第22話 誓いの旅立ち①
――カイトの話を聞き終わり、メティーはメシスくんが話した内容に納得して項垂れる。
(前に、慣れればって言われてたのに、無謀な事してみんなに迷惑かけるとか……最悪だ……)
あの時、しーちゃんと暮らした岩穴が消えるなんて有り得なすぎて、混乱して取り乱していた……と思う。
(……正直、取り乱しすぎてどうやって精霊さんモドキを呼んだのか覚えてないんだよなぁ……)
ただ、時々夢の中に出てくる女の子が私の記憶を消すみたいに、しーちゃんと過ごした時間が消されてしまったみたいで……怖くて怖くて……必死だった――
「メティー!」
「……え?」
慌てたようなカイトの声に返事をすると、自分の身体が震えている事に気付く。
(あ……あの時の事考えてたから?)
――震えてる自覚もないとか……精神ダメージが思ってる以上にひどい――それは当然か……家族同然だった存在が突然いなくなっちゃったんだから――
「…………大丈夫?」
カイトは挙動不審に視線をさまよわせ、躊躇いがちに私の頭をぎこちなく撫でた。
(カイト……こういう事慣れてなさそうなのに……心配してくれてるんだね……優しいなぁ)
――人のぬくもりって不思議……触れられた所が温かくなって、なんだか安心する――安心するのに……泣きたくなるような……この気持ち、前にもどこかで?――
「――メティーちゃーーん!」
「ほぇ?」
思い出しかけた何かは、突然ノックもなしにドアを開けた間の抜けた声の人物によって、遠くへ追いやられてしまった。
(だ、誰? 思わず私までマヌケな声で返事しちゃったよ……)
ドアの方を見ると金髪イケメンが満面の笑みで元気に手を振っていた。
「会いに来たよーん!」
(よ、よーん!?……え、え!? キャラ濃い人キター! こ、こんな時こそ冷静に観察を……)
――どことなくビターさんに似てる? 瞳の色も同じだし……あ、モカさんが言ってたグレイさん? つまり、ビターさんのお父さん!? え!? 若っ! ビターさんのお兄さんって言われても信じちゃうよ!? あ! じゃあ、グレイさんは王族で、おじいちゃんで――
何とか冷静に考えようとしたものの――モカさんの時の再来ともいえる情報量が一気に押し寄せ――早くも私の頭の中は混乱でパンク状態になり、ベッドに倒れ込む。
(モカさんに続いてグレイさんも恐るべし……)
それを見てグレイさんが「メティーちゃん!?」と心配してベッド脇に駆け寄ると――後ろからサンセが「ブライ様……じゃなくて、グレイさんは一旦離れててくれますか……」と呆れた溜息と共に促し、私とグレイさんの間に割り込んだ。
「えー! なんでさー! せっかく会えたのにー」
「初めて会うメティーには、色々としんどいかと……ボソッ(僕でも時々めんどくさいのに……)」
(え!? サ、サンセ!? 私にはしっかり聞こえちゃったんだけど……てか、サンセなんかキャラ変わってない!?)
サンセは唖然とした私と目が合うと、自身の口元に人差し指を当てて微笑み、私は思わず苦笑いする。
(ないしょって?……言われなくてもそんな事口が裂けても言えないから安心して……)
「しんどいって……そんな言い方酷いじゃないかぁー」と頬を膨らませて拗ねるグレイさんを、サンセは深い溜息と共にドア付近まで押しやる。
というか、サンセ大丈夫なの? 仮にも王族のグレイさんにあんな態度取るなんて……あ、ビターさんと仲良しだから自然とグレイさんとも小さい頃から交流があったのかな?……そっか、グレイさんあれでも王族なのか……あんな王様で大丈夫だったの!?
私の思考の方がサンセより酷いと思えてきて、頭を振って思考を止めたものの、未だ混乱で呆けていると――私の思考が伝わったかのタイミングで、ベッド脇にいたカイトがボソッと呟く。
「……あれでも……真面目な時は……真面目……」
「え!?」
(真面目な時があるの!?)
「……あと……怒ると怖い……」
「う、うん?」
(怖いの!?……想像つかないな……)
カイトがいつも通りのマイペースでグレイさんの新たなプチ情報をくれて、私は更に色々と混乱するのだった――
――数分後――やっと落ち着いてサンセが持って来てくれた、お子様にも程よい温かさのシチューを美味しく頬張る。
「――カイトに聞いた?」
「……うん」
サンセの問い掛けにスープをゴクリと飲み込んで返事すると、サンセは真剣な顔付きへと変わった。
「……魔力を使い果たしたって事らしいけど……何があったのか聞いても?」
サンセのあまりの真剣さは怖く感じる程だ。
(しーちゃんの話の時といい、急に怖くなったりするのはなんで? お子ちゃまに向ける顔じゃないって! 私じゃなきゃ怖くて泣いてるんじゃ!?)
そんな思考をしつつも、私ですらよく分かってない事――なんせ、精霊さんモドキなんて言ってるくらいだし、どう説明したらいいのかと黙り込む。
「ほら~サンセ! メティーちゃん怖がってるでしょ! メティーちゃん? サンセはこれでも単にすっごく心配してるだけなんだから……なんせ、メティーちゃんはサンセの初こ――」
「ちょっ! グレイ様いきなり何言い出すんですか!?」
重く静まった空間にグレイさんの明るい声が響き、更に続く言葉をサンセは慌てて遮るように声を上げた。動揺しているのか、呼び方がブライ様とグレイさんがごっちゃになってしまっている。
ふたりは私に聞こえないように後ろを向いてコソコソと言い合いを始めた。
(……グレイさん、シリアスなムードになりかけたものをことごとく破壊していく人だなぁ。でも、サンセは心配してくれてたんだ……。初こ? ってなんだろう?)
――今のうちにカイトにコッソリ聞いてみようと話しかけようとした時だった――
「……メティー? さっきのは気にしないで?」
背後から聞こえたサンセの声に振り返ると――サンセの爽やかな笑顔と裏腹に寒気を感じるのは気のせいだろうか……。
(笑顔なのに怖いって!)
「う、うん……わたち、きにしないよー?」
こんな時こそとばかりに、子供らしく振舞って誤魔化す。
私のサンセに対する印象が変わった。
初めて会った時――私の追手を殺したサンセは、逃げ出したいくらいほんとに怖かった。
でも、その後のサンセは爽やかで優しい……まさに騎士様という好青年。
再び再会した時は――ビターさんやカイトがいたのもあるかもしれないけど、優しいお兄ちゃん的な砕けた印象だった――けど、時折初対面の時とは違う怖さのブラックサンセが降臨するというか――とにかく、私はサンセを怒らせないようにと固く誓うのだった――
――その後、みんなに魔力を使い果たした時の事をわかる範囲でそのまま説明したわけだけど――
「……風の精霊モドキ……。メシア様にそんな力があるなんて初めて知ったよ……」
グレイさんが真面目な声のトーンで考え込む。
(あのー? 誰ですか? って言いたいくらいにさっきと別人なんですが!? カイトが言ってた真面目な時もあるって……これ!?)
グレイさんの豹変に戸惑わずにはいられない。
(真面目な方がいいはずなのに、若干イラッとしちゃうのは、さっきのテンションを知ってるからなの!?)
――私は絶賛混乱中である……。
サンセはそんな私に気付いて、まるで『疲れるだろうけど慣れて』と言ってるが如く、諦めのような呆れた苦い笑みを浮かべた。
「……当然僕も初めて知りましたけど……グレイさんの言うそれは【伝記】にも書かれてないって事ですよね?」
サンセがそう気を取り直してグレイさんに問い掛けると、グレイさんは驚いたように目を見開いた。
「……ああ、ビターが少し話したと言っていたか……。そうだね……【伝記】にも書かれていない。そもそも、初代の王が見たものだけが記されている訳だから……」
「つまり、初代王も知らなかったと?」
「……だろうね」
グレイさんとサンセのやり取りの後、シリアスな空気で静まり返り、私は内心話しちゃダメな事だったのかとビクビクしながら俯く事しか出来なかった。
変に目があって更なる追求が来ても、何もわからない私には答える事が出来ないから――
すると、優しく頭を撫でられた――
「メティーちゃん、記憶を失っている事もビターから聞いているよ? メティーちゃんがわからない事を無理に聞き出そうとしないから……怯えさせちゃってごめんね」
「……グレイしゃんのそばは、なんだか……あんしんしゅる……」
グレイさんの優しい声と優しい手に思わずそう呟いていた。
例えるなら、まるで、この世界でのお父さんのような安心感……そんな感じ――
「えぇー! 嬉しいなぁ! ちょっとふたり共! 今の聞いたかい!?」
(あ、やば……またグレイさんのテンションが……)
はしゃぐグレイさんを見てやってしまった感が漂う。
温度の上がるグレイさんとは反対に、場の空気は下がった気が――
「きっと安心するのは私が【神の加護持ち】だからかもしれないね。絆とでもいうかな?」
尚も、ウキウキと弾む声で話すグレイさん。語尾に音符マークが付いてるんじゃないかってぐらいのはしゃぎようである……。
(神の加護持ち? ああ、神が加護を授けたから?……いや、それよりも、サンセがこのグレイさんのテンションにイラッとしてるのがわかってそれ所じゃない感……うっ……私の発言のせいだから何とかしないと……)
「しょ、しょれなら、しゃんしぇたちに なでなでちてもらったときも あんしんなのー」
(ちゃんと笑って! 私の表情筋! この場を乗り切るのよ!)
内心、苦笑いしか出ない状況だから笑顔が引きつっていないかと、ハラハラと生きた心地がしない。言っている事はちゃんと本心だから信じて欲しい。
――そう、人のぬくもりに安心する――何か思い出せそうで思い出せないのは、やっぱり夢に出てきたあの子のせい?――
――シルコトハ アナタノ ノゾミジャナイ――
ふと過ぎった夢の中のあの子に言われた言葉と、ズキンと痛む頭痛を最後に――私は意識を手放した――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――見渡す限り真っ白な場所――ここは言うならばメティーの精神世界のようなもの――そこに意識なく横たわるメティーのそばに、ふたつの人影が現れた。
「アナタガ ノゾンダノニ……コノコハ ドウシテモシリタイミタイネ?」
「……っ……」
メティーの夢に現れていた、顔が黒い靄で見えないボブカットの黒髪の女が、感情のない声で囁いた横に――その瓜ふたつの姿で佇み、黒い布で目元を隠した女が唇を悔しげに噛み締める。
黒い靄で顔の見えない女は、まるでその状況を嘲笑うような息をフッと吐いて――メティーの精神世界に溶け込むように姿を消した。
目隠しの女は、メティーの傍らに佇む――
「……どうしたらいいの?」
ポツリと発せられたその声は、同じ声でもちゃんと感情がある声だった――
【次回予告&補足】
次回こそ題通り旅立ちたいけど……カオス展開ほぼ回避不能案件!?
最後のシーンは三人称視点じゃないと書けない部分の為、メティーの精神世界と言えども意識のないメティーには知ることが出来ない内容です。読者様特権の色んな視点から見せれたらと……。わかりにくかったらごめんなさい!




