【幕間】ビターの追憶~前編~
――ビターは昔から茶会等の集まりが苦手だった。
小さい頃の記憶で思い出されるのは、王子というだけで「娘と友達に……」と擦り寄ってくる大人達と、その大人の影からこちらを窺う年近い令嬢達の熱い視線だけで、心底早く部屋に戻りたいと思った嫌な記憶だけ。
――そういえば、サンセとバトスと初めて会ったのも茶会でだったな。でも、最初は挨拶を交わしただけの薄い印象しかない。大人達に囲まれた俺には近付き難かっただろうしな。
――俺が5歳になった頃の茶会で、それは突然周囲に公にされた――隣国アーモンド国の姫との婚約を――
俺自身にはもっと前から言われていたのかも知れないけど、今となってはよく覚えていない。
なんせ俺が産まれた年に、アーモンド国の王である叔父(母さんの兄)の王妃が姫を産んだから、俺と婚約させようと決まってたらしい(その発案者は母さんだ……)
婚約発表されたその茶会では囲まれる事もなく、むしろ平和でほっとした。
そのおかげで、サンセ達とじっくり話せるようになって、サンセが「……いいの?」と同情した哀しげな顔で言われたのを覚えている。
その気遣ってくれる存在の顔が映ったように俺は「……いいんだ」と哀しげな顔で微笑み返した。
正直、まだ婚約者に会ったこともないのに実感なんてなかった。両親が喜んでるならそれでいい程度の気持ちだった。
――その後、度々開かれた茶会では、サンセが令嬢達に囲まれる羽目になって申し訳なかった。
助けに行きたくとも貴族達の挨拶回りに捕まって、何とかサンセのそばに行けた時には、サンセはもう笑ってるようで笑ってないように感じた――まるで、初めて話しかけてくれた時のサンセが消えてしまったように――
――バトスに至っては今と変わらない。
感情の読み合いや、裏の意図まで考えないといけない貴族達とのやり取りは疲れる――でも、バトスは俺を王子として見ない存在で、馬鹿正直で一緒に居て楽だった。
王子だからでなく、ほんとに友と思ってくれていて嬉しかった(バトスには調子に乗るから伝えてないけどな)
――俺が6歳ぐらいの頃からは、サンセとバトスだけ招いて交流会を開いた(交流会と言っても、ただ一緒に遊ぶだけの会だ)
バトスみたいのがいれば、サンセも茶会でのストレスの息抜きになるかと思ってさ。でも、しばらくサンセは心ここに在らずな見せかけの笑顔の状態が続いていた。
――何回目かの交流会で、サンセは絵本を持ってきて読むようになった。絵本をキラキラした顔で微笑んで読む姿に、昔のサンセが戻ってきたと安心した。
見られていたと気付いたサンセは「な、なに?」とびっくりしつつも、恥ずかしさに戸惑ったちゃんと感情がある返事をした。
だから俺は「やっぱりサンセは、そのサンセじゃなくちゃ」と笑ったら、サンセはびっくりしつつも満面の笑顔で「へへっ」と嬉しそうに笑った。
――その後バトスの家で、サンセとバトスが剣術等の稽古をしてる事を聞いた。
実はバトスの親父が、当時の王族近衛騎士の内のひとりだったりする。だから、バトスの家は貴族と言えど、他の貴族に比べて勉学などに厳しいわけじゃなかった。
それで、サンセが頼み込んだのが稽古の始まりらしい。
その頃の俺は魔法の本格的訓練をよくしてて、一緒に稽古できなかったことが残念だった。だから、次の交流会からは当時の王族近衛騎士達に頼んで稽古をつけてもらうようになった。
――俺が7歳の頃、親父に城下街の視察に付いてくるか聞かれた。
まだ城下街に行ったことがなかった俺は、即座に行きたいと答え、サンセも城下街の店にいつも行きたそうにしてたから誘った。
――王族や貴族だとバレない普通の服に着替えて、親父と俺とサンセと衛兵の護衛ひとりを連れて城下街へと出掛けた。
「視察だから大人しくね?」と親父に念押しされたものの――初めての城下街に来て、サンセも前に1度行って以来だと言うから――大人しくなんて出来るわけない。
「探検だ!」とはしゃいで、きょろきょろして、うろうろして、走り回って……結果ふたり揃って迷子になった。
――迷い込んだのは、城下街の細い道を通って奥にずっと行った所にひっそりある、寂れた路地裏の貧民街。治安が悪い場所と聞いた事があった所だった。
城下街の賑わいは何処かへ消え、静まり返った通りに、突如、ガシャーンと何か割れるような音が響き渡った。俺とサンセは顔を見合わせ頷くと、音がした方に走った――
――その民家に駆けつけると、大人の男が割れた破片を拾って、俺と年近くの少年に斬り掛かっていく所だった。
サンセは走ってそのふたりの間に入り、その破片を持った男の腕を掴んだ。
「おじさん、こんな危ない物子供に向けちゃダメだよ?」とサンセはその男に向かって涼しい顔で言い放つ。
王族近衛騎士に稽古されてる成果なのか、何とか押さえ込んでる。
その隙に「お前大丈夫か?」と俺は振り返り、その子の顔を見た。
その子は黙ったまま、無表情で感情が読めなかった。目は光を宿してない……でもどこか寂しそうな目に感じた。
腕や足に古そうな痣が幾つもあり、状況から見てあの男はこの子の父親で……虐待か……。いきなり知らない奴等が来たのもあるけど、こんな状態じゃそもそも喋れないよな……。
「――っ! ビター!」とサンセが押さえるのが限界そうに叫んだ。
稽古してても、まだ子供だから力や体力が長く持つはずない。
「サンセどけっ!」
咄嗟にそう叫びサンセがどいたのを見計らって、両手を前にかざし、魔法の風を当てるイメージ……衝撃波だ!
少年の父親は吹き飛ばされ、後ろの壁にぶつかって、床にドサッと倒れ気絶した。
「やば……加減間違ったかな?」
焦って少年の父親の様子を見に行こうとすると――
「大丈夫でしょ、今の内に逃げよう!……君大丈夫? 僕らと一緒に逃げよう?」と、サンセが俺と無表情なその子に声をかけたその時だった――
「ビター! サンセ! 何してるんだい!?」
笑ってるけど笑ってない、それはそれは大層怒った親父がいて、当時の俺とサンセは怖くて固まってたな。
なんとか状況を説明すると――散らかった部屋と(半分俺の魔法のせいもあるけどそれは秘密だ)痣だらけの少年を見て親父もわかったのか――
「そうか……怖かったね……もう大丈夫だ」と親父はその子を抱きしめ頭を優しく撫でながら言葉を続ける。
「街外れに、私の知り合いのおじいさんおばあさんがやっている、孤児院があるんだ。そこなら君にこんな事する人はいないし、ご飯だってちゃんと食べれるよ」と親父はその子にニッコリ笑った。
その子は無表情のまま視線をさまよわせた。
困ってる? それとも、どうしていいか迷ってる?
「大丈夫! 俺もサンセもまたお前に会いにいく! ……それともここに居たいか?」
俺が不安げに聞くと、その子は無表情のまま首を振った。
それを見て安心した親父は「じゃあ行こう!」と、笑って強引にその子を抱っこして歩き出した。
無表情だったその子が、さすがに少し動揺してる。
「君、名前は?」と、サンセが声を掛けるも、長い沈黙でまだダメか……とその場の皆が思った時――
「……カイト……」と、ボソリと呟いた――それが、カイトとの出会いだった――
――カイトはその後しばらく孤児院で過ごし、4年の月日が経った頃、貴族として城へ住む事になるのだが――それはまた別の話――
お読み下さりありがとうございます!
修正前のビターの過去話とカイトの過去話の一部を混ぜてみました。
時系列順の方が分かりやすいかと思ったのと、元々ビター視点でカイトとの出会いを語っていたので自然かなと思いまして。
さすがにカイトの話を深堀すると、ビターの追憶じゃなくなるので『また別の話』って形で締めました。
察してくれたかはわかりませんが、カイトの【番外編】でその部分は載せるつもりです(このままカイトの続き載せないと、カイトが可哀想な子のままになってしまうので)
ひとまず、次回は8歳になり婚約者と初対面する所から始まる『ビターの追憶~後編~』です!(後編は恋愛と弟ティスとの関係に絞った内容となってますので、お楽しみに!)
その次、カイトの番外編を載せてから、いよいよ第2章スタートです!カイトのも前後編になってしまったらごめんなさい……頑張ってまとめる気ではいます!
カイトは主要登場キャラなので、番外編でもこちらの本編に載せようかと思ってます。
気まぐれ更新故の、今後の更新予定をお伝えした次第です。
後書きまで読んで下さりありがとうございます!




