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第28話 不審な人物②

「……どうしたの?」


 サンセ()はカイトに真剣に向き合う――


「……光……思い出した……」

「……へ?」


 カイトの唐突な言葉に、僕は思わず気の抜けた返事をしてしまった。


「……女神誕生祭(メシアフェスティバル)の……」

「……ああ、その光……え!?」


 話の謎がわかった後、その事実に思わず驚きの声が出た。


(一部の者を除いて、誰もが()()()光を?)


 光を覚えているのはビター(いわ)く“神の加護持ち”と“神に()()している者”だけのはず――


(……まさか、カイトもメティーに“執着”を?)


 思い返せば、僕が早くメティーを連れて行けと言った時、これまでのカイトなら安全最優先だとわかった上ですぐ従ってくれただろう。

 でも、カイトはメティーを気にしてすぐに動かなかった――


 カイトの顔を眺めると、普段通りの無表情で、カイトを初めて見る奴は寝起き直後だと勘違いする程にぼんやりしている。


(いつも通りか……結構重要な事だって自覚ないの?)


 カイトは表情を変えることなく首を傾げ、僕は呆れた溜息しか出てこない。


 カイトの事だから、()()()()()()()“執着”ではないだろうけど――


 そこまで考えハッとして“その考え”を頭の中から追い出す。


(……僕は何考えてるんだ。心を乱されてからどうかしてる……カイトはきっと護衛としてそばにいて、単純に情が湧いて思い出したってだけだ……)


 自分にそう言い聞かせ、息を吐いて動揺を(しず)めた――


 すると、クロウが階段を降りてくる音がして、話は一旦打ち切りとなった。


 クロウの案内の元、僕はメティーを抱き上げ2階へと運ぶと、階段を上った正面にひとつ目の部屋のドアがあった。


「左の1番奥の部屋は僕が使ってるので、そこ以外ならお好きに使って下さい」


 クロウに言われて左側を見ると、通路を挟んで左右に他の部屋のドアが3つある――


「どうぞごゆっくり……」


 クロウはそう言って会釈し、下に降りて行った。


 とりあえず、メティーを階段正面の部屋のベッドへと寝かせる――


「カイト、先に休んでいいよ。僕が見張ってるから……」


 年上として年下に先に休憩を譲る――至っていつも通りの事で、カイトもすんなり頷く所だ――

 なのに、カイトは首を横に振った。


「……僕が見張る……」


 カイトの言葉にピクリと反応し、さっき追い出した“余計な考え”が再び頭に過ぎる。


(……まさか、本当にカイトも()()()()?)


 そう思うと、苛立つような感覚が押し寄せてきた――


(っ!……カイトに限ってそんな訳ないのはわかってる……動揺を鎮めないと)


「…………わかった。カイトに任せて先に休ませて貰うよ」


 そう言ってメティーの方を見ることなく部屋を出て、クロウの部屋の手前に当たる部屋のベッドへ倒れ込む――


(これだから……”恋愛(コンナ)感情ハ イラナイ“のに――)



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


――いい匂いがして目が覚めると、ふかふかのベッドの上だった。


(あれ……サンセ達より先に寝ないって意気込んでたのに、すっかり眠っちゃったんだ……)


 窓から差す明るさ的に、数時間寝てお昼ご飯時に起きたみたい。


(夜食べたきりだったし……美味しそうな匂いで起きるとか……食いしん坊か!)


 ひとりツッコミをして窓から部屋に視線を移すと、部屋の隅にカイトが立っていた。


「え!? カイト! ちゃんと“ねんね”したー?」

「……少し……護衛だから……」


 カイトは普段通りのぼんやり口調で、眠いのかどうかも区別がつかない。

 でも、数時間しか経ってないのに“少し”?――


(これ、絶対寝てないでしょ……。じゃあ、今はサンセが寝てるのかな?)


「しゃんしぇがおきたら、ちゃんと“ねんね”してね?」

(これは決定事項! 強制! 疲れて倒れたら大変!)


 そう思いながらカイトをジーっと見つめると、カイトは根負けしたように「……わかった」と頷いた。


(あ! そーいえば、無事マカダミアに着いたこと教えなくちゃ心配させちゃう! ビターさん達に唯一連絡を取れる私が先に寝落ちとか……何たる不覚!)


 カイトがハンカチに包んで手首に結んでくれた魔力石(※21話のおまけ会話参照)を慌てて確認する。


(……みんなとお揃いだけど、戦ったりするサンセ達は(ほど)けてなくしちゃいそうだよね……)


 ビターさん達のように、ネックレスにする程のイメージ力がなかったのが悔やまれる――


 気を取り直して、グレイさんを思い浮かべるように魔力を送ると、包まれていても魔力石が白くぼんやり光るのがわかる――


『グレイさーん! 無事マカダミアに着いたよー』

『――っ! メティーちゃん!……無事でよかった』


 グレイさんの声を聞くだけでも、相当心配させてしまっていたのがわかって申し訳なくなる。


『疲れて少し寝ちゃって……連絡遅くなってごめんなさい……』

『疲れてるのにありがとう。ゆっくりおやすみ……』


 優しい声にグレイさんの優しい笑顔が浮かんでほっこり優しい気持ちになる――


(……ティスさんのことは、もう少し調べてからのがいいよね。“操り人形”だけしか分からない今教えたら、余計心配させちゃう……)


 そういえば、カオスモードを覚悟してたけど、すんなり会話が終わって逆にびっくり――


(ん!? そういえば私、普通に喋っちゃった!?)


 魔力石を使うと“たどたどしさ”がなくなるから、注意しないとって思っていたのに――

 グレイさんのカオスモードは、笑顔と“たどたどしさ”によって拍車がかかると、これまでのカオスぶりで察している――


(……怪しまれてないかな? でも、実は“転生したらしくて中身は大人です”なんて言う方が怪しいよね)


 ふと、我に返ると、カイトが無表情なのに如何(いか)にも“不思議な生物”を見ているかのような視線とかち合う――


(あ……私、顔に出やすいから、また百面相してた!? 恥ずかしすぎる……)


「……いま“ぐれーしゃん”についたよーって おちえたの! つぎ“びたーしゃん”におちえるね!」


 恥ずかしさを誤魔化すように元気よく笑顔で伝えると、カイトの目元が微かに細くなって微笑んだような気がする。


(カイトと少しは仲良くなれてるかな? 初対面が暗殺者(アサシン)と間違う程だったのを思うと、だいぶ進歩した方だよね!)


 カイトに伝えた通り、次はビターさんへ連絡すべく、思い浮かべて魔力を送る――


『ビターさん! 無事マカダミアに着いたよー』

『……そうか』

『あ……もしかして、お仕事中だったり……』

『……いや、休憩中だ……』


(……その割りには、声が真面目というか……連絡する時を間違えちゃったような空気ナンデスガ!?)


 内心どうしようとパニックになりつつ、何か言わないとと言葉を探す――


『……休憩中ならよかった……何か分かったらまた連絡するね……』

『……ああ』


 結局、会話に困って会話を終わらせる事しか出来なかったという――


(ビターさんにも心配させちゃうから変に言わない方がいいし、ティスさんと何があったかとか聞ける空気じゃなかったし……)


 さっきまでぼんやり光っていた魔力石を眺めてそう思っていると――


「……魔力石……ですか?」


 不意にクロウさんの声がして、私は驚いて声がした方を見ると、クロウさんがドアを開けて私を見ていた。


「あ……驚かせてごめんなさい。一応ノックはしたんですが……ご飯出来たので起きてるか見に来ただけで……」

魔力石(これ) しってりゅのー?」

「……はい……ティスがネックレスにして持っていたので……」

「うん! わたちも“しゃしん”みて しってるんだぁー!“ねっくれしゅ”いいなぁー」


 さっきの“悔やまれた事”が、思わず言葉になって出ていた。まさに、おもちゃを欲しがる子供のように――


「……よかったらネックレスにしましょうか? 金具……余ってたはずなので」


 クロウさんが穏やかな声で、子供心を掴む粋な提案をしてくれた。


「ほんとー!? しゃんしぇとカイトのも してくれりゅー?」


 私がはしゃいで聞くと、目元は眼鏡で見えないけど、クロウさんが優しく微笑んでくれたような雰囲気を感じる。


「ええ、もちろん。……その前にお腹空かれてませんか? ご飯にしましょう」


 クロウさんに(うなが)され、カイトと共に部屋を出ると、サンセも部屋から出てきた所だった。


(そりゃ食べてないからお腹空くよね。サンセは少しでもちゃんと寝れたのかな?)


 そう思ってサンセを見ると、視線を逸らされた。


(ん?……あ、寝起きの顔ジロジロ見られたらヤダよね)


 そう深く気にする事なく階段を慎重に降りようとすると、不意にふわっと身体を持ち上げられた――


「わぁ!」

「……危ないから……」


 そう言ってカイトが抱っこする形で階段を一緒に降りてくれる。


「ありがと――っ!?」


 カイトにお礼を言って、後ろにいるサンセが視界に入ると、怖い顔でこっちを見ていた。


(サンセ!? 何!? どうしたの!?)


 私と目が合うと、サンセはまたすぐ逸らした。


(うーん……サンセとはカイトと比べてお喋り出来てる方だと思ってたけど……なんか、まだ壁がある感じ? これからここで一緒に過ごすんだし、少しでも仲良くなれるよう努力しよう! 気まずいのヤダもんね!)



――下に降りて座って待っていると、クロウさんが運んできた食事は――


「やきいも!」


 テンションが上がった私を見て、クロウさんはふふっと微笑む――


「……いろいろ用意したかったんですけど……この隠れ住む暮らしでろくに買い物も行けず……」


 クロウさんが申し訳なさそうに俯く――


「きにちないで!“ごはん”くれりゅだけでも ありがとー!」


 私はクロウさんに向かって笑顔でお礼を言い、アツアツホクホクの美味しい焼き芋をみんなで堪能した――


「ごちそうさま。……話、もっと詳しく聞いていい?」


 食べ終わると、サンセがクロウさんに問いかけを始めた――


「僕ら、過去にマカダミアの森までしか来たことないから詳しくないんだけど、研究者達に狙われてるって……森にあるマカダミア研究所で合ってる? それとも、他にもあるの?」


「……森にある研究所で合ってます。……研究所は僕もそこしか知りません。他はあっても機械製品を作る工場のような施設が(ほとん)どかと……」

「なるほど、ありがとう」


(ん? 研究所の人?……あ!)


「ねー?“くっくっくのひと”しってりゅー?」

「っ! ()()()に会ったの!?」


 クロウさんが私を見ながら驚きの声を上げて立ち上がった。


「あ、かくれてたから だいじょーぶ!“くっくっくのひと”は“けーりゅ”って おなまえなんだぁー?」

「……はい」


 クロウさんは安堵の溜息を吐くと、足の力が抜けたようにドサリとソファーに座り込んだ――


 サンセ達にはそこまで詳しく話してないから、サンセから“聞いてない”と言いたげな視線を感じる。


(う……視線が痛い!)


「……もしかして、任務で見掛けた“ふたりの研究者”のどっちかかな?……その()()()って人の特徴教えてくれる?」


(ふたりの研究者? 何それ! サンセだって私に話してくれてない事あるのにー)


 私はさっきのお返しのように頬を膨らませて冗談っぽく睨むと、サンセは「ごめんごめん」と私を(なだ)めた――


 そんなやり取りを繰り広げる間も、クロウさんから一向に返事がない――

 不思議に思って視線を移すと、クロウさんは俯き黙り込んでいる――


「くりょーしゃん?」

「あ……す、すみません……ケールの特徴は……緑の髪に……眼鏡をかけてます……」


(ラビくんに聞いた通り!)


「やっぱり任務の時にいた奴だ……もしかして、もうひとりもわかる? 黒い長い髪の奴なんだけど……」

「っ……おそらく……()()()の事かと……」


 クロウさんは唇を噛み締め、声を何とか絞り出す様子が(つら)そうで痛々しい――


「もしかして、クロウを狙ってるのってその連中?」

「…………はい」

 

 クロウさんが(つら)そうだったのは、命を狙う人の話だったからだとわかって、私まで心苦しくなる――

 こんなクロウさんを見たら、きっとサンセ達の中でも疑いは晴れただろう――


「……嫌な事思い出させてごめん。……最後に、これだけ聞かせて?」

(サンセー、謝るなら今はクロウさんを休ませてあげてよ……)


「今朝、あんな早くに何してたの?」

「あ……種を貰いに行ってました」

「……種?」


 サンセは予想外の答えだったのか聞き返す。


「……人目につく時間出歩けず、人気のない早朝にお腹が空いてうろうろして困っていたら、おじいさんが僕を見つけてご馳走してくれて……。それ以来、たまに顔を出してはご馳走になったり、種をもらったりしてます……」


 そのおじいさんの事が大好きなのだろうと伝わってくる程、穏やかな優しい声で話すクロウさんが微笑ましくて笑顔になる――


「くりょーしゃん よかったねー」

「……うん……あ、約束通りネックレスにしてあげるね」

「でも……だいじょーぶ?」

「うん……大丈夫……心配ありがとう」


 そう言ってクロウさんに優しく頭を撫でられてドキッとした――


(わぁ……今、話し方も敬語じゃなく優しい口調だった! 子供の私に合わせてくれたのかな?)


「材料取ってくるね」と、自室へと向かうクロウさんを目で追いつつ未だドキドキするのは、多分私が男の人に慣れてないからだ――




このドキドキはメティーに恋の予感!?

次回、メティーの王子様現る!?


※第21話のおまけ会話は、第23話の“出発準備の会話に加わる”の辺りだったりします(カイトが21話内で既に手首に巻いてるので、いつ巻いたって謎を解く為に先に載せました)

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