第14話 謎の少年②
「――大丈夫?」
声にハッとして、頭痛で俯いていた顔を上げると、心配そうな顔の謎の少年と目が合う。
「……うん……わたち、きおくがまいごなの」
「そう……なんだ……じゃあ僕の事忘れちゃった?」
「え?」
それって、私はこの少年の事を知ってるはずの言い方だよね――哀しげな少年の瞳に見つめられて居た堪れない。
「めてぃしゅくん……ごめんね……」
メシスだけどメシスじゃないと言われて呼び方に困ったけど、1番しっくりくるのは『メシスくん』だった。
メシスくんは「気にしないで」と私の頭をぐしゃっと撫で、トンネルの方へ視線を向けたから、私も釣られてそっちを見ると――ラビくんと、ラビくんのお父さんと、ロウさんと一緒にいた狼の獣人のふたり組がちょうど姿を現した。
「メティーちゃん!」
「……メティー?」
ラビくんの呼び方に、メシスくんが不思議そうに首を傾げる。これはサンセの時のデジャブかな――と苦笑いするしかない。
サンセの時と同様の説明をしたら、案の定同様の反応でクスクス笑われた。
ええ、わかってましたとも! 上手く喋れなくてごめんなさいね!
プクッと頬を膨らませて拗ねると――メシスくんがしゃがんで私の目の前にメシスくんの顔があると思ったら――
「なんで拗ねてるの?……メティーって呼び方可愛いと思うけど(……僕もメティーって呼んでいい?)」
最後に耳打ちでボソッと言われて、一気に顔が熱くなる。
メシスくんっていろいろと心臓に悪い! 何とか頷いて返事をしたけど、まだドキドキして顔が熱い!
そのせいでぼんやりしてる内にロウさんは既に運ばれ、メシスくんはラビくんのお父さんと何か話してたみたいだけど――それも話し終わったのか、ラビくんのお父さんはラビくんと手を繋いでふたりで街へ戻って行く。
私も慌ててついていこうとすると――メシスくんの左脇に抱えられるように片手で持ち上げられた。
「危ないからジッとしてて?」
「へ?」
「今からこのトンネルを塞ぐから」
「ふしゃぐ……って、え!?」
「『緑頭』が来るならここからしか来ないだろうから、塞げば獣人達の安全は守られる」
「みど……あ! しゃっきのらびくんたちとのおはなちー?」
――緑頭ってさっきのクックックの人の事!? さすがに緑頭ってあだ名はどうなんだろう……(そんな私は、クックックの人で大概酷いけど……)
「うん……その代わり狩りを出来る場所が減るって言われたから、別の入口も作る事にした」
そんな簡単に出来ちゃうものなの? ケロっと当然のように言われると、簡単なのかぁーと私の思考すら簡単に深く考える事をやめたら――
――なんということでしょう! 宙に浮いてるではあーりませんか!
そう思いつつ後ろの方へ視線を向けると、メシスくんから黒い天使のような羽がいつの間にか出ていた。
これで空飛べるんだ! いいなぁ! もはや私は、初めて空を飛んだ事で子供のようにはしゃいでいた。
トンネルの出口の真上に着くと、メシスくんが右手をトンネルの出口を指差すように構え――
「……闇の行進曲」
そう呟いたと思ったら、メシスくんの指先から細いレーザービームのような黒い光が、出口の真上の山に雷のように落ち、ドーンと大きな音を立てて土砂が崩れ出口を完全に塞いだ。
――はしゃいでいた顔がひきつるように固まった。
驚くべき事は、本来は手を広げて放つ技らしく加減したと後に言われた事! 人差し指だけでこの威力って……メシスくんは味方? お願いだから味方でお願いします! 細い線でこの威力でしょ? 敵だったら勝てる気しないよ?
そんな事を考えて気分が沈んでいると――キラキラ光る海が視界に入り「わぁー!」とあっさり回復するお子様特有の単純気分。
獣の街ザルクの北側に、両側が山で閉ざされた空間――まさにプライベートビーチのような陸地と砂浜が広がっていた。
「マカダミア国の海沿いは山で囲われてるし、チョコランタ王国も北側は山だし、獣人達には安全だと思う」
そう言って北側の陸地に降り立ち、脇に抱えられた私も降ろしてくれた。
メシスくん、獣人達の事ちゃんと考えてくれてる――そう思うと嬉しくてニコニコ微笑む――
「めてぃしゅくん、やしゃしーね」
「……僕は別に優しくないよ? 獣人達の事をメティーが気にしてると思ったから」
メシスくんはそう否定しつつも、向けられた微笑みはとっても優しくて――私の為にしてくれたように聞こえて、ドキドキする。
ドキドキした所で、単なるお子ちゃまへのご機嫌とりなんだから……子供に優しいのは当然と思って、イケメン耐性付けないと……いちいちドキドキしてたら身が持たない!
――気付くとメシスくんは絶壁の山の方に歩き出していたから、慌てて追いかける。
「ここにどーやってあけりゅのー?」
メシスくんは黙って山壁に触れると、メシスくんの瞳が赤く光ってる!?
しばらくしてメシスくんが「……なーるほど」とニヤリと楽しげに笑った。
それを見て、私が何が何だかわからない顔をまたしていたのか、メシスくんにクスクス笑われた。
「……実はさっき、ウサギの獣人の記憶を見せてもらって、街の見取り図というか……街の状態を把握させてもらったんだよね」
――今、サラッとすごいこと言ったよね!? 記憶を見せてもらった!? 街を把握って……すごすぎて言葉が出ない。
「で、今はこの土の中の闇の力を通して見たんだけど……」
「ふぇ!?」
「あ……記憶が……そっか……わからないよね」
またサラッとすごいこと言われて、素っ頓狂な声をあげると、メシスくんが察して『メシアとメシスの絵本』に例えて説明してくれた。
メシアが光、メシスが闇の属性のいわゆる【魔法】を使えて、加護を授けた村人はいろんな自然の【相性のいい属性魔法】を授かった。火、水、風、土などといったのが自然の属性らしい。
その自然属性の魔法の中にも光寄りと闇寄りがあって、簡単にいえば殺傷力の高いのが闇寄りで、生活に役立つのが光寄りといった具合らしい。
――さっきのメシスくんが土の中の闇の力を通して見たというのは、闇の力を持ったメシスくんが土の中にある闇属性に語りかけ目を借りたってことらしい!
「じゃあ、わたちもおねがいちたらできりゅー?」とウキウキジャンプして尋ねると――メシスくんはフワッと優しく微笑んだ。
この顔の意味が何となくわかった。ちびっ子は可愛いなーってほのぼのした微笑みだ! イケメン耐性を速やかに付けなくては……ほんとに心臓持たないってば!
「慣れればメティーなら好かれそうだし、出来るかもね」
相性が悪いとお願いしても聞いてもらえない事もあるんだとか。役に立てるように頑張って慣れたいなぁ――
「――闇の行進曲」
さっきのが可愛いレベルの黒い太くなった光線が頑丈そうな山壁に容易く穴を開けた……ほんとに敵だったら洒落にならないよ?
――外からの見た目は、良い感じのトンネルっぽいけど……街は大丈夫かな?
「……ってことで……またね」
「え? どこいくのー?」
「……研究所」
その言葉に一気に不安になって、メシスくんの足元にしがみつく。
「いっちゃやーの! えほんみたく、いっちょがいーの」
「……また会いに行くから」
優しく頭を撫でて私を宥めてくれるメシスくん。
頭をブンブン振ってしがみついて駄々をこねる私。
単純に敵になっちゃヤダって気持ちも当然あるけど、魔法の事とかもっと聞いて勉強したかった――メシスくんの事ちゃんと思い出せないのも、一緒に居ればいつか思い出すかもしれない。
――それでも、私の願いは届かず「メティーちゃん!」と出来上がったトンネルからラビくんが出てきたのに気をとられた内に、メシスくんは黒い靄を使って「またね」とサッと消えてしまった――
――その後、続々とトンネルを通って獣人達が出てきて、ここなら狩りに出ない人達も日の光を浴びれると喜んでいた。
問題は、トンネルの奥――繋がったのは儀式をした広間だったんだけど、トンネルを開けた分の大量の土砂がドッサリで、しばらくは土砂を運び出す作業に追われる羽目になった獣人達なのだった――




