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【番外編】敬愛するあなたへ~ミスティーの過去~①

 ミスティー・ランズベリー。

 

 チョコランタ王国で彼女の事を知らない者は今やいない王族近衛騎士(ロイヤルナイト)の紅一点――


 ランズベリー家の当主であるミスティーの父は、城で書類作成や整理を担当する何人かいる書記官のひとりとして働く。

 城勤めで王を支える仕事は全ての貴族の憧れでもあり、大変名誉な事でもあり、その家系が“一流貴族”だという証でもあった。


 ミスティーは幼い頃からそんな父を誇りに思っていた――


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「そろそろミスティーをお披露目する茶会を開こうか」

「そうね」


 それはミスティーが3歳になる頃、ミスティーの両親が話を切り出した。

 

 茶会とは、昼間に行う会の総称で種類がある。同年代の同性の友人を招く雑談会、お目当ての異性を招くふたりだけの密会等――

 主に幼い子供は、幼少期から家同士の繋がりを作る為に両親を伴いお披露目会や親睦会が幾度と催される――


「ちゃかいー?」

「そうよー。ミスティーを紹介したら、きっとたくさんのお婿さん候補が名乗りを上げるわね」


「おむこさんー?」

「その人のお嫁さんになってこのお家を出て、パパとママみたいにそのお婿さんと一緒に暮らすのよ」


「っ! いや! パパとママとずっといっしょがいい!」

「結婚はミスティーが大きくなってからだから、それまではずっと一緒よ」


「やなのー!」

「……ミスティーが嫌がるならずっと茶会にも行かなくていっか」


 駄々をこねるミスティーに両親はあっさりと説得を諦めた。ミスティーの両親は揃って親バカで子供にはとにかく甘かった。


 その親バカぶりは、その約1年後にお城で開かれた第1王子をお披露目する茶会にもミスティーを連れて行かない常識外れ……ある意味勇気ある猛者達だった。


 だが、その約2年後のミスティーが6歳になる頃――


「今日お城で開かれる第1王子の茶会は重要な発表があるらしいから……さすがに行かないと……ね?」


 両親はそう言ってミスティーを渋々ながらも説得し、いざ茶会に初めて来たミスティーは、知らない大人に囲まれ怯えていた――


「ランズベリー殿、そちらがふたりめのお嬢さん?」

「はい、次女のミスティーです」

「後ろに隠れて恥ずかしいのかな? 可愛いねーうちの子のお嫁に来ない?」

「っ!」


 ミスティーは“お嫁”という言葉に幼きトラウマが蘇って、父親の足に縋りついた。

  

「ほら、ミスティーも挨拶してごらん?」

「っ!」


 必死に後ろに隠れたミスティーを何とか前に出そうとされ、ミスティーは父親の手を振り切って逃げ出した。

 

(パパの所は怖いからママとお姉ちゃんの所行く! どこにいるの?)


 ミスティーは走りながらふたりを探していると、同年代の子供の集団の所に行き着いた。


「サンセ様、私とお話ししましょ?」

「いいえ、私とよ!」


(男の子の周りに女の子がたくさん……みんなすごい必死みたい)


 初めての茶会参加のミスティーは、彼女等が必死になる訳もわからず、それを興味深く眺めていた。


 貴族の親達、そして親に教育された子供達がそこまで必死になる訳は――


 チョコランタ王国では16歳で初めて夜会デビューをする。そこでパートナーとしてダンスをした相手が結婚相手になる確率が高い事から、それまでに茶会で良い関係作りをするのが風習のような暗黙のルールになっていたのだ。


「いいよなー。イケメンってやつは人気でさ」

「それでいて名家とか……俺ら勝てるわけないじゃん」

「これじゃまた父様に怒られるー」


 ミスティーと同じ少し離れた所にいた同年代の男児達の(ひが)み羨む声が聞こえてきて、そちらに目を向けたミスティーは、最悪にもその中のひとりと目が合ってしまった。


「あれ? 君はサンセ(アイツ)の信者じゃないの?」

「じゃあ俺達と話そうよ」

「…………」


 ミスティーは初の茶会だから当然同年代の子供に会うのも初で、何をどうしたらいいのかわからず、ただひたすらに恐怖に震えていた。


「寒いの?」

「じゃあ、あっちで温かい紅茶を一緒に飲もうよ」

  

 そう言って男児がミスティーの手を強引に掴んできた。


(痛い!) 

「っ! 離して――」

「その子嫌がってるだろ」


 突然、ミスティーの周りにいる男児達とは別の男児の声が聞こえ、周囲がざわつく――

 しかし、ミスティーには静まった会場にその男児の声がこだまのように何度も聞こえるように感じていた。


(……綺麗な金髪の男の子……私の気持ちわかってくれた)


 ドキドキ胸が高鳴るミスティーの視界には、その金髪の少年以外はぼやけて見えた。


 すると、ミスティーの周りにいた男児含む周囲の令嬢達までもが媚びを売るように金髪の少年の周りに集まり頭を下げて礼をした。


「ビ、ビター様!」

「(バカ! 王族を馴れ馴れしく勝手に愛称で呼ぶなって父様に習ってないのか!?)ビ、ビターズ……いえ、第1王子殿下にご挨拶申し上げます」


(……第1王子? あの男の子が?)


 ミスティーはその騒がしい声から聞こえた内容に驚いて呆然としていると、その第1王子なるビターは群衆を気にする事なく間を通ってミスティーに向かって歩き出した――


(っ! こっちに来る!? ど、どうしよう)


 ミスティーは慌てて周りの見様見真似に頭を下げて礼をしたが、挨拶までは混乱して言葉が出てこず、緊張と不安で再び震えだしてまった。


「……顔を上げて?」


 第1王子の優しい声にミスティーが顔を上げると、そこには見た事もない綺麗な少年の微笑みがあった――

 

 ミスティーはその微笑みに射抜かれたように赤面して、フラフラとその場に座り込んでしまった。


「え!? 大丈夫? やっぱり具合が悪かったの?」


 ビターは周囲の感情に鋭くても、恋愛面――それも自分に向けられる純粋な好意には鈍かった。(※ビターの追憶参照)

 最初は震えて嫌がってると思って助けたが、真っ赤になって震えているのを見て、具合が悪いと勘違いしてしまったようだ。


 ビターがそう言いながら心配してミスティーの肩に触れると、ミスティーは驚いて真っ赤な顔のままビターを見つめた。


 だが、それはビターから見れば睨まれていると感じる程の鋭い目つきだった為、ビターは「あ、ごめん」と触れた手を離した。

 ミスティーからすれば何で謝られたのかわからないというすれ違い状態――


(パパ、ママ……こういう時はどうすればいいの? ドキドキして苦しい……)

  

「……君どこの家の子?」

「…………ラ、ランズベリー……」


 ミスティーが緊張しながらなんとかそう言うと、ビターは優しく笑った。

 

「わかった。僕が一緒に探してあげる」

「……え?」

「だって、早く会いたいでしょ?」


(っ! なんで私の気持ちわかってくれるの?)


 ドキドキと高鳴る鼓動――その正体が何なのかこの時ミスティーにはまだわからなかった――


「――こら! ビター! ひとりで勝手に行くんじゃない!(王族は最後に揃って会場に入るって教えただろう?)」

「父様……」


 ビターの父であるこの国の王ブラインがビターのそばに駆け寄ると、さらに周囲は騒然とざわついた。

 

「……だって、この子が困ってたから……」

「……そうだったのか! ビター偉いぞ~」


 ビターの言葉に状況を理解してブラインがよしよしと頭を撫でていると――


「「――ミスティー!?」」


 この騒ぎでミスティーの両親も見に来たのか、王族のそばにいるミスティーを見て顔面蒼白で慌てて駆け寄ってきた。


「パパ! ママ!」


 ミスティーは見慣れた両親の顔を見てやっと安心した笑顔でふたりに抱きついた。


 その後、ミスティーの両親はビター達にペコペコ頭を下げて挨拶と謝罪をしていたのだが、ミスティーは両親の後ろに隠れてビターをこっそり見ていた。


 その視線に気付いたビターは、先程の二の舞で“睨まれている”と感じ、“男が苦手なのか”と勘違いする事になる――

 

 そんなミスティーの正体不明な想いは、本人が自覚する前に終わりを迎えた――


 その日の茶会の重要な発表――それがビターの隣国王女との婚約が決まった発表だったからだ――





【おまけ会話~ビター&ビター両親’s~】

※この話当時を()()現在振り返ったらの会話です


グレイ(ブライ)「あー……この頃のビターが1番可愛い時だったなぁ~」

 

モカ(マロン)「ほんとよね~……自分の事も“僕”って言ってたし……」

 

グ「()()()()って私達を見る上目遣いが堪らなく可愛いかったのに~」

 

ビター「っ!……()()()()()……マジでそれ以上言うな!」


 ビターにとって恥ずかしい黒歴史に赤面して口元を手で隠しながら睨む。

 

グ&モ「…………はぁ~」


 ふたりで顔を見合わせ溜息を吐く。


グ&モ「なんで()()なっちゃったのか……」

 

ビ「……()()、目の前にいるけどな?」

(※主にツッコミ所満載のふたりへのツッコミ疲れの所為(せい)


――おまけおしまい――


次回、まだ婚約という言葉だけではピンと来ていない幼いミスティーは、自然とビターを目で追っていて……? 両親が予想もしなかった()()発言をすることに!?


※茶会や夜会の決まり事や、一流貴族の見定め等は完全にフィクションなので、チョコランタではそうなんだー程度に軽く流して下さい(笑)


※ちなみに、ビターが(両親に)会いたかったでしょ? と、ミスティーの気持ちを察せたのは、“具合悪いと心細いだろう”という推測からです。

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