第19話 進むべき路と居場所~魔力石を創ろう~
――サンセが目を隠していた手を下ろすと、薄いオレンジの瞳に戻っていた。
どうなってるのか仕組みはわからないけど、瞳の色で人が変わった風になってるのは確かだよね。
初めて会った日、さっきのサンセを見て怯えていた私に見せまいと、隠して元に戻ってくれたのかもしれない。
「――メティーは研究所のどこまで知ってるの?」
話し方も、声も普段の穏やかなサンセに戻ったけど、表情は真剣な中にどこか愁いを帯びた複雑そうな顔で尋ねられた。
「べりあんとに――」
「そっか……知ってるんだね」
異形生物達の事を思うと、やるせなくて辛くて悔しくて――そんな思いがまた顔に出ていたのか、私が全部言い終わる前にサンセが察したように優しく頭を撫でながら遮った。
「しゃんしぇは、なんでしってりゅのー?」
「……僕が研究所を知ってるのは、王族近衛騎士の任務で異形生物を討伐していたから」
「……まかだみあのこちょなのにー?」
「チョコランタの王族近衛騎士は、この周辺の国の中で最強だと言われてるからね。だから要請が来るんだ……王族近衛騎士を殺したいが為にね」
衝撃的な言葉に思考が一旦止まって、聞き間違えだったらどんなに良いかとサンセを見ると、その真剣な表情は紛れもない真実だと告げていた。
「……なんで?」
「チョコランタは昔から、何かとマカダミアに妬まれてるんだよ。魔法が使えるのも、チョコランタの王族の神の加護持ちだけだし、最強な王族近衛騎士までいる訳だしね」
まさに、チョコランタはチートな国って事? でも、神になって狙われているからこそわかる――優れた力は、望み欲される――王族近衛騎士が手に入らないなら、命すら奪って戦力を削ぎ落としたいって事?
そう思うとゾワッと悪寒が走る。
恐ろしい考え方だからというのもあるけど――人を実験素材のようにしか見てないクックックの人を知ってしまったから、もし私が捕まったらと思うと怖い――
「……マカダミアか……」
ずっと考え込んでいたビターさんが、私とサンセの話題に煩わしそうに呟き、また考え込む。
国同士の問題だから、王様のビターさんは大変のはず。ましてや、国内でも大臣が神を捕まえて王様の地位を狙っているって言うんだから――内も外も気にしなきゃいけないなんて……大変って言葉で簡単に済ませられる問題じゃないよね。
考え込んだビターさんの言葉を待つように視線が集まり、ビターさんは決意したように私達を見た――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……サンセとカイトにメティーの護衛を頼みたい」
ビターがそう伝えると、サンセは戸惑いの表情を見せた。
「え?……カイトだけじゃなく、僕も? 大臣の動向調査はどうするの?」
「ミスティーに頼む。サンセはメティーのそばがいいだろ?」
ミスティー・ランズベリー。サンセと同い年の王族近衛騎士の紅一点。
女でありながら王族近衛騎士になれる実力を持ち、変装技術を駆使した情報収集を得意とするミスティーなら、適任と言える仕事だ。
サンセの危うい目は危険すぎる。サンセに大臣の調査を頼み続ければ、サンセが憎しみに呑み込まれて、サンセでなくなってしまう気がする。
大事な昔馴染みのそんな姿を見たくない。メティーのそばなら、迂闊に危うい姿を晒せないだろうし、仮に晒してもすぐ元に戻ろうとする理性が働くはず――それを信じてメティーの護衛を頼むんだ――
そんな俺の思いを察したようにサンセが苦笑いを浮かべた。
「……ビターにはほんと敵わないな……」
サンセは俺のそばに長く仕えてたから、人の感情を読み取る洞察力や観察力に優れ、詳しく説明しなくても俺の言いたい事を察してくれる(それを3年前までバカなフリでしらを切ってたのは腹立たしいけどな!)
サンセは諦めに近い仕方なさげな微笑みを浮かべた。
「……わかった。それで?」
サンセがニヤリと笑い、話の続きを促す視線が、俺の言った意図を読み取っていると物語っていた(敵わないと思うのは俺も同感だ)
俺もニヤリと笑い返して話を切り出す。
「……メティー達には、マカダミアに行ってもらいたい」
「ふぇ?」
「……マカダミアも危険だと思うけど?」
「チョコランタよりはマシだろ? それに、他にも理由がある。親父曰く――ティスからの連絡が途絶えたらしい……」
「え!?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
サンセがビターさんの発言に驚きの声をあげ、カイトも無表情ながらも少し驚いてるのかビターさんを凝視している。
「てぃしゅしゃんー?」
新しい名前にメティーは思わず首を傾げつつ尋ねた。
「……まだ教えてなかったな。俺の弟の――ホワイティス・チョコランタ――3年前からマカダミアに留学してるんだ」
ビターさんの弟さん! つまりは王子様! チョコランタの王族がチョコランタを敵対視しているような国に留学!?
私は思わず「まかだみあに!? へーきなのー?」と声を上げてしまった。
「……安全での意味ならティスも魔法を使えて、護衛も付けずに行くくらい、マカダミア相手になら戦える方ではあるんだけどな……そんなティスから連絡が――」
「てぃしゅしゃん、しゃがしょー!」
ビターさんの発言を遮るように言うと、ビターさんは唖然として、サンセはクスリと笑った。
だって、ビターさんはさっきからティスさんの名前を出す度に、間が空いたり、浮かない顔をしてる。
ティスさんと何かあったとわかるけど、その声は弟を心配するお兄ちゃんの声だったから、ほっとけないもん!
「れんりゃくないって、おてがみー?」
「ああ、それは――」
ビターさんはそう言って、服の中に隠すように付けていたネックレスのチェーンを引っ張った。
すると、薄い緑色のビー玉サイズの球体が現れた。
「――これは【魔力石】と言って【魔法】で創り出した物だ。魔力を込める事によって、思い浮かべた魔力石の持ち主と、念話が出来る」
つまりは、声に出さずに話せるテレパシーみたいな事だよね!?
思わず「しゅごーい! べんりー!」と素直な感想を述べると、ビターさんは「そうでもないぞ?」と苦笑いを浮かべ、そうでもない理由を教えてくれた。
声に出さずに喋れる点では、聞かれたら不味い機密情報の連絡に向いてはいるけど――魔法で創り出し、魔力を込めて使う――つまりは神の加護持ちしか使えないから、便利なようで不便なのだと言う。
ビターさんの子供はまだ赤ちゃんだから、実質3人しか使えないんじゃ、確かに不便かも……。
「サンセ達が使えたら便利なんだけどな。親父との会話は、くだらない話で機密なんてないし――ティスとも、嫌われてて10年以上話していないのに連絡出来るはずもない――」
ティスさんとはそんな長い間仲が拗れちゃってるんだ――仲直りさせてあげたいな――と、浮かない顔のビターさんを見て思った。
ビターさんは、気まずい話題を変えるように「……そうだ! マカダミアに行くなら、メティーも魔力石を創らないか?」と切り出した。
「わたちも、ちゅくれりゅの!? ちゅくりたい!」
「神の力を使う時、魔力を感じるだろ? その魔力を形にするイメージで出来ると思う」
さっそく目を閉じて集中する。自分に神の力を使って回復した時、優しくて温かいぬくもりを感じた――それを、ビターさんに見せてもらった石の形にする――
掌の上に石が出来上がるイメージをすると、掌が優しいぬくもりに包まれたような感覚で温かくなってきた。
――みんなで連絡を取れる魔力石――
そう念じるように願うと、掌に何か乗った感覚がして、そっと目を開けると――白い色の魔力石が――3つ!? みんなでと思ったからなのか、サンセとカイトの分も出来てしまったらしい。
ビターさんは「魔力石は魔力が無いと、ただの石同然だぞ?」と呆れた顔をした後で「いや……神なら魔力のない者でも使える魔力石を創れるのか?」と興味が湧いたのか試す事になった。
――まずわかった事は、喋らなくていいからたどたどしさがなくなる事。そのせいで、私の中身が大人だとバレないように注意しないといけない。
そして――肝心の結果は、私と話す分にはふたりとも連絡出来たけど、サンセとカイトの間では連絡出来なかった。
ビターさんは、恐らく私の魔力を通さないと無理なのかもと推測した。
「――じゃあ……次は俺がメティーに送るぞ?」
ビターさんが魔力石に魔力を込めて念じると、魔力石が淡く光り――
『……メティー……聞こえるか?』
頭の中にビターさんの声が響いた。頭に直に響く感覚にびっくりして、こればっかりは慣れが必要かも。
『聞こえるよ!』
『……俺はな……ほんとはメティーを、帰るべき場所に帰したいと思ってるんだ……怒るか?』
そう言葉を送ってきたビターさんは、哀しげに微笑んだ。
――え? どういう事?――
『帰るべき場所?』と、ビターさんに尋ねると、ビターさんは魔力石を使わず「……聞こえたな――次はサンセとカイトにも届くか試すぞ?」と、話を切るように逸らされた。
――帰るべき場所って何だろう? 哀しげに微笑んだビターさんを見る限り、冗談で言ってるわけじゃないとはわかるけど――帰すって……私はここに居ちゃダメってこと?
現に、ティスさん探しと銘打ってはいるけど、マカダミアに逃げる事が本来の理由。それはわかりきってた事なのに――存在そのものを言われたような気がして、なんだか寂しかった――
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