の後ろに引っ付きながら招待してくれた貴族や招待客等に挨拶周りをしていた――

 

 挨拶に行くたび男児を持つ親達に“うちの子のお嫁さんに”と言う言葉を言われるのだから、ミスティーはウンザリしていた。

 これはもはや定番の挨拶のようになっていて、冗談半分とあわよくば狙いが半分だから“軽く受け流せばいい”とミスティーも後々気付く事になる――


 挨拶周りが終わると両親は両親同士で集まり雑談し、子供は子供同士で集まったが、ミスティーはこの時が1番憂鬱でしかなかった。


 雑談と言うよりも、人気の男児の周りに女児が群れる光景が広がっていて、ミスティーはひとりポツンと取り残される――

 そうなると、初の茶会の再現のようにミスティーの周りに男児が群れるのが必然だった――


 ミスティーはそれが怖くて、周りの男児の顔は全てじゃがいもが怒った顔に見えた。声もエコーが強くかかって頭にガンガン響くように聞こえ、気持ち悪くなって顔色も悪くなっていった――


(やっぱり茶会に来るんじゃなかった……)


 ミスティーがそう後悔した時、突然周囲がざわつきだした。王族が顔を出しに来たのだとわかると、素早く親子で合流して挨拶に行く貴族達――


(……なんだかすごい……。私も早くパパとママ探さなきゃ……)


 ミスティーは周囲の素早さに呆気に取られつつ両親を探し、何とか合流した後は既に挨拶する行列が出来ているので並んで待った。

 待つ間に人混みとざわついた声で再び気持ち悪くなってしまうが、ビターがこの人集(ひとだか)りの向こうにいると思うだけでミスティーは頑張ろうと思えた――


 ミスティー達の挨拶の番が来て、ひと月も経っていないのに久しぶりに会えた感覚でビターがキラキラと輝いて見えた。

 せっかく自分の番だというのに、ミスティーの体調は既に限界で、両親の挨拶している声すらも耳に入ってこず、キラキラ輝くビターもどんどん(かす)んでいく――


「――大丈夫!?」


 ビターの間近に聞こえる声にハッと我に返ったミスティーは、ビターの顔の近さに赤面してパニックになった――


「え!? え!? ああああの、その、えっと――」

「……ちょっとだけお借りします」


 ビターはミスティーの両親にそう伝えると、ミスティーの手を引き、その家の家主に庭に出る許可を取った。

 ミスティーはビターに手を引かれてるだけでいっぱいいっぱいで、今何が起こってるのか理解出来ていなかった――


 庭に出てからも周囲の野次馬の視線があった為、ビターがジロっと視線を向けるとサッと離れていった。


(……すごい……)

 

 ミスティーは、まだ5歳だというのに王族の威厳もカリスマ性も備えたビターに感嘆(かんたん)の息を漏らす。


「じゃあ、そこに座って目を閉じて?」


 そう言ってビターが庭にあったベンチを指差し、ミスティーは言われるがままに座り、目を閉じる事にドキドキと抵抗を感じながらも目を閉じた――


(……何するんだろう?)


 そう思ったミスティーの顔にそよそよと優しい風があたった――


(……気持ちいい風)


 ミスティーの火照った顔に吹く心地よい風に目を開けると、ビターがミスティーに掌を(かざ)していた――


「……え?」

「どう?」

「……えっと……心地よい風で……?」


 この時、最初ミスティーはこれがビターの魔法による風だとわからなかった。実際魔法を見た事がなかったから当然とも言える。

 だが、自分に風があたるのに庭の木々のざわめきが聞こえず、ビターの綺麗な金色の髪も風に(なび)いていない事に気付く――


(私にだけ風が吹いてる……これがもしかして……魔法?)


「……少しは気分良くなった?」

「っ!」

 

 ビターのその発言で、ミスティー自身が人混みで気持ち悪くなって意識も朦朧(もうろう)状態だった事を思い出した――


(……だから人気のない庭に連れて来てくれて、心地よい風で気持ち悪いのを治してくれようと?)


 ミスティーはビターの存在により、具合が悪かった事すら忘れていた事実にも驚いたが、ビターの優しさに胸が高鳴り顔が火照っていく――


「だ、大丈夫?……ごめん、具合悪かったのに余計酷くさせちゃったのかも……本当にごめんね。……ちょっと待ってて、すぐ連れて来る――」


 ミスティーのビターを見つめる視線は、またしてもビターからは不機嫌に睨んでるように見えていた。ビターはミスティーが怒ってると勘違いして謝り、すぐにミスティーの両親を呼びに行ってしまった。


(……え、なんで謝られたの? 謝られるような事されてないのに……。むしろ私がお礼を言うべき所……あ! 私お礼言ってない!……最低だ……)


 ミスティーの火照った顔はすぐにサーッと冷えきり、自分の有り得ない失態に顔面蒼白の自己嫌悪に陥った――


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 それからミスティーはビターが顔を出す茶会にだけは毎回行くようになった。

 ビターに挨拶したい者は当然多く、ミスティーはお礼を言う機会を遠目から覗う――


 ここまでくればお約束で、ビターにはそれは不機嫌に睨らまれてると思い、“男苦手、この間の事まだ怒ってる、近付いたら余計不機嫌にさせる”と、ビターはミスティーを優しさ故に避けるようになった。


 そんな事とは(つゆ)知らずのミスティーは、ビターと目が合っても逸らされ、声を掛ければ用事を思い出したと逃げられ――


(そ、そんな……お礼も言えない奴なんて見たくもないって事ー!?)


 ふたりのそんな勘違いによる誤解のすれ違いで溝は深まるばかり――

 

 ミスティーの両親は、さすがにここまでビターを目で追うミスティーの姿を見て、ビターに好意を寄せていると察していた。

 しかし、婚約者の意味を理解してじきに諦めるだろうと軽視していた――


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 結局ミスティーはお礼を伝える事が出来ぬまま約3年の月日が流れ、9歳になった――

 

 ビターには避けられ続けはしたが、思わぬ収穫もあった。

 ミスティーがビターを眺めている時に声を掛けた男児への視線の鋭さが、()()()()()()()()()()と周知され、ミスティーに声を掛けようとする男児がいなくなったのだ。

 

 ミスティーが喜ぶ中、ミスティーの両親は未だにビターを諦めていなそうなミスティーに困惑していた。

 婚約者のいる人に好意を寄せる事は、ミスティーが周りに悪く言われる未来しかない――忘れるなら早い方が傷は浅いと、他に目を向けさす作戦を決行したのだ――


「ミスティー、今日は一緒にパパの仕事場に行こうか?」

(仕事場……お城!?……()()()()の姿拝める!?)

「行きたい!」


 ミスティーは自分の心の中だけで勝手に愛称呼びでビターを敬うという、両親の心配の斜め上を行く“ビター信者”となっていた――


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 ミスティーは父親に連れられお城へやって来た。

 父親の仕事場へと向かっていると、2階の通路へ出て、そこからは中庭が一面見渡せた――

 

 中庭に植えられた低木により東西に区切られた広場がふたつあり、それぞれに人影が見えた。

 ミスティーは長年ビターを目で追い続けた所為(せい)か、それがビターであると瞬時に察知して窓辺に近付いた。


(あれはビター様と……第2王子殿下と……女の子?)


 ミスティーはその女の子を食い入るように観察して、今まで見た同年代の女の子と全然違う大人びた気品や美しさを感じた。

 それは、ビター同様の威厳やカリスマ性にも似ていた。


(あの子も王族? じゃあ、あの子がビター様の婚約者?……とってもお似合い……)


 ミスティーはふたりの並ぶ姿を想像して、ストンと腑に落ちるしっくり感に、どこか寂しさを憶えた。


「――おーい! ミスティー! こっちこっち!」


 ミスティーは遠くから聞こえる父親の声に目を向けると、後ろに付いてきていなかったのに気付いた父親が、大きく手を振って呼んでいた――

 

 父親の仕事場の前まで来ると、窓の向こうの中庭からカンカンと何かがぶつかり合う音が聞こえてきた。


「お! 今日もやってるな~。いつかふたり共王族近衛騎士(ロイヤルナイト)になるんだろうなぁ~」


(そういえば、もう片方の広場にも誰かいたんだっけ……)

 

 ミスティーは父親の視線の先を追うように見下ろすと、そこには木剣で戦うふたりの男の子の姿があった――


(あ……いつも女の子に囲まれてる“サンセ様”と、一部の女の子に人気の“バトス様”だ)


 ミスティーは、普段女の子達が呼ぶ呼び方を習うように、興味の無い棒読み状態でそう思いつつボンヤリ眺める。


「ミスティーはどっちの子がタイプ?」

「へ?」

 

 ミスティーは、父親が突然何を言い出すのかと上擦った変な声が出た。


「パパはどっちも名家でミスティーに相応(ふさわ)しいと思うんだけど……」

(え……パパは私を殺す気?)


 ミスティーは普段の茶会でふたりに群がる女の子達の恐ろしさを遠目に見て知っている。抜け駆けしようものならば陰口や、恥をかかせたりと――とにかく醜い争いが巻き起こり、近付くこと(なか)れが茶会を生き抜くの為のミスティーの教訓だった。


「パパ……“触らぬ神に祟りなし”」

「へ?」


 ミスティーの悟りを開いた言葉に、今度はミスティーの父親が上擦った変な声を上げた――

 

 その後、ミスティーの父親は仕事場のドアを開けて「ミスティーはまだそこで見てるといい。離れる時は必ずパパに声を掛ける事!」と言いつけ中に入っていった。


(……見てろと言われても……)

  

 ミスティーは戸惑いつつぼんやり窓の外を眺めていた――


(ふたり共、茶会にいる時と全然違う顔……楽しそう。……そういえば……ビター様もあのふたりの前では楽しげにお話ししてたよう……な?)


 ミスティーは朧気(おぼろげ)な記憶ながらも、このふたりはきっとビターの仲良しの友人で、それはこれからも変わりなく続く関係なのだと思った。


(……いいなぁ……男の子は変わりなくずっとビター様のそばにいられて……。私はずっと遠くから眺めるだけなんだろうなぁ……)


『――いつかふたり共王族近衛騎士(ロイヤルナイト)になるんだろうなぁ~』


 サンセ達を羨むミスティーの頭の中に、先程の父親の言葉が再び思い起こされた。


(……王族近衛騎士(ロイヤルナイト)? 王族近衛騎士(ロイヤルナイト)になれば……ビター様のそばで……お役に立てる?)


 そう思い立ったミスティーは、勢いよく父親の居る部屋のドアを開けると――


「パパ! 私、王族近衛騎士(ロイヤルナイト)になりたい!」


 父親がひとり静かに仕事をする部屋に、ミスティーの声が響き渡った――

 父親はあんぐりと口を開け、力なく持っていたペンを落とし、ペンが机をコロコロと転がる音だけが虚しく聞こえていた――





次回、王族近衛騎士(ロイヤルナイト)を志すミスティーの挑戦始動! そんな中、サンセがミスティーに接近!? サンセの言葉にミスティー動揺!?

 

※ミスティーがビターを見つめている際のビター達の反応がわかるおまけ会話付き!

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