【番外編】カイト②
――ビター達と初めて出会ってから、僕の日常は大きく変わった。
孤児院の時にしても、城に迎え入れてくれた時にしても――
僕はどこに居ても気味悪がられるだけだと思ってた。あの人だってそれで怒ったし、孤児院の子達だって遠巻きにジロジロ見るだけになったから――僕のせいでそうさせてしまってるのはわかっていた。
でも、どう接していいか僕にはわからなくて……その距離が縮まる事はなかった……。
だけど、ビター達だけは違う。こんな僕に愛想つかす事なく会いに来てくれて、笑いかけてくれた。
ビターの笑顔は、まるで僕に居場所をくれるようで……僕はここに居ていいんだと思わせてくれる。
僕はあの人にも、そんな風に笑って欲しかったんだと思う。
でも、あの人は僕と居ても怒ってばかりだから――ビター達に初めて出会ったあの日、僕が貧民街の家に居ない方がいいと思って孤児院へ行ったのは……そうすれば、あの人は昔のように笑えると思ったから――あの人は……今頃笑えてるかな?――
――ビターとキールに連れられ城に着くと、すごい事だったんだとやっと実感した。
だって、いきなり『城に住む』『クルスナー家の養子になった』と言われても、当時の幼い僕はわかるはずもない。
城ですれ違う人達が『ビター様』『キール様』と呼んで挨拶してくるのを見て、思わず僕は「……様?」と首を傾げて呟いた(そういえば、キールはいつもビターの事をビター様って呼んでたっけ……?)
ビターとキールはピタリと歩む足を止め、お互い顔を見合わせ、言いにくそうな苦笑いを浮かべつつ口を開く。
「あ……そーいや、まだカイトにちゃんと言ってなかったか? 俺の本当の名前はビターズ・チョコランタ……この国の第1王子だったりする……」
「……私は王族近衛騎士という……えっと……簡単にいえば、城の兵士達の中で1番強い集団があるんだけど……私はその中でも『最強の騎士』……なんて言われてたりするかな……」
ふたり揃って笑って誤魔化そうとしているけど、僕は言葉を失い黙った(それはいつもだけど……)
「これにも無表情で驚かないとか……さすがカイトだな!」と、ビターがケラケラ笑う。
これでも内心ちゃんと驚いてはいるんだけど……。
貧民街に王子がいると思わないし、王の許可とか王と聞こえた時も、僕を引き取ると言われた時点で混乱してそれ所じゃなかっただけだ。
「……今度から……ビター様……キール様……って呼ぶ……」
「ちょ! 今まで通りビターでいいって! 俺ら友達なんだし!」
「……とも……だち……?」
「あんなに一緒に遊んだんだぞ? 友達に決まってるだろ」
「私の事もキールで。引き取って親子……とはならなくても、実の兄のように思ってくれたら嬉しい」
そう言ってビターはニッコリ笑い、キールは優しく微笑んだ。
ビターの当たり前のような笑顔に、僕はまた救われた。友達と兄さんがいっぺんに出来たと思うと自然と口元が少し緩んだ気がした――
――城で暮らして数日経っても、まだ落ち着かない日々を送っていた。
キールと過ごす部屋は、貧民街の家や孤児院の部屋より広いし、城の部屋というだけあって……キラキラ輝いて見える。
――だから落ち着かない気分なのかな?
そんな僕を見かねてキールは改めて説明してくれた。
「一応カイトも形式上は貴族になったわけだけど……俺は親の反対押し切って城の兵士見習いになったから……」
キールは僕といる時だけ素で話してくれる(ビターや他の兵士の前では敬語で、自分の事も私って言ってるけど……ビターはたぶん知ってると思う)
「それ以来貴族らしい事……パーティーとかそういうの一切出てないし……だから、カイトも普通に……楽にしてていい」
キールは自分の過去を言いにくそうに語って苦笑いを浮かべ、僕の肩に優しく触れた。
その時身体が軽くなって、初めて僕の身体が力が入っていたとわかる。
――そんなキールの思いと裏腹に王様は、僕とビターとキールを集めて、僕の茶会デビューをどうするか尋ねた。
「そもそも俺家出てるからもう貴族じゃないんじゃ?」
キールは僕ですら内心ハラハラする言葉使いで不貞腐れ気味にブライ様に返事をした。
ブライ様とキールの関係は、僕とキールの関係に似てるのかもしれない。
「親から見たら子供はいつまで経っても子供なんだよ。だから今でもクルスナー家の一員と思ってるし、キールのこと今でもきっと心配してるさ……カイトのこと紹介したらどうだい?」
「……カイトも剣術や武術が好きだから、親には正直会わせたくない……です」
キールはブライ様の言葉に負けじと反論して、思い出したように敬語にした。
キールは自分の過去を思い出して、僕の進む道が反対されるのを心配してくれてるのに、僕の頭の中はブライ様の言葉がぐるぐると回っていた。
――あの人は……今でも僕を心配して……家族だと思ってくれてるんだろうか?――
「――カイトもいきなり茶会は緊張するから、今度バトスが遊びに来るし、少しずつ慣らせば?」
ビターの声にハッと我に返ると、僕の方を心配そうに見つめるビターと目が合った。
――もしかして、あの人の事を思い出してたから顔に出てた?――
無表情な僕の僅かな変化に気付くのはビターぐらいで、この集まりがお開きになるようにしてくれたんだと気付き――その後、ビターの計らい通り茶会デビューは引き延ばしになった。
――数日後、サンセとバトスが城に訪れた。
サンセが茶会での接し方を実演してくれたのを見て、僕にはたくさんの人とにこやかに話すなんて無理だと黙って首を振り――僕は茶会の警備をするキールの手伝いをする事に丸く収まった。
――バトスともその時初めて会ったわけだけど……印象はひとことで言うなら――苦手。とにかく、しつこくて騒がしい……。
だけど、それは僕の為の偽りのない優しさだった。
――最初はビターに言われて仕方なく仲良くしてくれてると思ってた。
でも、バトスはいつも底抜けに明るくて、ニコニコ楽しげに笑った顔は嫌々接してるわけじゃないって僕でもわかる程眩しくて……。
ビターとサンセが仲良くしてる人だから、良い人なのはわかってるつもりだ。
ただ、僕と正反対で……どう接したらいいかわからないから苦手なだけで……嫌いなわけじゃない。
――それから約4年の月日が流れ、僕が14歳になって正式に兵士見習いになり、2年間見習いとして訓練を受ける――と言っても、今までと対して変わった生活じゃない。
兵士見習いになれるのが14歳からってだけで、ずっとキールに鍛えられてたから(剣術、武術はもちろん、気に関する事……気配の消し方や、殺気の放ち方とかも教わった)
気に関してはキールにとって予想外だったみたいだ。僕に教えるにはまだ早いと言いつつ、それとなく口にした曖昧な擬音語だらけな説明にも関わらず、僕は出来てしまったから。
「……驚いた。これは最年少王族近衛騎士になるかもな」と、キールが唖然とそう呟いた後、優しく笑って頭を撫でられて――嬉しいような、なんだか照れ臭くてくすぐったいような……不思議な気分だった――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――カイトが16歳になる頃――今日は訓練場にて、とある催しがある。
それは、兵士達の実技試験。実力の見合わない者に命の危険がある仕事をさせれないから、それを見極める為だ。
ビターはその応援がてらこっそりフードを被り見に来ていた。
王族用の観戦場所も用意されてるけど、ジロジロ見られるだけと分かっている所に行きたくない(後で少し顔は出しに行かないとだが、ずっとそこに居る必要もないだろ)
単なる試験にコソコソ見物する理由?
試験は毎年恒例の……兵士達にとって祭り的な盛り上がりを見せ、最近になって普段城に入れないような平民達にも公開されるようになった(祭りが少ないから、これだけ盛り上がるのならと親父が民を招く事にしたのだろう)
だから、兵士の家族はもちろん、娯楽のように兵士の戦いぶりに歓声をあげ楽しむ者達もいれば、良縁を求めて令嬢を持つ家族まで見物に来る程だ。
試験結果によって昇級や降格、将来の結婚相手が見つかるかも掛かっているから、兵士は皆自然と気合いが入っている。
サンセは勉学と両立していたが為に、一昨年は兵士、去年は衛兵止まりだったから、今年こそはと思っているだろう。
バトスは去年初試験だったけど、父親が王族近衛騎士故の期待のプレッシャーもあったんだろう……実力を出し切れず衛兵止まりだった。
冷静さを失い脳筋バカ丸出しだったからな……今年は冷静に戦ってくれと思いながら、緊張感なくヘラヘラ笑ってるバトスに思わず苦笑いが浮かぶ。
カイトは――相変わらず無表情でぼんやりしていて、初試験での緊張は感じられない。
俺の視線に気付いたカイトがこれだけ大勢の人が居るにも関わらず、迷う事無く俺だけを認識し、真っ直ぐ見てきた(さすがだな……これは期待して良さそうだ)
――試験が始まり、俺の予想通りカイトは圧倒的強さだった。
まず見習い同士で戦い、勝ったものは現役兵士、次に衛兵と戦うという具合に順序があるのだが――カイトは見習いはもちろん、兵士や衛兵を瞬殺……と言うのは言葉の綾で、本当に殺した訳じゃない(使用するのは木刀だから当然だ。でも本物の剣ならば間違いなく瞬殺だろう)
だから、異例の現役王族近衛騎士が相手をしたけど、互角……というよりカイトが優勢にも見えるほどで、文句無しでキールに継ぐ久々の最年少の王族近衛騎士になった。
サンセやバトスも同様に他の兵士達を圧倒し、この年晴れて三馬鹿揃って王族近衛騎士になったのだった――
【おまけの会話~ビター&サンセ~】
ビター「ん?サンセはこの頃バカなフリしてたんだよな……って事は……まさか!」
サンセ「ふふっ……」
ビ「そのしてやったりな笑い!絶対試験手抜いたろ!?」
サ「さあ?なんの事かな?……ふふっ」
ビ「怪しい!絶対お前なら勉学と両立してようが最年少王族近衛騎士になれただろ!?」
サ「ふふっ……どうだろうね?」
――ビターを置いて歩き出すサンセ――
ビ「おいっ!」
サ「ボソッ(どうせなら始まりはみんな一緒のがいいでしょ?)」
ビ「ん?今なんて言った?」
サ「ふふっ……さあね?」
――おまけおわり――
次回サンセの手抜き疑惑のもうひとつの理由が明らかに!?




