第26話 旅立ちの惨劇②
※残虐描写を含みます。苦手な方はご注意下さい!
サンセは、異形化を続ける棒立ち状態の異形生物の背後へ素早く回り込み、高く飛び上がった――
(こんなデカブツを気を失わせるなんて無謀すぎ……でしょ!)
サンセの鞘による強力な打撃攻撃が、異形生物の脳天にボコッと鈍い音を立てて直撃した――
しかし、異形生物はまるで小石が当たったかのように無反応で、サンセは苦い笑みを浮かべる。
(ほら、やっぱり……)
「……助けたいのなら、殺す事が救いだと思うよ?」
サンセはメティーをチラリと見て低い声で告げ、メティーはビクッと反応する。
「っ……まって! もうしゅこしだけ……」
メティーは他にもやるべき事があったか、ラビの父親の時の事を必死に思い返す――
(あの時より異形化が早いせい!? しーちゃんはどうしてたっけ……)
『――普通は異形化したらそのままだからな――』
『――ここまで元に戻れるなんて奇跡だ――』
狼獣人ロウの、あの時言っていた言葉がメティーの頭に響く――
(……奇跡?――っ!)
メティーはそこで思い出す――シアの青く光る瞳を――
(しーちゃんの目、光って見えて綺麗だと思ったけど……あの時何かしてたの?)
そう思うと、メティーは他にも気になる点を思い出した――
(治す時も私の肩に手を置いて応援してくれてるとは思ったけど……ほんとに力が湧くような感覚だったし……やっぱり、何かしてくれてたのかも……)
メティーがそう気付いても、シアは今この場にいない――
(しーちゃんがいないと助けられないなんて……私……役立たずだ――)
役に立てない悔しさで、メティーの頬をぽろぽろと涙が伝う――
一方サンセは、異形生物を傷つけないように注意を引きつけていたが、打撃に全く手応えがない以上、サンセの方が分が悪いのは明らかだった――
「メティー! もういいで――っ……」
サンセは辛抱ならず声をあげ、メティーへ視線を移すと、メティーの泣き顔を見てプツリと何かが切れた――
「……もういいでしょ? カイト、メティーを連れて先に行って」
「っ!」
サンセの問答無用な低い声にメティーは言い返す事も出来ず、カイトの肩につかまる手に力がこもる――
カイトは、メティーへと振り向きどうすればいいか黙り込む。
「カイト! 早く!」
「…………わかった(メティー……ごめん)」
サンセに急かされ、カイトは小声でメティーに謝ってマカダミアの街へ向けて走り出す――
異形生物が、カイトを捕まえるように動き出した。サンセは荷物を下に置き、それを追うように走りながら剣を抜く。
(前から悪趣味だとは思っていたけど……メティーにあんな顔をさせて……研究者達をますます許せない)
サンセは暗いオレンジ色の瞳で異形生物を睨みつけた――
動きが普段より一段と速くなったサンセは、カイトを捕まえようと伸ばした異形生物の右前足を瞬時に切り落とした――
血飛沫が上がり、異形生物はグルルルルと唸り声を上げサンセを睨む――
「……お前の相手は僕だよ?」
(殺気を放ち嗤う……醜い僕をメティーに見られたくない……)
異形生物はサンセを左前足で踏み潰そうとするも、サンセは高く飛び上がって躱し、そのまま異形生物の首を切り落とす――
さっきと比べものにならないほどの血飛沫がサンセに降り掛かり、異形生物はドーンと大きな音を立て倒れた。
(ビターごめんね……せっかく僕の異変に気付いて、メティーのそばにと言ってくれたのに……。僕はメティーを利用する者も許せないけど、悲しませる者も許せない……。そして……こんな僕自身も許せない……。メティーのそばに“醜い僕”は相応しくない……)
――サンセは剣を鞘に収めて腰の装着具へと戻し、下に置いた荷物の元へと歩き出す――
すると、殺気と攻撃の気配を感じ、サンセは咄嗟に躱すも左腕を掠め血が流れる――
「っ!」
サンセは左腕を押さえ、殺気を放ち振り返ると、攻撃の主は倒したはずの異形生物だった――
切り落とした首も、右前足も再生し、動きが速くなったサンセですら避けきれなかったという事は、動きも速くなっている――
(マカダミアの研究技術が更に上がったって事か……)
「……本当に、どこまでも醜い化け物にされてしまったんだね……こんなおぞましいモノを見たらメティーが悲しむ……お前には罪はないけど、せめて楽にしてあげる……」
サンセは冷酷な殺気と共に左右の腰にある剣を抜き、構えた――
異形生物がすごい勢いでサンセに向かっていき、サンセは間合いに入ったのを見計らい、高く飛び上がる――
「……速剣乱舞」
サンセは、目にも止まらぬ速さで異形生物を切り刻む――
サンセの着地と同時に、異形生物は血飛沫をあげ千々の肉片へと飛び散った。
「……ここまで粉々なら、さすがに再生しないでしょ」
サンセは千々の肉片を冷ややかに見つめて呟くと、サンセの瞳が普段の薄いオレンジ色へと戻っていく――
(出発早々、ほぼ僕の血じゃないとはいえ血塗れなんてね……)
サンセは剣を鞘におさめ、置いた荷物を拾いあげ、先に行ったカイト達の元へ走り出した――
「へぇ……ピンク頭やるじゃん」
姿を消して木の上からサンセの戦う様を見ていたアビスが楽しげにニヤリと笑う。
肉片は光に変わり、天へ登るように逝った――
それでも、まだ残された肉片があった。
残った千々の肉片は、不気味に震えてひとつの塊へと纏まる――
「……おぞましいモノか……ピンク頭のヤツ、的を射た事言ってくれるじゃんか」
アビスは姿を現して木の上から飛び立ち、塊のそばに降り立つ。
その塊は、メティー達が向かった方向へ地面を這いずるようにゆっくり動き出した――
殺気立ったアビスがその塊を容赦なく踏み潰す。
「……ほんとおぞましいね。僕らはこんな状態でもまだ生きてて再生するんだからさ……」
アビスは塊を魔力で作りだした黒い半透明な球体の中へ捕獲し、拾い上げて冷たく睨みつける――
「本能的に察したみたいだけど……お前がメティーのそばに近付けると思うな」
アビスは球体の中へ魔力を流すと、塊は再び千々の肉片となり弾け飛ぶ――
「……あ、ついいつも通り壊しちゃった。またヒョロ黒が煩いかな……面倒くさー」
アビスは怠そうに黒い靄を出すと、その中へと姿を消した――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――空が少しずつ明るくなってきた頃、マカダミアの街が遠くに見えてきた。
すると、前方からメティーが必死にサンセの方へ走ってきた。
ここなら人はいないだろうが、まだカイトの背に隠れていてほしかった。
(こんな血に汚れた僕を見せたくなかった……)
「しゃんしぇ! “ち”が!」
「ほぼ僕の血じゃないから大丈夫……汚れちゃうから近付かないで」
メティーが僕を見て泣きながら触れようとするのを止めるも、メティーは僕の足元にしがみついた。
「メティー! 血がついちゃうってば――っ!?」
メティーを引き剥がそうとしたら、メティーの身体がぼんやり光り、その光は僕をも包んでいく――
優しい暖かさに包まれ、さっき奥底へとしまい込んだ“醜い僕”をも消し去ろうとするどこまでも優しいぬくもり――
でも、醜い僕を消されたらメティーを守れない……メティーを守るためなら醜く汚れようとも構わない――
――光がおさまると、怪我した左腕は治り、汚れた服も綺麗になっていた。
(これが、癒しの力と願いの力……)
唖然と佇む僕を見て「しゃんしぇ……よかった」と泣きながら微笑むメティーは、穢れた僕にはとても眩しすぎた――
次回、マカダミアの街へ到着したメティー達を待ち受けるものは!?




