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第31話 ビターの葛藤

 夕暮れのチョコランタ城の執務室に居るのは、ビター()のみ――

 昼間のデジャブのようにバトスは「腹減った~」とさっき飛び出して行ったばかりだ。


(……バトス(あんなの)王族近衛騎士(ロイヤルナイト)でナンバー1のパワーを誇るなんて大丈夫か?)


 もはや呆れを通り越して心配するレベル――

 あくまで()()()()()の話で、実力でのナンバー1はカイトだと()()()()()

 でも、サンセの“危うい目”を見てからは、サンセの実力が計り知れないでいる――


(サンセはおそらく、本当は俺に危うい(あの)目を見せるつもりはなかったんだと思う……)

  

 そう思うと同時に約3年前にサンセの本性を見せられた時が脳裏に過ぎった――

 

 今までのサンセは偽りで、俺は騙されていたと知って一瞬放心した――

 それでも今までの関係を壊したくなくて、今まで通り冗談のように振舞う事で動揺を隠したものの、今後は探るような目でサンセを疑わないといけないのかと、サンセに崖から突き落とされたような気分だった――

 

 そんな言葉にしていない俺の内心も、本性を見せたサンセからすれば安易に察した事だろう。


 サンセは「もうビターに嘘はつかないから」と複雑そうに微笑んで誓ってくれた――

 俺が怒らなかった事に戸惑ったような複雑な顔。それでいて、なんだか泣きそうにも見えたから、そこで揶揄(からか)う程俺だって野暮じゃない――


――そんな当時を思い返して懐かしくて笑みが零れたのも束の間で、その笑みはすぐ消え失せた。


()()()俺にあの目を見せたんだろ?)


 返事が返ってくる訳ないのに脳裏に浮かんだサンセにそう問い掛けた――

 

 見せられたからにはサンセにウザイ程お節介を焼くのがせめてもの仕返しで、それでメティーの護衛を任せたけど――

 昼間メティーからの連絡でサンセの話題が出なかったのが何事もなかった証拠だろう。


(メティーのそばで我を無くす程サンセは愚かじゃない……そうだよな?)


 再び脳裏のサンセに問い掛けると、丁度ノックの音が部屋に響いた――


「ビター様、お部屋のお掃除に参りました」

 

(……聞き覚えの無い若い女の声……。城で働くメイド達も家に帰るであろう時間に掃除? 何より、メイド達は大抵俺を陛下と呼ぶ……)

 

「……入ってくれ」


 不審に思いながらもそう声を掛けると、ドアが開いてメイド姿の茶髪の女性は微笑んだ。

 その女性は周囲を気にしながら部屋に入ると、ドアを閉めてから深々と頭を下げた――


(見覚えのない姿だけど……)


 瞬時に引っかかる点と動作を合わせ見て脳裏に浮かび上がった特定人物にニヤリと笑う。

 

「……相変わらず見事だな()()()()()

「……ビター様にはお粗末な変装過ぎましたね」


 ミスティーは本来の声でそう言ってクスリと笑ってカツラを取ると、綺麗な紫色の髪が現れた。声色まで変えれるのはさすが調査任務のスペシャリストと言ったところか――


 その後ミスティーから本当はもっと完璧な変装だったのに、情報を聞く為に変装をといたからお粗末な変装になったんだと弁解されたが――


(……変装以外の事で気付いたって言うべきなのか? 意外とミスティーも天然な所があるんだよな……)


 怪しい点がなければすぐ見破る事は出来なかったかもしれない俺は、苦笑いを浮かべて心の声をそっと飲み込んだ――

 

「……にしても、すごいなそばかす(それ)。化粧でつけたのか?」


 ミスティーに近付いてマジマジと見ても、化粧の効果なのか普段と雰囲気が違って見える――


「あ、ああああの!」


 ミスティーの顔がみるみる真っ赤になって俯いた。


「あ、悪い。昔から男苦手だったもんな」

「っ! 違――」


 ミスティーはすぐさま離れようとした俺の服の袖を掴んだものの、自分の行動に我に返って慌てて掴んだ手を離した。

 その時、ミスティーの手首に赤いリボンが結ばれてるのがチラッと見えた。


(あのリボンは……)


 昔の記憶が一瞬過ぎったものの、それをはね飛ばす勢いでミスティーが喋り出した――


「あ、ああああの! 違っ……ビター様の事は違うと思って、咄嗟に……あ! ち、違うって言うのはその……へ、変な意味はななななくてですね……えっと、その……」


 ミスティーは真っ赤な顔で慌てふためき、俺は「とりあえず落ち着け」と声を掛けたものの、笑いを堪える事が出来ず声を出してひとしきり笑った――



「――あー……。笑いすぎて腹痛い……っ……」

「……ビター様、笑いすぎです……。ほんとに先程は違くて……その……失礼しました」


 ミスティーはまだ少し赤い顔で頭を下げた。


「大丈夫、ちゃんとわかってる。()()()俺に言ってくれたもんな?」


 俺はそう言ってミスティーの手首に結ばれた赤いリボンを指差す――


 脳裏に夕暮れの人目につかない城の裏庭でひとり残って剣を振る、当時のミスティーとの記憶が過ぎった――


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 それは、ミスティーが14歳で、俺が13歳の頃――


(兵士見習い訓練に歴代初の女が参加してると話題になっていたが……こんな時間までひとりで頑張ってるんだな)


 偶然そばを通りかかった俺は、邪魔しないようにそっと去ろうとすると――

 少し強めの風と共に「あ!」と声がして、何事かと振り返った俺の足元に赤いリボンがヒラヒラと舞い落ちた。


 リボンの行方を目で追ったミスティーが俺に気付いて真っ赤になって固まった。

 その姿は、幼い頃パーティーでミスティーが両親に連れられて挨拶に来ていた日の姿と重なった。


(……昔と変わらないな)


 俺はふっと笑ってリボンを拾い、軽く埃を払いながらミスティーの元へ向かい「遅くまで頑張ってるんだな」と手渡すと――


「お、幼い頃、ビター様が助けてくれた時からずっと……お……っ……恩返しがしたくて……。ビター様のそばで……お役に立ちたいんです!――」


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

――真っ赤な顔で緊張で声を震わせた当時のミスティーを思い出すと、自然と微笑む。

 

「……でも、なんで腕に付けてるんだ? 髪に結ぶやつだよな?」

「そ、それは…………い、いいじゃないですか! どこに付けたって……」

(……深く詮索するなって事か)


 相変わらず緊張したミスティーの緊張ほぐしの話題を振ったつもりが、赤くなって言い淀む姿を見て、雑談をやめて本題に入る事にした――

 

「……で? ここに来たって事は動きがあったのか?」

「……はい」

 

 ミスティーは俺が話題を変えた事に安堵した後、顔を引き締めて返事をすると報告を始めた――


大臣(対象)は、サンセットさんとカイトさんを最近見かけない事に警戒しているのか、自室に(こも)っているようです」

「……()()クソジジイがね……」


 大臣(クソジジイ)は自分の損得で動き、自分が良ければ他はどうでもいいような奴だ。“自分の事しか考えていなそうなのに”と思わず皮肉めいた笑みが零れた。


「それで、自分が動かずに済むように封書を侍女に託したようです」

「……封書? どこに送ったんだ?」

「まじまじと見るのは失礼だからと、配達の者に渡す際にチラッと見えた文体の感じから……多分“マカダミア”じゃないかと……」


 ミスティーの言葉に、俺はゾクッと肝が冷えたような、苛立たしいような、悩ましいような――そんな複雑さで唇を噛み締めた。


 サンセが大臣(クソジジイ)の動向調査をしてた頃に、マカダミアに出入りしている事は聞いていたが――

 大臣(クソジジイ)がマカダミアに何の目的で行ったのかは未だにわからないまま――

 それでいて、調べればこちらの動きを悟らせるだけの手詰まり――

 

 ティスの件があったにしてもメティー達に任せたのは浅はかだったかもしれない。ティスの事は別の者に頼んで安全なアーモンド王国に行かせるべきだったかも――


 そんな焦りにも似た苛立ちで拳を握りしめたものの、一旦冷静になるべく溜息と共に力を抜いた。

 

(でも……大丈夫だろう。王族近衛騎士(ロイヤルナイト)一二の実力を誇るふたりがメティーを守ってるんだ。何より、サンセがいれば……)


 頭がキレるから変な罠に引っかかる事もないだろうと、祈るような気持ちで窓からマカダミアの方角を眺めた――

 



次回は前々回から予告していたマカダミアにいるメティー達の模様+マカダミア研究所でも何やら動きが!?


その後、今回誤解を招きそうなミスティーの過去話の番外編を書こうと思ってます。

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