【幕間】神を狙う者達✕神を守る者達
儂はチョコランタ王国の大臣ランドルフ・ブロバイン。
忌々しい前国王が退位したかと思えば、今度はその息子が王になる始末!
城の大臣私室にある机をドンと力強く叩く――が、叩いた手が思いの外痛くてビリビリと痺れる。
「イタタタ……くそっ!」
チッ! 前国王の息子なだけの青二才が! 魔力が高いとチヤホヤされているが、それだけではないか!
この国はおかしい! なぜ魔力が高い魔法の使えるものしか王になれんのだ! 贔屓だ! 不公平だ!
神メシアとメシスの目は節穴だ! なぜ儂の祖先に加護をあたえなかった! ふたりを大切にすればよいのであろう? 我こそがもっとも神を大切にする自信があるというのに――
――そんな儂についに神は答えてくれたのだ! 3年前の女神誕生祭でのあの光!
どんなに表情を隠そうとしても口元から嗤いが零れた。
――儂の願いを叶える為に来てくれたのだろう?
今の王になってから儂が指揮を執って神の捜索が出来るようになったのはいいが、未だになんの手がかりもないとは――
確かに光ったのに、その光を見てない兵や、忘れた兵もいる辺り――神メシアも儂に見つけて欲しいのだろうな! ガッハッハッ! 光を忘れているのに、儂に言われるがまま神の特徴を持つ者を探している兵達――滑稽な事だ。
兵達の報告を定期的に王にしてはいるが……ニコニコと「そうか、助かる」と手早く話を終わらせる辺り――神の加護持ちのくせに、神に興味無さげで腹立たしい!
賊にも捜索を頼んだが――こちらも進展がない。まったく……何処に隠れているのやら……。
神メシアよ――見つけたら儂が大切にしてあげるから、せいぜい儂の役に立つがいい――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――あれは、確か大臣がビターに神の捜索を任せれて間も無い頃、大臣の同行調査を任されたサンセは、バレないように尾行していた――
大臣が僕の予想通り、典型的な貴族の兵士に接触したのを目撃した。
――貴族と平民や貧民で身分差別があるけど、それはチョコランタ城の兵士間でも残念なことにある――兵士や衛兵、王族近衛騎士達の中には貴族や平民がいて、兵士や衛兵の中にはビターのいない所で貴族が平民に差別的扱いをしている。
貴族の中にはそりゃ良い奴らもいる。でも典型的な貴族は平民の兵達に影で偉そうにして、階級が上の衛兵に平民がなると影で文句言ったりする。それでいて貴族や平民問わず実力がある王族近衛騎士にはごますりしてすがりつく。
平民の兵達は、そんな貴族の兵士達を当然嫌ってる(当然、僕もそんな奴らは信用出来ないし嫌いだ)
ビターは王族だけど、貴族と平民の差別なく対等に接しているし、実力や人柄をちゃんとみて評価してくれる。
実力があっても人柄が伴わない者には王族近衛騎士を任せられるわけないしね。
そんな差別なき優しさが、平民の兵士達に好かれるんだろう――その評判が噂となって、国中の平民達に伝わるほどに慕われる。
その反面で、前国王の代から一般貴族の常識で考えても、型破りな王族に疑問を感じる貴族もいた。
それは典型的貴族の兵達の中にも、そう思う者がいるかもしれないと予想していた(ブライ様は、親しみやすくて楽しいし、僕は好きなんだけど……典型的貴族よりよっぽどマシだ)
――その後、大臣は典型的な貴族の兵士達に貴族街から捜索するよう指示したのか、兵士達が貴族街に向かっていくのが遠目から覗えた。
嫌な予感はしてたけど、こうもあっさり大臣側に付くとはね――ため息を吐いて僕はまた思考を巡らす。
大臣は私室に篭もり動きがなさそうだ。
貴族街に見にいくべきか……けどその間に大臣に動きがあるかも知れないし――でも、やましい事をするのに目立つ明るいうちは早々動けないだろう。
他の王族近衛騎士に念の為見張りを頼んで、僕は貴族街に行った兵士達を見張ろう。
王族近衛騎士は、懐刀と言われる僕ら3人の他に7人いて、計10人いる。
王族近衛騎士は、直訳すればビターが信用する人柄と実力もある者達なわけで、僕も安心して彼等を頼る事が出来るんだ。
――貴族街に着くと、兵士達がちょうど捜査が終わって去っていったのか、館の入口で侍女達が一礼して遠くにいる兵士達を見送っている所だった。
この国には姿が見えなくなるまで見送る風習がある。と言っても貴族達は侍女達に任せたりが多いけどね。
――館に入ろうとしていた侍女達に声をかけ、最初に謎の光の事を尋ねると、パーティーに参加した令嬢は見たけど、館の者達は誰も光を見ていないと答えた。
やっぱり城の大広間にいた者だけが光を見ている。
――後に大広間にいた者達の大半が、光を見た事を覚えていないと言い出した時は、さすがの僕も驚いた。(冷めてると自覚している僕は、大抵の事じゃ驚かないからね)
ビターにある条件を満たした者だけ光を覚えていると言われて、光を覚えていた僕はすぐに察した――神への執着……か――
確かに、僕は絵本のメシア様以外に心がときめいた事は1度もない。自分でもいい歳してとは思っている。
でも、次男の僕は無理に婚姻して家を継がなくて良いだろうと思うと、女なんてどうでもいいと思えてしまった。
昔の擦り寄ってくる令嬢達のイメージで、どうにも嫌気がさす――
――最後に、館に来た兵士達が何をしていたかと尋ねると――
「……白銀の髪と青い瞳を持つ者と、白銀の髪と赤い瞳を持つ者を探しているとのことでした」と、侍女が答えた。
――赤い瞳だと!?――
僕は動揺と怒りを悟られぬよう、必死に微笑みを貼り付けて隠し、お礼と聞き込みに来た事の口止めをする。
猫被りな紳士を装った僕の微笑みとウインクひとつで、簡単に手なずけられる彼女達に助かる反面、申し訳なくも思う。
――僕はその館のみの確認で城へ帰還すべく歩き出す。
多くの証言を得ようとすると、目立って広まりかねないからだ。それに僕にはもう、にこやかに証言を聞く余裕もない。
――両方の神を探すということの意味は……ひとつしかない……ゲス豚が!――
僕の出した殺気に、近くの木に留まっていた鳥達が一斉に飛び立っていった――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――貴族街への調査を頼んだ日の夜半、大臣私室にて椅子にどさりと腰掛ける。
その日が待ち遠しく笑みが止まらない。
「儂はふたりの神を手に入れ、王となるのだ……そして……フハハハハ!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――マカダミア研究所に黒い靄で帰された緑髪の白衣の男、ケールは不満タラタラだった――
アイツは、ほんとに私の邪魔しかしないな! あの異形生物もよく出来ていたのに……。
それでもアイツの手にかかればお遊び気分で瞬殺とは……化け物め……クックック……いつかアイツを調べたいなと思った所でゾクッと悪寒が走り、先程のアイツが思い返された――
『次その目で僕を見たら殺すよ?』
あの時は恐ろしい殺気に生きた心地もなく変な汗をかいた。
異形生物を簡単に殺されるのを見る度に、腹立たしい気持ちよりもアイツを調べたい気持ちが募り、先程もついそう思って見てしまった。
――すると、ドーンと大きな音と共に地鳴りのような音がした。
またアイツが何かしたのか!?
音のした方角に嫌な予感がして、その方角が見える窓がある場所に向かうと、既に野次馬が集まっていた。
クックック……ここに集まる研究者達は、アイツの事を知らないからお気楽なものだな。
アイツは、決まった者の前にしか姿を見せる事がほぼない。
その意味では私は恵まれていると、視線を連中から窓に移すと――山が崩落している!? チッ! あの馬鹿野郎が! どこまでも私の邪魔がしたいのか!?
おっと……こんな事を思ったと知れたら即殺されそうだ。アイツは妙な所で鋭いからな。
持ち帰って来る手筈のあの狼の異端の獣人さえ手に入れば、あそこに悔いはない……見た目弱そうなウサギの異端の半獣も気にはなる所だが仕方ない。
――しばらくして再びドーンと先程より大きな音と地鳴りの音がした――アイツどんだけ暴れるんだ!?
とりあえず、アイツが戻って来た時顔を出す決まりの、限られた者しか入れない研究ルームで帰りを待つ。
――扉が開く音がしてジロっと見ると、飄々と入ってきたアイツの手には――何も持っていないだと!?
「おい! 狼の獣人はどうした!?」
「あー……ごめん忘れちゃった」
気だるいちっとも悪いと思ってなさそうな返事に苛立つ。
「お前が連れ帰って来るって言うから、こっちは大人しくあの場から帰ったんだぞ!?」
「だから、ごめんって」
「お前な! ちょっとばかり強いからっていい気になるなよ!? いつもいつも邪魔しかしないじゃないか! ちゃんと神メシアを探してるのか!?」
ゾクッと悪寒が走り言い過ぎたと悟る。
「……ちょっと? へー……そんな奴に邪魔されるなら黙らせたら? 出来るならだけど? あと、ちゃーんと神は探してるよ?」
殺気を放ちながらニヤリと嗤う――相当ご機嫌ナナメにさせてしまったのか、わかりやすく強調させて嫌味ったらしいが、黙らせようものなら間違いなく死人が出る。
コイツに冗談なんてものはないに等しい。正確には、飄々としてるから冗談か本気かわからない。むしろ殺気のせいで本気に見えてしまう。
「……お説教は終わり? ならもういいよね?」
殺気で黙らせて話を勝手に終わらせ、スタスタと研究ルームを出て行く自由奔放さ――ムカつくが逆らえないのが現状だ。
神の捜索や、武力はアイツ頼みだし仕方ない――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――メティー久しぶりに会えて嬉しかったよ……また早く会いたいな――
――ラビの父親の記憶に映った白銀の髪に青い瞳の半獣の少年――
――シア……か――




