第17話 新たな出会いと再会②
「サンセ、思ったより早かったな?」
「誰かさんが『メティーが崖から落ちたらしい』ってさっさと飛んでいくからでしょ?」
「俺なんか『……見張ってたら……落ちた』とだけ言われたんだぞ? それよりマシだろ?」
ビターさんとサンセが、仲良し故に文句を言い合えているんだとわかるやり取りを眺めつつ――サンセが言っていた『近いうちに誰かしら訪ねてくる』というのは、カイトの事だったんだと納得した。
それならカイトも先にそう言ってくれたら良かったのに……まぁ、短い時間ではあるけどカイトの人柄を見たらそれは無理そうか――と、ぼんやりふたりのやり取りを眺めているカイトを見てそう思っていたら、サンセに話しかけられた。
「……メティー、大丈夫だった?」
「かいとがたしゅけてくれて、どこもいたくないの!」
私が微笑んで伝えると、サンセがピクリと何かに反応して不機嫌そうになった。ビターさんはそんなサンセを見て口元に手を当てニヤついた笑みを隠した。
え? 私なんか不味い事言っちゃった?
オロオロとする私を他所に、サンセの不機嫌そうな視線はカイトへと移された。
「……カイト、守るべきお前がメティーを危険な目に合わせてどうするの?」
「まあまあ、今回メティーは幸い怪我なかったんだし……カイトも反省はしてるんだろ?」
サンセに続きビターさんがカイトのフォローをしつつ、さっきの会話内にあったわかりにくい報告で苦労したんだからなと言いたげな呆れた視線をカイトに送っている。
――カイトは数テンポ遅れて無表情のまま黙ってコクリと頷き、ビターさんとサンセは同時に深い溜息を吐いた。
――神々しいイケメン達を横目に、私はぼんやりとさっきのビターさんの言葉の【神】というワードの威力に俯き考え込む。
王様のビターさんに敬語を使われて、王様より偉い最高権力者なんだと改めて実感した。
今までしーちゃんとしか長く暮らしてなかったから、神だとわかったつもりで全然わかってなかった。
神としての知識だって、絵本で読んだ事しか知らない。メシスくんが『僕の事忘れちゃった?』と言うぐらいだから、覚えてないといけない事も忘れてしまっている現状なのに。
――転生して記憶喪失中のこんな私が神で本当にいいの?――
「――ティ? メティー?」
サンセが心配そうに私を覗き込んでいて、ハッと我に返った。
「ご、ごめんなしゃい……あ、えっと……」
咄嗟にまた敬語になってしまって、焦っていると――
「……メティー、変に気を使わず楽にしてくれていい」
そう言って、ビターさんは優しく微笑んだ。
今思えば、ビターさんも初めて会った時のサンセも、私が敬語を使われてアワアワと焦ってるのを見て言葉使いを変えてくれていた。その心配りに感謝しかない。
ほんとに神扱いは恐れ多くて、幼児扱いのが断然マシ!
そう思うって事は、本当に神としての実感も自覚も全然足りてないという事。神として振舞うには、記憶の抜け落ちた私はまだまだ未熟だと思い知る。
――すると、ノックの音がしてすぐドアが開き、モカさんが私が頼んだ飲み物を持ってきてくれた。
先に結論から言うと、モカさんはビターさんに部屋を出るよう言われた。何故なら、ビターさんは城に貴族を招いて催すパーティーの為に夕方には戻らないと行けないのに、モカさんのお喋りでかれこれ20分程本題に入れずにいる。
主なモカさんのお喋りの内容は、モカとグレイという名前が偽名だった事。
元国王夫妻という身分を隠す為の偽名だと説明されたけど、元王様が神父さんをしているとか――いろいろツッコミ所満載なおかしい……いや、変わった人達? うん、全然フォローになってないね……。
本名はマロンさんとブラインさんで、マロンさんは隣国のアーモンド国の王女様だったって言うんだから――ある意味、出会ってすぐに全部聞かされてたら、間違いなく情報量の多さに混乱して倒れていたかも……。
呼び方は偽名のモカさんとグレイさんでいいんだよね?
若干混乱しつつ、私なりに神の事で不安に悩んでた空気を一掃したモカさん……すごすぎる――ビターさんに背を押されモカさんが閉め出されるのを見ながら、私は苦笑いを浮かべた。
「はー……母さんがいろいろすまない」
ビターさんが溜息を吐いて、心底疲れて呆れたような表情で謝られた。ビターさんをも疲れさせるなんて、モカさん最強だなぁと思いながら気にしないでと首を振った。
――気を取り直して、ビターさんが本題を切り出した。
「今日俺が会いに来たのは、メティーが降りて来た日の事や、今までの事を教えて欲しいんだ」
「あかちゃんのこりょー?」
「赤ちゃん!? 今の姿じゃなく?」
ビターさんに驚いた様子で聞き返されて、何でそんなに驚くのかわからないけど、私が「うん」と頷くとビターさんは考えるように黙ってしまった。
なんかおかしいのかな? 他は何話せばいいんだろう?
さすがに転生してこの世界に来た事は信じてもらえないだろうから、迂闊に喋らない方がいい。
しーちゃんの事にしても勝手に話せない――むしろ、しーちゃんが私に話してくれた事が本当かどうかもわからなくなったままだし――それでも、ただ言えるのは、しーちゃんの事を信じてる。
しーちゃんが話してくれた事がもし嘘だとしても、怒ったり嫌いになったりしない。私がこの世界に来て何もわからない頃から、ずっとそばで私を守ってくれてたんだもん。
しーちゃんは弟のように可愛くて、兄のように頼りになる大切な存在――そんなしーちゃんが嫌がる事だけはしたくない。
「――今、何考えてた?」
ビターさんの声にビクッと反応して見上げると、真剣な顔のビターさんと目が合った。ビターさんは、いつの間にか考えるのを止めて私を見ていたようだ。
ただでさえ顔に出てわかりやすいと言われてたのに――いくらなんでも、バレないよね?
「……話の流れ的に考えそうなのは、守ってくれてる人の事か?」
私はビクッと顔を強ばらせ、なんでわかったの!? と言うような焦った顔でビターさんを見てしまい、ビターさんはふっと鼻で笑って「当たりみたいだな」とニヤリと笑った。
「うー……びたーしゃん、じゅるい!」
「ズルくない。メティーはわかりやすすぎなんだよ……で、その人に俺らが会う事は可能か?」
「……きいてみないと……」
私が申し訳なさそうに俯くと、ビターさんは私の頭をぐしゃっと撫でた。
「そうか。別にすぐじゃなくていいんだ。いつか会って話せればな。メティーの事守ってくれてるって事は信用できる奴なんだろ?」
「……うん! なーんにもわからないわたちに、このしぇかいのことや、かみしゃまのこと、えほんでおしえてくれたの!」
ニコニコとしーちゃんの事を誇らしげに話した私と対照的に、ビターさんの表情からにこやかさが消え、驚いているようだった。
私またなんか変な事言っちゃった?
そう思いながら首を傾げると、ビターさんが真剣な表情で口を開く――
「……何もわからないって……どういうことだ?」
「っ!」
――しーちゃんの事を会ってもいないのに『信用できる奴』と言ってくれたのが嬉しくて、うっかり口を滑らせてしまった。
返事を求める視線が痛い程に突き刺さり、ドキドキと生きた心地がしない――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――メティーが崖から落ちて孤児院へ運ばれてすぐの頃、崖の上に落ちたメティーが摘んだ花を拾い、崖下を見下ろすシアの姿があった。
「メティー……ごめん」
シアがそう呟き花へ口付けると風が吹いた。
「――――」
またポツリとシアが呟いた声は風にかき消された――
お読み下さりありがとうございます!
キリよく20話で1章が終わって、21話から2章に行けるように調整して執筆中です。
2章の前に、ビターの過去話もストーリーに関連してるので挟む予定です。
カイトの過去話はここに載せるか、番外編行きにするか迷い中。
※更新遅い(気まぐれ更新すぎる)ので、読者様に安心してもらえるよう、せめて予定だけでもお知らせした次第です。完結出来るようにちゃんと頑張ってますよ~!
※予定なので、もしかしたら変更あるかもですが、なるべく予定通りにしたい(希望)




